第506話 暗闇に包まれた俺
部屋に戻れば、もうみんな夢の世界へ。
……クソッ、一歩遅かったか。
ベッドも占領されちまって、俺の寝る場所がなかった。
メサイアもリースもフォルも……なんて幸せそうに寝ているんだ。ベルの姿はないが、きっと別室で寝ているのだろう。
俺も寝よう。ソファで。
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【翌朝】
俺は目を開けたはずなのだが、暗闇の中に囚われていた。
おいおい、どうなっているんだこれは……? まさか、俺は状態異常の暗闇でも受けたのだろうか。――そんなわけはない。
だがしかし、視界が真っ暗とはどういうことだ?
「……むぅ?」
この妙に柔らかい感触はなんだ。
って、まさか!?
ガバッと顔をあげると、目の前にはリースの谷間が目前に! しかも、寝ぼけて寝間着を脱いでしまったのか、艶めかしいことになっている。
「ふにゃー…」
そのまま抱きつかれ、俺はどうかなりそうだっ!
やばい、やばい、やばい!
朝っぱらからそれは危険すぎるってッ。
なんとかしてリースを解こうとするが、蛇のように余計に絡みついてくる。……ぐ、ぉ。
どうにかして脱出を試みるが――そんな中でフォルが目を覚ました。
「おはようございま――んなッ!? 兄様、これはどういうことですか! なぜ、リースとそんな密着を!」
「気づいたらこうなっていた。フォル、助けてくれ!」
「あ、兄様の浮気ものぉ!」
なんでそうなる!
いつもは気にしていないクセに!
いつものフォルなら、喜んで飛び込んでくるだろうに。今日はどうした。
いや考えているヒマはない。このままでは俺はリースにいろんな意味で食べられちゃう。……それはそれで嬉しのだが、いやダメだ。
紳士としてのブレーキが掛かった。
だがしかし、やっぱりフォルはヘンタイ聖女であった。
気づけば俺の背後に飛びついてきていた。……浮気だなんだの言いながらも、猫のようにスリスリ状態だ。意味が分からねえ!
「おまっ……!」
「兄様、兄様ぁん♪」
――ダメだ、この聖女……早くなんとかしないと……!
呆れていると、今度はメサイアが目を覚ました。
ぼうっとした表情と視線で俺の方を見つめる。
三秒ほどして状況を飲み込んだようで、手のひらに白い光を宿していた。――って、マテマテ! それは危険すぎる必殺スキルだろうが!
「やめいっ、メサイア!」
「……なんだ、悪夢かと思えば現実だったのね」
「どういう解釈だ。それより、助けてくれ」
「いつものことじゃない。自分でなんとかしなさい」
と、メサイアは二度寝。
いつも以上に過激になっているんですが、それは……!
◆
アーカム家の朝は、思ったよりは遅いようでアグニもグレンも中々起床してこなかった。プロメテウスすらも昼前の活動のようだ。
どうも緊張感に欠けるというか、マイペースが多いな。
という俺たちも似たようなものだけど。
朝食――いや、もはや昼食を大食堂で食っている俺たち。
そんな中でアグニが俺に声を掛けてきた。
「サトル、ミクトラン王が呼んでるわ」
「マジか」
「ええ。なにか話があるって」
「話ねぇ~…。いつもながら不安しかねえ」
あの王様はいつも厄介事を俺に押し付けるからなぁ。期待など微塵もないのだが、しかし彼の頼みごとを蔑ろにするわけにもいかない。
いくら面倒臭がりな俺でも、さすがにな。
「うまい飯であった……!」
朝からビールを飲み干すシベリウス。いつの間にかアーカム家の世話になっているようで、昨晩からほとんどグレンと過ごしていたようだ。
そのせいか、グレンは顔が真っ青だ。……可哀想に。
「もう帰ってくれよ、師匠」
「そうはいかん。グレン、お前には最後の修業が残されている」
「破門じゃなかったのかよ」
「撤回した」
「んな勝手な……」
やっぱり、コイツ等アホだ。
もうそっちは勝手にやらせておくとして、王様の元へ向かうか。
だが、その前に。
「おい、ベル。いつまでステ振りしているんだ」
「優柔不断でごめんねえ。なかなか決まらなくてさ」
まだ初期値のままらしく、型が決まらないようだ。悩みすぎな気がするが……何度も振り直せるものでもないし、慎重にもなるわな。
でも、その気持ちもわかる。
俺もかつてのサクリファイスオンラインでは、そんな感じだったからな。
「なら、お前はアーカム家にいるといい」
「そうするねぇ」
さて、今度こそ行くか。
「メサイア、準備はいいか?」
「ええ、いつでもいいわ」
機嫌は直ったようだな。
フォルは……うん、いつも通りである。
「兄様、そんな見つめられると……襲いたくなっちゃいます」
へいへい。
「あ、あのあの……サトルさん。今朝はすみませんでした」
「気にするな。俺はとしては――うん、天国だったし」
「…………は、恥ずかしいです。あんな姿で……」
リースは可愛いから何もかも許されるのだ。神が許さなくても俺は許す!! てか、俺が神だ!!
さ~て向かいますか。
ミクトラン王の住まう『ネオポインセチア城』へ――!




