第504話 魔王と魔人
メサイアの目は明らかに泳いでいた。
そんなに理由を話したくないのか……?
「なあ、メサイア。魔人サリエリと深い因縁でもあるのか?」
今度は俺が聞いた。
すると、諦めたように肩を落とし、ようやく話し始めた。
「そんなモノはないわ。――ただ」
「ただ?」
「アイツの暴走は【死の呪い】に関することだからね」
「それは以前に聞いた。魔人化した原因を教えて欲しいんだ」
「そうね。元々は女神だったわ――」
ようやく情報を寄越すメサイア。
どうやら、魔王ゾルタクスゼイアンの【死の呪い】により、死神化。更なる暴走で魔人化したようだ。
そこまではいい。
あとは“理由”だ。
「そんで、なにかあったんだろ? 魔人化しちまうような原因が」
「ええ。アイツは、私というよりは三馬鹿……オルクス、モルス、プルートと親しかったの」
「なんだって?」
「でも、魔王ゾルタクスゼイアンに襲われたある日――当時はまだ女神だったサリエルが私たちを庇ってくれてね」
そうだったのか。
女神として動いていたのなら当然か。
しかし、魔王の力の前では成す術なく、サリエルは死神化。ついでにメサイアたちも死神に染まっていったようだが。
そうか、その時に。
だが、不運なことにサリエルは暴走して魔人サリエリとなった。
魔王よりもタチの悪い存在となり、生存していた女神に襲い掛かった――と。
半分死神になっていたメサイアやオルクスたちは、そんな魔人サリエリを止めるべく“封印”の道を選んだようだな。
「なるほど、そのような事情が」
プロメテウスも納得し、ワインの入ったグラスを見つめていた。
確かに、この花の都ネオフリージアも無関係ではない。今日、サリエリは出現して襲い掛かってきたわけだからな。
貴族たちも、あの魔人の存在に頭を痛めているんだろうな。
「私からは話せることは以上よ。詳しいことはオルクスたちに聞いて」
「――まて、まだ何かあるってのか!?」
「……たぶんね」
おいおい。魔王ゾルタクスゼイアンのせいとは言えない事情があったりしないだろうな。そういう変なフラグは立てないでいただきたいものだ。
◆
アーカム家には、やたら部屋があった。
好きに使ってくれということで、俺は二階の広い部屋を借りた。アホみたいに広く、ベッドも、いかにも貴族様専用。豪華すぎてビビった。
「兄様、このままベッドの上で“凄いこと”しちゃいましょう♡」
目をハートにする寝間着姿のフォルは、俺をベッドに押し倒す。普通、逆なのだが――このヘンタイ聖女には何を言っても無駄なのである。
「ちょっと、フォルちゃん!」
薄着のリースも負けじと俺の左腕に抱きついてくる。柔らかい感触に包まれ、俺は幸せの絶頂。
これだけでも十分すぎるのに、珍しくメサイアもベッドにいた。
「……サ、サトル」
「顔が真っ赤だな、メサイア。てか、お前ら……部屋なんて腐るほどあるのに、どうして俺のところに」
愚問だと、三人とも口をそろえていった。
唯一、ベルだけは別室にいる。
まだステータスやらスキルやら調整中のようだ。没頭してんなぁ。
「もう、兄様ってば今夜はまだまだ長いんですよ~?」
妙にエロい声を出し、耳元で囁くフォル。お前はいつだってヘンタイだな!
しかし、俺の体は正直なのである。
下腹部が意志に反して暴走をはじめ、危険があぶない状況になっていた。……ああ、これはもう止められんぞ。
もうこうなったら三人まとめて――!
「失礼するぞ、サトル。――って、なんだこりゃああああああ!?」
扉を開け入ってくるグレン。
「おいおい、ノックくらいしろよな」
「何度もしたぞ!」
「マジか。気づかなかったわ」
「これはいったいどういう状況だ!?」
「見ての通りだ!」
「……う、ぐ。なんてハレンチな! 羨ましいぞ! ――じゃなくて、話しがあるんだ」
「話ィ? 明日にしてくれ」
「そうはいかん。大事な話だからな」
チクショウ。あと少しで最高の時間を送れたはずなのにな。メサイアなんか寝ちまったし。あ、リースもだな。
「ということだ、フォル。メサイアとリースを頼む」
「そんなー! 兄様ー!」
滝のように涙を流し、嘆くフォル。俺だってみんなと時間を過ごしたかったさ。グレンめ、いいところで邪魔をしてくれた! あとでチョキで殴る!




