第520話 異世界カジノ経営で稼げ!
ガスマンから受けた特殊状態異常は、なかなか解除されなかった。もしかしたら、俺はずっとショタのままなのだろうか……?
ただ、まあ……女性陣からのウケはかなりよく、俺は問答無用で頭を撫でられたり、抱きつかれたりなどなど、好き放題されている。正直、子供のままの方がいいかもしれない。
「……サトル殿、なのですか?」
島に戻ってきたミクトランは、眼鏡を曇らせて驚いていた。
愕然って感じだ。
「ああ、俺だ。ガスマンって魔人に噛まれてこうなっちまったよ」
「ふむぅ。こんな能力を持つ魔人がいたとは……初耳ですね」
「いや、そんなことはないぞ。あんたの元大神官だったらしいし」
「……元大神官、ですか。……ああ!」
「思い出したか?」
「大神官フロリアンのことですね」
ミクトランによれば、神王アルクトゥルスとして活動していた時に人間界からスカウトした男らしい。もともとは若くて聖者だったようだ。
そんなフロリアンも歳を取り……老人に。
そこでミクトランは、彼を大神官に任命したようだった。
だが、ある日。
フロリアンは、虹の空中庭園を去った。……いつの間にか“闇落ち”していたんだ。
サリエリの誘惑に乗り、彼は魔人となりガスマンと名乗るようになった――というわけらしい。
「ああ、フロリアンね」
と、ベルが興味深そうに横から入ってきた。そや、知っているのか。
「なんで闇落ちしたんだ?」
「確か、神様になりたかったから。でも当然、そんなの却下だから」
――なるほど、それで闇落ちか。
大神官では満足できなかったのか。
野心があったんだろうが、まさか魔人になるとは。
「ベルの言う通りです。彼には私を支える存在であって欲しかった」
「残念だったな」
「ええ、非常に残念です。ですが、魔人となった以上は倒すしかありません」
「さっきぶっ飛ばしたし、大丈夫だろ」
「ですが、サトル殿の特殊状態異常が解除されていない。つまり、そういうことです」
まだヤツは生きてるってことか。
俺のエンデュランスを受けて生存するとは……伊達に魔人ではないということか。そもそも、子供の姿では威力もそれほど発揮できていなかったのかもしれない。
まあいい、次に現れたら塵にしてやるさ。
◆
メサイアの作ったカジノへ入ってみた。
どこから人を連れてきたのか、ディーラーやらバニーガールがきちんと仕事をしていた。本当にどこから引っ張ってきたのやら。
お客さんもそれなりに入っている様子。
主に貴族だが、金持ちそうな冒険者もいる。
スロット台には、グレンの姿も――って、グレン!?
「おい、なにやってんだ」
「……あ? なんだ、子供じゃないか。子供が入っていい場所じゃないぞ」
そうだった。
今の俺は“子供”だった。
「俺だよ、サトルだよ」
「なに寝ぼけたこと言っている。お前がサトルなわけなかろう」
全然信じていないな。てか、そう思うとちょっと不便ではある。
一緒についてきたメサイアが説明してくれた。
「グレン。この男の子はサトルで間違いないわ。魔人から状態異常を受けてこうなっているの」
「おや……メサイア様。となると、本当に」
ジロジロ見てくるグレン。俺は「本当だ」と睨み返す。すると、ようやくグレンは信じた。
「……子供になってしまうとはな」
「まあな。いつ戻るか不明だ。しかし、出ていないようだな」
「ああ……破産しそうだ」
死にそうな表情と声で答えるグレン。顔が紫色に変色しとるぞ。相当、つぎ込んだっぽいな。グレンってギャンブラーだったのか。
少し離れたスロット台にはフォルの姿もあった。座って一発でスリーセブンを当てていた。この光景、いつしか見たことがあるな。
そうか、あれは『花の都フリージア』だったな。
「おい、フォル。当てすぎるなよ。ここ、メサイアがオーナーなんだから」
「だって当たってしまうんですもん。でも、姉様には悲しんで欲しくないので、ほどほどにしておきます!」
コイツはいくらなんでも運が良すぎだ。
少し歩くと、ルーレットにリースの姿があった。真剣な眼差しだ。
「――では、赤に!」
どうやら、リースはカラーに賭けているようだな。数字にするよりはシンプルでいいけどね。
カラカラと回り始めるルーレット。祈るように見つめるリース。
やがて球は【3】の赤ポケットに。
「おぉ、やったな! 配当二倍だぞ」
「わぁい! ありがとうございます、サトルさん」
笑顔を向けられ、俺は照れた。リースの天使の笑顔には敵わん。
それにしても、みんな景気がいいな。
メサイアはオーナーとして利益を出しているし、ベルはバカラで勝っているようだし。
グレンは破産寸前だけど。
「ふざけんじゃねえッ! イカサマだろ、こんなクソカジノ!!」
突然、声が響いた。
バカラの方らしい。
俺は急いで向かう。
そこにはベルの姿があったが、石のように動かなかった。無関心らしい。
一方で貴族らしき男が発狂していた。何度もイカサマを連呼。女性ディーラーが困っとるぞ。
「あ、あの……イカサマなんてとんでもございません!」
「じゃあ、このビキニアーマーの姉ちゃんは、なんで連勝してるんだよ! おかしいだろ!」
どうやら、ベルは一回も負けなしで勝ち続けているようだな。
だからってイカサマ扱いはちょっとな。
「おい、おっさん。俺たちのカジノにケチつけるんじゃねーぞ」
「んだとぉ!? ガキが!!」
俺は突き飛ばされそうになるものの、ベルが阻止した。
「ちょっと、ダメだよ。この男の子はね、わたしの子なんだから」
ベルよ。その言い方はちょっと誤解を招くといいますか!
心の中でツッコんでいると、男は腕をひねられ体ごと床に打ち付けていた。
「な――ぎゃふぅあッ!?」
助かった。さすがにカジノ内でオートスキルを発動できないからな。建物やら破壊したら、メサイアに怒られるし。
さて、この男はカジノから追放だな。




