第509話 裁縫スキル習得!
無人島に名前はない。
無人島なのだから当然――か。
まさか本当に海へ来てしまうとはな。息抜きにはいいが、あとはちゃんと結界を展開してもらわないとな。魔人サリエリに襲われたら面倒だぞ。
「ミクトラン、さっそくだが……」
「ええ、分かっています。では――ミレニアム!」
ブゥンと不思議な音と共に透明な壁が広がっていく。それは数秒もすれば無人島全体を覆っていた。……さすが元神様というか。
これでどんなモンスターだろうが、魔人だろうが攻撃を受け付けない。
気にせず遊べるってわけだ。
「――ぶふっ!」
ドンッと音がして、メサイアが仰向けに倒れていた。
頭にはヒヨコがピヨピヨと――って、なんか気絶してるし。
「どうした? ん……この目の前の壁はミレニアムだよな」
「申し訳ない。浜と海の境界で結界を張ってしまいました……!」
ミクトランのミスかよ!
てか、これでは泳げないわな。
「メサイアさん! ど、どうしましょう……!」
「リース、落ち着きなさい。わたくしがヒールをしますので」
目をぐるぐるさせて慌てるリースを宥めるフォル。こんな時は冷静だな。
フォルは、手のひらをメサイアに向け――グロリアスヒールを発動。一瞬で回復して意識を取り戻していた。
「……む、う。って、ゴラァ! ミクトラン、なにしてんのよ!」
「も、申し訳ない。今度はきちんと範囲を広めてありますので、ちゃんと泳げます」
いつの間にか水着姿になっているミクトランは、そう言った。――って、そのサーフパンツどこで!
なんだか、やたら派手な花柄だなぁ。ここが異世界であることを忘れてしまうほどに違和感があるが、深く考えないでおくか。
「大丈夫か、メサイア」
「なんとかね。それより、サトルも着替えなさいよ」
「え? 俺は水着なんてもってないぞ」
「じゃあ、裸で泳ぎなさい」
「ば、ばかっ! そんなヘンタイ行為ができるかっ!」
「ここは無人島よ。誰も見やしないわ」
目をハートにしているフォルはともかく、リースとベルもいるんだぞ。ミクトランもな。もれなく俺は超ヘンタイの烙印を押されるわけだが。
「理くん。これを使ってよ」
妙に微笑むベルが布切れを差し出してきた。……ナンダ、コレ?
広げてみるとVラインのメンズ用水着だった。
って、こりゃあ、ほとんどパンツじゃないか!
「お、おい。ベル、お前こんなのどこで」
「新たなスキルを習得したんだ」
「詳しく言ってみろ」
「裁縫スキルだよ」
「なん……だと……」
ここ数日ずっとステとスキルに悩んでいるかと思えば、そんなユニークスキルを取っていたとは。てか、シールドスキルはちゃんと習得してあるんだろうな!?
戦力外になっていないといいが。
それにしても、裁縫スキルで海パンを作ってしまうとは……そや、ガチの従妹だった頃は手先が器用だったな、コイツ。
「ちなみに、自分の水着も作ってみた」
くるんと一回転すると一瞬でビキニになっていた。てか、いつもとほとんど変わらねえ……! 違いが分からんってーの。
「なるほど。メサイアたちの分もお前が作っていたのか」
「うん。シアに頼まれてさ」
つまり何か。ステ・スキル振りをしていたついでに水着を作っていたせいで、ずっと集中していたのかよ。
そんな前からバカンスを計画していたとはね。
海パンを受け取り、俺は着替えることにした。
こんな恥ずかしい水着をつけることになるとは――いやしかし、俺もちょっと泳ぎたい。というか、みんなの水着この目に焼き付けたいッ!!
草むらで水着に着替え終え、浜へ戻るとメサイア、フォル、リース、そしてベルは謎の触手に絡めとられていた。
な、なんだこの巨大モンスター!!
「サトル殿……大変なことになりました」
「真剣な表情と口調で言わなくても分かっとるがな! ミクトラン、どうしてこうなった!」
「あなたが着替えている間に砂の中から、このモンスターが出現したのです!」
しかもデケェ……なんだこの“竜”に近いようなフォルム。だけど、魚系には違いない。まるで深海魚のような――!
【リュウオウノツカイ】
【詳細】
竜王の使いと言われる深海魚モンスター。
砂浜の中で寝ていることがある。
クラゲ系モンスターのような触手を複数持つ。
「くそっ、またしても触手かよ!」
「どうか、メサイア達をお救いください……」
「いや、まて。ミクトラン、あんたも戦えばいいだろう。一応、元神様なんだから」
「それは不可能ですね」
「なぜ?」
「私は今、ミレニアムを“同時”に発動中。これ以上の魔力は持ちません」
眼鏡を輝かせながらキリッと答えるミクトラン。そういうことね……!
確かに、花の都ネオフリージアも守っているとなると無理があるか。
「分かったよ。俺のオートスキルでなんとかしてやらァ!」
「その意気です。サトル殿!」
リュウオウノツカイに向かって走り出す俺。
「助けてくださぁい、サトルさぁぁん!」
白い液体でベトベトになるリースはそう叫んだ。てか、なんだあの乳白色の液体は! リュウオウノツカイのなにかしらの成分だと思うが――妙にいやらしく映っているのは気のせいだろうか!
「説明しましょう。あれはリュウオウノツカイが発する麻痺成分のある液体。触れれば身に力が入らなくなる恐ろしいものです」
さすがミクトラン、博識だな!
なるほど、あのリュウオウノツカイの液体はそんな状態異常の効果が。厄介だな。
なら近づかなければいいだけのこと。
俺の【オートスキル】なら勝てる――!




