第500話 王の心配事
【花の都ネオフリージア:中央噴水広場】
無事にメサイア達と合流を果たし、ミクトランに報告する前。ひとまず、中央噴水広場で休憩を取ることに。
みんな疲れ果て脱力していた。俺もだが。
「お疲れ様、サトル」
ぐったりするメサイアだが――まて。お前はなにもしとらんだろ……!?
「とりあえず、フォルは救出した。この通り、精魂尽き果てているが」
現在のフォルは、口から魂が抜け出そうになっていた。ダメだこりゃ。
その傍らでリースも項垂れるようにして青ざめていた。更にその隣。ベルも膝を抱えるほどに疲弊している。コイツがこんな風に留まっているのは珍しい。
「サトルよ、助けてくれたこと……礼を言う」
腕を組み、澄ました顔でアロンダイトは感謝を述べた。妙に態度がデカいが、顔は深刻そのものだった。さっきまで逆さまになっていたしな。
「気にするな。それに、マナスがいなければダークミノタウロスは倒せなかった」
視線を向けると、マナスは爽やかに微笑んだ。
「お役に立てて良かったですよ。さて、私はフォルネウス侯爵と会う約束があるので失礼しますよ」
フォルネウス伯爵?
ふむ、そういえば以前もだが……このネオフリージアにも貴族が住んでいるんだな。昔は気にならなかったが、今は活発なのか。
アロンダイトもネオフリージア騎士団へ報告しに行くと言って去った。
「フォルネウス侯爵ぅ~?」
ジトっとした目を俺に向けるメサイア。なんで俺にそんな眼を向ける!
「俺は知らんぞ」
「うーん、どこかで聞いたことがあるのよね」
「そうなのか」
「うん。ベルなら知ってるかも」
視線をベルに向けると、スキルを振っている最中だった。こりゃ、しばらく動きそうにないぞ。こんな時のベルはテコでも動かん。
「――今は取り込み中だ」
「みたいね。となると、王様への報告はサトル一人で行ってもらうしか」
「なんでだよ。メサイアも来てくれよ」
「サクラクレープが食べたいのっ」
そうだった。今度こそ奢らないと俺の命が危うい。
金をメサイアに渡した。
「これで食え。みんなの分もある」
「ありがと、サトル。一緒に食べたかったけどね」
「早めに合流するさ。それじゃ、後で」
みんなを中央噴水広場へ残し、俺はひとりでネオポインセチア城へ。
どのみち、ミクトランとは一対一で話したいこともあったしな。
◆
【ポインセチア城内】
真っ直ぐ王の間まで向かい、俺はミクトランの登場を待った。
しばらくすると奥から優男が現れた。メガネをクイッと上げ、俺の方へ歩み寄ってくる。白い歯を見せ、ニカッと爽やかに笑う。
「お疲れ様でした、サトル殿」
「あんな強いとは聞いてないぞ」
「魔人のモンスターですからね。一筋縄ではいきません」
「マナスがいなかったら倒せなかったぞ」
「ええ、だからこそ彼には外周の防衛を任せていました」
マナスに関しては筋が通っている。だが。
「なあ、アロンダイトは意味あったのか? ボコボコにされていたぞ」
「彼も必要な人材です。闇には闇を」
「意味が解からん」
「大丈夫ですよ。アロンダイトは“狂った時”が本領発揮。今の彼はシラフなので」
そんな酔っ払いみたいな言い方――いや、確かに言われてみればそうだな。敵対していた時のアロンダイトは、狂戦士のようだった。
バーサーカー状態の彼こそが本来の戦闘スタイルなのだろう。けれど、さっきは普通の人だった。だから、ひっくり返ってやられていたんだ。納得。
「そうか。で……ミクトラン。それともアルクトゥルスと呼んだ方がいいか?」
「現在のアルクトゥルスは、サトル殿です。私ではありません」
「了解した。それで、なんで下界に降りてきた? 一畳の虹の空中庭園で奥さんとスローライフしてりゃよかっただろうに」
なぜだと問いを投げると、ミクトランは遠くを見つめた。視線を追っても壁しかなかった。……どこを見てんだよ!?
「娘が心配でしてね」
「メサイアのことか」
「ええ。更に言えば孫も」
「ネメシアか」
「知らぬうちに可愛い孫が出来ていましたからね。一度会ってみたいものです」
言われてみれば、ミクトランとソフィアはまだネメシアには会ったことなかったな。ついでに思い出したが、ネメシアは『未来人』だった。
だから、生まれてもないのに“現在”にいるのだ。
絶望の未来から送られてきた俺とみんなの娘。
「そのうち会えるさ。なんなら今連れてきてやってもいいぞ」
「いえ、フォーチュンの導きを信じましょう」
元とはいえ神様がそんなこと言っていいのか……?
首を傾げていると、ミクトランは付け加えるようにして「もともとフォーチュンとバテンカイトスとはひとつでした」と衝撃発言をした。
どうやら、アルクトゥルスが生み出した神様らしい。そうだったのかよ。
「もう少し話をしたかったけど、そろそろ戻る」
「サクラクレープですか」
「なぜ知っている!?」
「この国の名物ですからね」
そうだとしても、当てるのすげぇよ。それともリースのように心を読まれたか……?
本当、この人には敵わんな。
――てか“俺”なんだから当然か――。
第十三章 新世界・完。
第十四章へ続く。
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