第495話 ティータイム - 紅茶とフィナンシェ -
席に着き、しばらくするとフォルが紅茶を出してくれた。
う~ん、凄くイイ香りだ。上品すぎて今だけなら貴族の気持ちが解った。
「――甘いものが欲しくなるわね」
優雅に紅茶を味わうメサイアは、フォルに視線を送る。
「お菓子もどうぞ」
キツネ色をした長方形の物体が複数お皿に。
こりゃ……もしかして、もしかすると!
「フォル、これはフィナンシェか?」
「そうなんですよ、兄様! 花の都の名物のひとつです。サクラクレープが有名ですけど、このお菓子も大人気なんです」
へえ、フィナンシェとは、これまたオシャレなお菓子だな。甘くて美味しいんだよなぁ。
さっそく一口いただこうとしたが、メサイアに取られてしまった。
「うわぁ、甘くて美味しいっ!」
「メサイア……」
「なによ、サトル。ゾンビと遭遇したみたいな表情して」
「そんな顔はしてねぇよ!? まあいいけどさ」
リースやベル、おまけにグレンもフィナンシェを味わっていた。俺の分が……! くそう、食えなかった。
涙を堪えていると、フォルがお菓子を追加してくれた。
「はい、兄様。フィナンシェはまだありますから」
「さすが聖女だぜっ」
よかった、在庫はまだあったようだ。ひとつ貰い、俺はさっそくフィナンシェを口にした。……んまッ! 甘くて口の中でとろけるような食感。これは一度口にしたら、止まらなくなるヤツだ。
糖分を摂取して、俺もみんなの脳も回復した。
――さて、ここからが本題だ。
空気を察したのか、フォルは語り始めた。
「正直、この花の都ネオフリージアには驚いています」
「ふむ?」
「だって完全再現されているんですよ。本来はレメディオスにあった花の都が……こんな形で復活するなんて、ありえないことです」
そうだな。どうせ復活するならレメディオスにして欲しかったところだ。だが、そうはならなかった。
レメディオスには、すでにカルミア女王がいる。多くの民もいる。ネメシアたちもな。だから今更、あの場所を明け渡せとは言えない。それに、ずいぶんと世話になったしな。
だから、こんな形での復活は俺はむしろ嬉しかった。当時のそのままが再現されていて懐かしいし、やっぱり俺は『花の都』が好きなんだと実感した。
「えっと……フォルちゃんのお母さまと何か関係あるのですか?」
俺も思ったことをリースが代弁してくれた。
そうだ。一番知りたいことはソレだ。
この花の都ネオフリージアに到着して早々、フォルは顔色を変えてここまで突っ走ってきた。
聖女アイファ。
いったい、なにをそんな慌てていたのか。
「あくまで推測ですが、この花の都ネオフリージアを作ったのはお母さまです」
さっきも言っていたな。
創造したかもしれないと。
聖女にそんな力があるのか――?
いや、ないとも限らないが。
「ふぅん。フォルのお母さんにそんな魔法が。まるで、私の建築スキルみたいね」
いやいや、メサイア。お前のスキルとはだいぶ規模が違うぞ。家と国では大きな開きがある。しかし、女神としての矜持もあろう。親戚くらいにはしておいてやる。
「だからって急にひとりで帰ることないだろう」
「すみません、兄様。気が動転していたんです。それに、家にお母さまがいるかと思ったのですが……ご覧の通り、不在でした」
「存命なんだよな?」
「はい。たぶん……」
自信なさげだ。てか、死んでいたらネオフリージア創造はできないはずだ。つまり、どこかで元気にしているはずだ。
「父親の方は?」
「お父さまも解りません。もしかしたら、お母さまを探しに行ったのではないかと」
心配そうにするフォルは、妙に落ち込んでいた。帰宅して家族が行方不明ではな。
しかし、本当にフォルのお母さんがこの『花の都』を創ったのだろうか。だとしたら――ああ、そうだ。
俺は肝心なことを失念していた。
「なら、王様に聞いてみるか?」
「ミクトラン王に? ですが、王様は確か」
「ああ。あの男はアルクトゥルスだった。俺と一体化したはずだったが、そこのグレンによれば存在するらしい」
指をさすとグレンは、カップを置き「その通りだ」と断言した。
ならば、確認しに行くしかないよな。
「よし、決まりだ。フォル、ミクトランに会って真相を確かめるんだ。どのみち、魔人サリエリのことも聞かねばならない」
「名案ですね!」
方針は決まった。
聖女アイファの捜索、そしてミクトランの謁見。これで決まりだ。
さくっと終わらせてネオフリージア観光でもしたいところだな。そうだろう、メサイア。
「ねえ、サトル。今後、煎餅のストックをやめてフィナンシェにしようと思うの!」
ダメだコイツ……早くなんとかしないと!




