第498話 スキルリセットしていた聖戦士
倒れている騎士の元へ駆け寄ると、ひっくりかえって頭は地面に突き刺さっていた。
ナンダコレ。
こんなシーンを転生前に見たことがあるような。犬なんとか家だったか。
人間がこうなるものなのか……?
いや、あのダークミノタウロスの筋力がありすぎるんだ。
モンスターの対処を【オートスキル】でしながら、俺は騎士をカブのように引っこ抜いた。
「――ごぼっ」
地面からイケメンが生まれた。
ああ、思い出した。
流れるような黒髪ロング。褐色の肌。妙に尖った耳。コイツは間違いない。
アロンダイトだ。
出会った当初はアルラトゥに洗脳されていて“狂人”だったが……今はどうだ?
「久しぶりだな、アロンダイト」
「……ヒャッハー!!」
第一声がソレかよぉ!?
やっぱり狂ってんな、コイツ。
「ひぃ!?」
リースが涙目になって怯えているぞ。
いや――それよりもだ。
今は、三体のダークミノタウロスを倒さねば……囲まれているぞ!
血のついた戦斧を握り、迫ってくる巨体。目つきがヤベェぜ。
「むぅ、このままではマズイわね」
バリバリと煎餅を食べながら焦るメサイア。お前はいつも緊張感がねぇッ!
「そういえば、オートスキルが効いてないな」
「サトル、あのダークミノタウロスは『ダメージ軽減』を持っているかもしれないわ」
「ナ、ナンダッテ!?」
そういえば、全然倒せていない。精々、ノックバックしているくらいだ。おかげで接近されずに済んではいるが――これはキリがない。
あのモンスター、異常な体力とメサイアの言う通り『ダメージ軽減』を持っているようだ。
となると、ひたすらダメージを与えて体力を削るしかないのか。面倒な!
「こりゃ参ったねー」
「お前のシールドスキルでなんとかならないか、ベル」
「残念なんだけど、ネオフリージアに来てから『スキルリセット』しちゃってさ。今、初期状態なんだよね」
「なにしてんだー!」
「いや~、ほら、わたしって無駄にスキル多いじゃん。だから、整理しようかなって」
てへっと笑うベル。いつの間にスキルを初期化していたんだ。そのせいで、今は使えるスキルがひとつもないという。ダメだ、ベルは戦力外だ。
「あ~、だからベルさん、ネオポインセチア城を出る前に王様に頼んでいたんですね」
と、リースは俺の知らない情報を教えてくれた。ミクトラン王に頼んでいたのか。いつの間に!
「そうなんだよ。あのお方に頼む方が手っ取り早いからね」
一応、神様だしな。
……いや、それよりだ。
ダークミノタウロスを倒さねば!
「では、わたくしが引きつけましょう!」
「お、おい!」
「勝手に抜け出したお詫びもしたいので!」
そういうことか。
気にしていたとはな……別にいいんだけどな。
ぴょんと軽々に飛び跳ねるフォルは、ダークミノタウロスの頭上を越えて向こう側へ。すると、一体が反応してターゲットをフォルへ変えた。
ありがたいが、リスクが高い。
早く倒さねば、フォルが危険だ!
「ちょっと! サトル、残りのダークミノタウロスがこっちへ来るわ!」
メサイアは、焦ってリースの手を取って後退。スキルの使えないベルも同様にネオフリージアの方へ走っていく。撤退しかないか!
だが、どのみち倒さねば都に危険が及ぶ。
ええい、仕方ない。俺がやるしかない。
「ま、まってくれ……タスケテ」
俺の腰にすがりついてくるアロンダイト。って、うぉい! 動けねえじゃねぇか!
「は、離せって!」
「頼む、見捨てないでくれぇ」
「解かった解かった。離せって」
情けないアロンダイトを解き、俺は【オートスキル】でスキル『パニッシャートライデント』を発動。
聖属性が付与された三叉槍が二本飛び出し、ダークミノタウロス目掛けて飛んでいく。
見事に命中したが、貫通もせず……ただダメージを与えただけだった。クソ、やっぱりダメか。
こうなったら必殺スキルで!
――いや、ダメだ。
射程圏内にフォルの姿がある。ここで撃てば余裕で巻き込んでしまう!
どうするか悩んでいる時だった。
『ズンッ!』
光の柱が上空から降ってくると、ダークミノタウロスに激しい一撃を与えていた。
な、なんだ!?
上!?
見上げると、そこには――。
「待たせたな!!」
あ、あのダンディなオッサンはいったい……!?




