第507話 女神、再び死神になる
【ネオポインセチア城】
テコでも動かなさそうなベルをなんとか連れ出し、いつものパーティでネオポインセチア城へたどり着いた。
城は相変わらず、警備が緩い。
ほとんど人がいないように見えるのだが、大丈夫なのだろうか。
アグニによれば、なにか用があるらしいが――また面倒な案件でなければいいが。
玉座にたどり着くと、早々にミクトランの姿があった。
澄ました笑みを浮かべ、俺をまっすぐ見つめる。なんで、俺を見つめる。
「ようこそ、サトル殿。おぉ、メサイアにリースさん、フォルトゥナ様にベルもいますね」
それぞれを見つめるが、ベルだけはステータス画面に夢中だ。コイツはいつまでステ・スキル振りをしているんだか。
「――で、ミクトラン。俺に用ってなんだよ」
「そう慌てることもないでしょう。たまにはお茶でも味わいながら、ゆっくりとお話しましょう」
指を鳴らすミクトラン。すると、奥から複数のメイドと執事が現れた。畳を高速で敷き、正方形のテーブルを目の前に並べ、湯飲みと茶菓子を置いていた。
西洋風のお城にコタツと茶菓子って合わねえ~~!
「お茶会じゃあるまいし」
「いいではありませんか、サトル殿。その昔、小屋でこうして話し合ったこともあったでしょう。アレの再現です」
結構昔の話だな、それ。
いや、しかし城にこれは……ちょっと違和感ありすぎだが、グチグチ言っていても話が進まないので俺は考えるのを止めた。
「ねえ、サトル」
「なんだ、メサイア」
「本当にお茶会をする気……?」
「仕方ないだろう。王様の要請なんだから」
「そ、それはそうだけど」
「断ったらネオフリージアを追い出されるかもしれん。そうなりゃ、魔人と戦う羽目になる。今は、王様の守護スキル『ミレニアム』で守られていることを忘れるな」
「……そ、そうだったわね」
メサイアは、渋々ながらも納得していた。素直でよろしい。
コイツはミクトラン(実の父親)を目の前にすると、妙によそよそしくなる。たまには話し合ったっていい。たまにはな。
というわけで、即席の畳に上がった。てか、畳をよく用意できたな。八畳スペースでなかなか広くて快適だ。
その中央にコタツがぽつん。
確かに、小屋生活を彷彿とさせる風景だ。
腰かけると、ミクトラン自らお茶を淹れた。王様がお客をもてなすなんて……あっていい光景なのか?
「いいのか、そんなことして」
「細かいことは気にしないことです。それに、立場で言えばあなたの方が上ですよ」
そりゃ――そうだが。
「さすが兄様。王様を足で使うとは!」
「それを言うならアゴだ。てか、語弊があるぞ、フォル。どう見て率先して給仕しとるって」
「そ、そうですね。申し訳ありません」
王様から淹れてもらった緑茶を上品に飲むフォル。聖女が正座して……湯飲みをもっているなんて、この世界でしかないかもな。
「ところで、メサイア」
と、ミクトランが口を開く。
まさかメサイアをご指名とはな。
そんな彼女はビクッと反応を示し、少し警戒したような瞳を浮かべていた。なんでそんな警戒心むき出しの猫のようなんだよ。
「……なによ」
「死神になりませんか」
笑顔でミクトランは言った。――って、まて! それ、俺が言ったヤツ!
「はあ!?」
「知っての通り、サトル殿の蘇生回数がもうありません。次に死ねば本当に消滅することになる」
その真剣な眼差しと声に、一同は震えあがっていた。というか、俺が一番ビビっている。いくら神様で最強とはいえな。
ああ、そうだ。神様なんて称号は飾りに過ぎない。
「そんな、サトルさんが……あぅ」
目をぐるぐる回すリースはショックを受けて気絶していた。
「ちょ、リース! いくらなんでも悲観しすぎですって」
フォルは必死にリースの体を擦るが――あれは当分起きそうにない。それほどリースの乙女心は繊細なのだ。
「……ミクトラン、わたしが死神になればサトルの蘇生回数は増えるのね」
「ええ、確実に。この前、サトル殿には『黒い魔導書』を差し上げました。あれには“死の呪い”の残留が。つまり、一時的に死神になれるんです」
妙に爽やかに説明するが、気に食わん。
「おい、ミクトラン。死の呪いはかつて世界を滅ぼしかけたウイルスみたいなもんだろ。そんな物騒なモンを使って大丈夫なのか? また滅亡とかカンベンだぜ」
そうだ、俺たちが苦労してアルラトゥを倒したんだ。それが無意味になっては……本当に意味がない。
今、ただでさえ魔人なんて厄介な存在に粘着されているんだからな。
「大丈夫です。少量なら」
「そんな適当な」
「それに、魔人サリエリを倒す方法に死神の力も必要です」
「なんだって……?」
「よく考えてみてください、サトル殿。メサイアは、かつてオルクス、プルート、モルスと共にサリエリを封印したのですよ」
言われてみればそうだな。死神の強い力なら、ワンチャンあるということか。
俺の蘇生回数を増やすためにも。
「メサイア、俺の為に死神になれ!」
「……はあ、仕方ないわね。もう一度だけ死神になるわ」
「おぉ!」
素直に返事をしてくれるとはな。これは驚いた。
だが、メサイアは「ただし!」と、ちょっと待ったをかけた。何事!?
「ただし?」
「魔人サリエルと戦う前に、ちょっとバカンスへ行きたい! 久しぶりに海へ行くの。それが条件よ」
「なにぃ!?」
要は遊びたいのかよッ!
しかし、まあたまにはいいか。気分転換をあんまりしていなかった気がするし。
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