第519話 小さくなっても最強の俺
体が縮んていくような感覚があった。
――いや、これは確実に小さく……おい、マジか!
「サトル!! あんた、体が!!」
メサイアの声が響く中、俺の視線はどんどん低くなり――やがて女子たちよりも低身長になっていた。……な、なんだこりゃあああ!
「こ、子供になっちまったのか……俺」
困惑していると遠くでフォルが「兄様が十歳くらいの子供に……!」と混乱が。背後のリースも「サトルさん、そのお姿!」とパニックというか、キュンときてるような声だった。
そして、ベルは頭が真っ白になっているようで言葉を失っていた。
そうか、俺は子供になっちまったのか。
両手を見つめると明らかに小さくなっていた。肌も白くてツヤツヤだ。……あぁ、俺は本当に体が縮んてしまったのだと理解した。まるで某名探偵のようだな。
「あのジジイの力か……」
のそのそと立ち上がるガスマンは不敵に笑っていた。
「そうだ。貴様を噛んだ時に特殊状態異常『逆行』を注入したのだ」
「なん……だと!?」
「これを受けた者は体が若返る。ただし、そのスピードはとても早くて本来なら赤ん坊――もしくは消滅しかない」
そうか、それでさっき“お前という存在は消えてなくなるのだ”と言っていたのか。なんて恐ろしい状態異常だ。てか、こんなのサクリファイスオンラインにはないだろ!
ないけど、世界は常に変化している。
あらゆるスキルがあるように、きっと状態異常もあらゆる種類が派生しているんだ。
「そうかよ。むしろ若返らせてくれて助かったぜ!」
「フッ。小童に何ができる」
「ショタで十分さ! なぜなら、俺の超覚醒オートスキルはそのままだからだ!」
今度は、任意で『覚醒煉獄』を発動するが――ぼうっとボヤが出ただけだった。
「……なにをしたのかね?」
「え、あれ……」
ま、まさか能力まで弱体化している……のか? そんなバカな!
焦っているとガスマンが突撃してきた。物凄いスピードで。……やっべ、殺される!? いや、何度か死なないけど、それでも危険を感じた。復活しても直ぐ殺されたら、命のストックなんていくつあっても意味がない。
やべぇ!
「ぐああああああああああぁっ!?」
「へ……」
気づけば、円状の光がガスマンを切り裂いていたんだ。こ、これは俺のスキル『ホーリーブレード』じゃないか!
「危なかったわね、サトル!」
「メサイア、おまえの力か?」
「ええ。あんたのオートスキルは子供になると共に火力レベルが『1』まで低下していたの。だから、私がいじって『100』まで上げておいたわ」
なんだその音量のボリュームみたいなの!
てか、火力調整とかできたのかよ。
しかしそうか。その火力レベルのせいで、覚醒煉獄がボヤ程度だったわけだ。
今は超覚醒オートスキルが反応して、ホーリーブレードを発動してくれたわけか。運がよかった。
「…………ぐ、ぬ。子供になっても、この強さか」
「ったりめえよ。俺には女神がついているからな! ……あ、今は死神だけど」
ふぅ、メサイアがいて良かったぜ。
これなら勝てそうだ。てか、さっさとぶっ倒す! これ以上は面倒だから!
「こうなれば最強の魔法で貴様を消滅させてやるッ!」
ボコボコと全身の筋肉を膨張させるガスマンは、魔力を底上げしていた。……げぇ、なんて野郎だ!
こんな禍々しい魔力を感じるのは久しぶりだ。まずいな、レイドボスを超えている。
「まずいよ、理くん。このままだと島全体が危険だ」
さすがのベルも眉間に皺が寄っていた。コイツがこんな険しい表情をするということは、かなりヤバイってことだ。
「もう遅い! 死ねぇええッ!」
ガスマンは赤い光を膨張させるが、俺はその前にイミテーションで死神スキルをコピーし、発動。この状況を察したメサイアが俺に魔力を送ってきた。
「うるせええええッ! オーバードライブからの……エンデュランス!」
「……え、うあああああああああああああああッ!!」
山よりも大きな光がガスマンを飲み込み、ぶっ飛ばしていた。
あぶねーあぶねー、危うく島ごと吹き飛ばされるところだった。
撃退できたことに安心していると、みんな俺の周囲に集まっていた。メサイアもリースもフォルも、そしてベルも。
「か、かわいいっ」
と、迷いなくリースが俺に抱きついてきた。あらゆる感触が俺を包む。
「わっ! リース!」
「サトルさん、小っちゃくて可愛いです!」
いろいろと当たって幸せすぎるんだがっ!
しかし、こう全身を包まれるという経験は、本当に子どものころ以来だぞ。いや、子供の頃でもあったかどうか。
「あ、兄様が……子供に……じゅるり」
フォルがヤバイ顔して俺に近づいてきた。てか、聖女のする顔じゃねぇっ!!
「へ、へえ……懐かしいね、理くん」
妙に頬を赤くするベルも落ち着かない様子。……なんか怖いんですけど!
「……こんな、こんなことって……」
わなわな震えるメサイアは赤面さえしているように見えた。……えぇ。
「大丈夫か、メサイア」
「あんたって子供のころは、こんなに可愛かったのね……! 天使じゃない!」
そういうことか!
子供のころは誰だって可愛いだろう。俺が特別じゃないと思うけどなぁ。
しかし、女性陣にはかなりよく映っているようで、俺は揉みくちゃにされるのであった……。
――こ、これはショタの方がいいかもしれんな……!




