第492話 アーカム家の令嬢
【花の都ネオフリージア:アーカム家】
騎士団から少し歩いた場所に『アーカム家』はあった。結構近いな。
聖女アイファの家へ行く前に、グレンはアーカム家へ寄りたいという。仕方ないので、ついていくことに。
もしかしたら、アグニとも会えるかもしれないからな。
そうして、アーカム家に到着。
やたら広い庭の向こうにある邸宅。
花壇もやたらあるな。幻想的な“赤い花”が美しいが。バカデカイ噴水もいくつあるんだか。
「ここがアグニちゃんのお家なんですね」
アーカム家を見上げ、嬉しそうにするリース。そういえば、アグニと仲が良かったな。友人と久しぶりに会えるかもしれない、そんな期待に胸を膨らませているようだった。
多分、きっと彼女もいるだろうな。
俺としても、久しぶりに話をしてみたいところだ。
グレンについていき、玄関前に。
入ろうとすると玄関が強引に開き、中から赤髪の少女が飛び出てきた。
その少女は、いきなりグレンに向かって火属性魔法『ファイアーボール』らしきスキルを放っていた。
ボウッと聞きなれないような炎の音がしたが、しかしグレンはその魔法を素手で握りつぶしていた。……マジか!
「やめろ、アグニ。兄が帰ったら“おかえりなさい”だろう」
「バカ兄貴。今日も知らない女を連れ歩いてきたのか……!」
そうか、この赤髪のツインテールはアグニだ。出会った当時と変わらぬ細身。しかし、今は赤いドレスに身を包み、ツンデレのお嬢様って感じだ。
「今日は違う。ご覧、彼はサトル。お前と同じ『聖者の試練』を受けた者だ」
「え……! あ、サトル! 久しぶりじゃん。リースに、みなさんも……」
ようやく俺たちを認識すると、アグニは頬を赤く染めていた。自分の勘違いを恥じているのだろうな。
それにしても、本当に久しぶりだな。
ちょっと大人びたというか、美しくなった。性格は相変わらずだけど。
「よう、アグニ。アルラトゥの……最後の決戦以来だな」
「そ、そうだな。サトルやみんなは変わりないな」
アグニは俺だけでなく、メサイアやベルの顔を見つめて懐かしんでいた。特にリースに対しては笑顔を浮かべ、手を取り合っていた。
「アグニちゃん!」
「リース、久しぶりだねっ。スイカが寂しがっていたよ」
「うん。でも、エルフの郷カムランで会ったよ!」
「そうなの!? いつの間にカムランにいたのよ……」
そういえば、スイカのヤツ……いつの間にか姿を消していたな。しばらくカムランに残ると言ってどこかへ行ってしまった。以来、どこでなにをしているのか不明だ。
なんであれ、今度はアグニに会えて嬉しい。
そう感じているとグレンは、中へ入ってくれとアグニの横を素通りしていく。
そや、さっきアグニのファイアーボールを素手で握りつぶしていたな。彼女は今も『聖者』のはず。一緒に試練を乗り越えたからな。
つまり、グレンは以前より強くなっているらしい。もしかしたら、コイツも試練を乗り越えたのだろうか。
「……どうした、サトル」
「いや、あとで詳しいを話を聞かせてくれ」
「うむ。しかし、悪いな」
「で、なんで家に寄ったんだ?」
「母が病に伏せてな。少しは顔を見せないと心配を掛けてしまう」
「そうだったか。そりゃ、すまん」
「いや、こちらこそ手間をかけてすまん」
通路を進み、ようやく部屋が見えてきた。室内に一緒に入っていいらしく、お邪魔することに。
ベッドに横たわる美しい女性の姿があった。あの人がグレンの母親か。
確かに、病弱な感じだ。
「あら、グレン。そちらの方たちはお友達?」
「母上、彼らは『死の呪い』を解いた者たち。ある意味では、世界を救った冒険者たちだ」
「まあ、ウワサの冒険者さんね」
グレンの母親は、優しい表情をこちらに向ける。なんだか、聖母みたいな人だなと俺は思った。
少して部屋を立ち去った。
結構短かったな。
「いいのか、グレン。もう少し」
「十分だ。母上に負担をかけるわけにもいかないからな」
「治せる病気なのか?」
「聖女様の力なら、あるいは……しかし、聖女アイファ様は行方不明だ」
「なんだって……!」
「今から行くだけは行ってみるが、不在だろうな」
そうだったのかよ。でも、もしかしたらフォルがいるかもしれない。なんにせよ、向かう必要があるな。
くるりと体を向け、メサイアに視線を送ると妙な表情をしていた。なんだその、名探偵みたいな顔つき。
「…………」
「なあ、事件なんて起きてないぞ、メサイア」
「解ったわ!」
「なにが?」
「犯人よ、犯人」
「なんのだよ。まだ死体も出てきていないだろう」
「犯人は、サトルあんたよ!」
「なんで俺なんだよ! なにもしてねぇよ!?」
メサイアの推理はメチャクチャだな。てか、事件なんて起きてないんだけどな!
ミステリーのミの字もないこの状況。そんな物騒なことがあるはずがない。
それより、フォルを探す。これが最優先なのである。
アーカム家を去り、今度こそ聖女アイファの家へ。




