第502話 美人エルフに隠された真実
「ルーンストーン:ウィンは在庫がございます」
丁寧に対応してくれる着物姿の女性エルフ。店員さんとは思えないほどに綺麗だ。
「あるのか!」
「はい。ただし、ルーンストーン:ウィンは現在、高騰中で値上がっております」
「ふむ。いくらなんだ?」
そう聞くと、店員さんは「100万セルです」とキッパリと言った。
その瞬間、俺は耳を疑った。
……ひゃ、ひゃくまん!?
「なんですってぇ!?」
さすがのメサイアも目を皿にしていた。
だよな。ただの触媒アイテムが100万セルは、ボッタクリ価格だ。
高騰というか、これは……!
「なあ、店員さん。さすがに100万セルは適正価格じゃないだろ」
「いえ。残念ですが、相場です」
「マジかよ」
アイテムの相場なんて普段気にしていないが、そんなに高くなったのか。……どうして。
――いや、まさか『魔人サリエリ』のせいか!
だとしても、100万セルはやりすぎだ。
「どうするのよ、サトル。お金なんてないわよ」
「そ、そうだな。さすがに100万も出せん」
いったんお店を出て外へ。
俺は腕を組み、空を仰ぐ。
100万……100万は無理だ。こんなことなら、カムランの自販機で稼いだ売り上げ……とっておけばよかったなぁ。
今から戻るの面倒だし、ルクルに悪い。
「てか、本当に相場なのかしら」
「調べてみるか、メサイア」
「ええ、そうね」
ネオフリージアの街中を少し歩いていると、見知った顔が現れた。この赤髪の少女は、アーカム家の令嬢アグニだ。
会った時と同じ、派手な赤いドレスで着飾っている。
静かにしていれば、誰もが羨むお嬢様だろうな。
しかし、彼女はそんな性格ではない。
「あ、サトルじゃん!」
「ちょうどいい」
「ん~?」
「アグニ。ルーンストーン:ウィンのことで聞きたいんだ」
「あー、今話題だよね」
「そうなのか」
「うん。魔人サリエリのせいで、みんな怖がって買ってる」
彼女によると、光の騎士マナスが情報を提供して回っているようだった。花の都ネオフリージアを、民を守る為に。
言われてみればそうか。
自己防衛の為にルーンストーン:ウィンの情報を提供するわな。
バケモノを越えたモンスターも襲ってくるだから、仕方ないわけだ。
「そういうことなのね。だから、冒険者が買いまくって暴騰ってわけ」
メサイアも納得し、腑に落ちていた。
そういう事情なら仕方ない。
しかし、それでも100万セルは高すぎやしないか……? そのことをアグニに話すと、顔を顰めていた。
「ありえないわ。いくら魔人対策とはいえ、100万セルはやりすぎ」
「だよな」
「サトル。そのお店はどこなの?」
「この近くだ。着物を着た美人エルフだったよ」
「おかしいわ。そんなお店は聞いたことがない」
「なんだって!?」
もう一度、そのお店へ向かった。
扉を開けて中へ入ると、着物の店員の姿はなかった。……あれ、不在か?
そう思ったが、アグニは怪しんでいた。
「ここ、そんな着物の女がやっているお店じゃないわ」
と、アグニは恐ろしいことを言った。
あのエルフのお店では……ない?
「な、なに言っているんだ。だって、受付で接客してくれたぞ」
「その女は詐欺師集団のメンバーよ」
「「詐欺師集団!?」」
俺もメサイアも驚いてその名を口にした。
まてまてまて。
この花の都ネオフリージアには、そんなヤベェ組織がいたのかよ。
だとしたら、俺たちは詐欺られそうになったってことか。……っぶねえ。
隣でメサイアが「よかったわね、お金がなくて」とつぶやく。そうだな、もし金があったらホイホイ支払っていたかもしれない。
「あ、ああ……。じゃあ、ここは誰のお店なんだ?」
そう疑問に感じていると、お店の扉が開いた。
そこには馴染の、馴染みすぎる顔がいた。
「……おや、サトル殿。それにメサイア。アグニもいますね」
スチャッとメガネを直す王様こと、ミクトラン。
「あんたのお店かよ!?」
「ええ。ここは、私の経営するアイテムショップですが……なにか?」
アイテムショップもやっていたのかよ。そういえば、以前には鍛冶屋をやっていたこともあったな。あの時はいろんな意味で世話になった。
「…………」
メサイアは気だるそうにミクトランを見つめていた。親子のはずなんだがな。妙に仲が悪いというか、話したがらない。
「おい、メサイア。たまには親子水入らずで話したらどうだ?」
「あ?」
なぜか睨まれる俺。
目が怖いぞ、メサイア……。
やはり、触れない方が良さそうだな。
仕方ないので、俺はミクトランに更に話を振った。
「ミクトラン。このお店、詐欺集団に使われていたようだぞ」
「そうでしたか。最近、不審者の出入りがあるようでしたが、入られていましたか」
「ああ、着物姿のエルフだった」
「女性ですか?」
「そうだ。えらく美人だったぞ」
「ほう、それは興味深いですね」
どこかで買ってきた品物を棚に詰め込むミクトランは、アグニに視線を向けた。
「な、なんだよ、王様」
「アグニ、あなたにミッションを」
「あ、あたし!?」
「退屈していたのでしょう? ならば、サトル殿たちにお力添えを」
「……そ、そうね。わかった」
おぉ、アグニが協力してくれるのか。そりゃ嬉しいね!
今後、アグニはルーンストーン:ウィンの発見と詐欺師集団を追う任務を負うことになった。
これで少しは見つかりやすくなったな。詐欺師も含めてな。




