第494話 天に響く魔人の声
漆黒の翼を生やし、優雅に滞空する人影。
あの“女”が俺の腹部を槍で貫通させやがった魔人か――!
まさか、この花の都ネオフリージアに現れるとはな。
丁度いい、この前の礼をしてやらねば。
俺を一度でも殺した罪は重い。
メサイア達を心配させたのだからな! 理由としては十分すぎる。てか、そもそも世界の影響的にヤバそうだしな。
『――――』
魔人サリエリは、静かに降りて来るが――しかし、結界によって阻まれていた。
アレは間違いない。かつてミクトランが張っていた『ミレニアム』というレイドボスすら受け付けない鉄壁のバリア。
最強のアルティメット・デス・アナイアレイション・ドラゴンですら、あれを突破できなかった。
魔人といえど、ミレニアムは通れないようだな。
「さすがミクトラン様のバリアスキルだ」
と、グレンはぽつりとつぶやく。ん、待て。このネオフリージアにもミクトランが?
「おい、グレン。王様がいるのか?」
「なにを言っている、サトル。ネオフリージアは完全体だぞ。おられて当然であろう」
当たり前だとグレンは言い切った。
マジかよ!
つまり、ポインセチア城にミクトランがいるのか。マジか! それが一番衝撃的なニュースだ。ぜひ、会いたいものだな。
そうか、王も復活していたか。
「へえ、王様って健在なのね」
「メサイア。お前の親だろうが」
「……そ、それは言わない約束よ」
「してねえって。なんでそんな他人行儀なんだよ?」
「うるさいわね。その口に煎餅突っ込むわよ!」
ダメだこりゃ。これ以上の深追いは死を招く。メサイアの必殺スキルで俺の存在が抹消されかねん。――ので、本題に戻る。
……さて、あの上空を泳ぐ魔人をどうしたものか。
「な、なんて禍々しい魔力なのでしょう」
ぶるぶる震えるリースは、顔面蒼白だった。確かに、アイツの魔力は異常だ。死神を超越した存在……魔人。その名に相応しい混沌を感じる。
いったい、何をどうしたらあんな闇落ちできるんだか。
『なぜ生きている』
ふと声がした。女の声が上空全体に響いた。
あの魔人サリエリの声か!
「なぜって? 教えるわけねぇだろ。さっさと帰れ」
『忌まわしき理……。憎たらしい女神。……絶対に許せん』
ぶつぶつと吐露する魔人。なるほどね、俺たちはなぜか恨まれているらしい。まったく覚えがないんだがな。
少なくとも俺は、アイツに何もしていない。
メサイアとベルは『封印』に関わったようだが。
「ベル。魔人が敵意を向けてくるんだけど」
「理くん、人気者だね」
「そうじゃねぇ! 俺は関係ないだろ?」
「そうとも言い切れないよ」
「なぜだ」
「だって君、神王アルクトゥルスだもん。神殺しなんて昔からあるのさ」
「ただそれだけの理由なのか……」
「さあ、解かんないな」
ダメだ。ベルは使えそうにない。となると――。
「なあ、メサイア。あの魔人を説得してくれ」
「無理」
「早ッ! もうギブアップかよ」
「当たり前じゃない。アレに言葉なんて通じないし、戦うしかないの」
強がっている割に、横顔が焦って見えるような。
こんなメサイアは滅多にない。
対処したいところだが、今はバリアで守られているし、無理をする必要はなさそうだ。
『…………まあいい。近いうちに、この不快なバリアを破壊してみせよう』
結局、サリエリは何もせずに遠くへ消えた。
ミレニアムを破壊するだと……?
それは無理なはず。
フォルの聖域スキル『グロリアスサンクチュアリ』以上に強固なんだぞ。
突破はないと信じたいね。
さて、そうなると本題へ戻るか。
「フォル」
「……う、兄様。その、はい……」
「聖女アイファは、お前の母親なんだな?」
「はい。アイファ・クライノート。わたくしのお母さまです」
詳しい話を聞く必要がありそうだな。
家の中へ上がらせてくれるようだし、奥で話を聞こう。
そのまま中へ。
落ち着きのある木造住宅。フォルの家は、なんだか他とは違う丸太で構成された家だった。
なんだろう、この山荘のような雰囲気。
他の民家とは明らかに違う内装。温かみ。
職人が作り上げたような、そういう空気を肌で感じる。
「へえ~! 可愛いお家ですね!」
「リースもそう思うか」
「はい。ちょっとエルフの家っぽさもあって、なんだか懐かしいですっ」
そう言われると似ているかもな。
奥の部屋に辿り着き、広い部屋に入った。予想以上に空間があった。十人、二十人は余裕で会議できるような広間。
こりゃ驚いたな。もっと小さな家かと思っていたが、かなり作り込まれている。
メサイアの作る小屋を越えている。
こんな素敵な場所で暮らしていたとはな。




