第489話 花の都・ネオフリージア
よく考えれば、花の都フリージアも『聖地』だった。正確に言えば『聖地ベディヴィア』だ。つまり、ネオフリージアも何かしらの聖地というわけだ。
だから、特殊転移用のゲート『レンブラント』は反応し、あそこへ転移したんだ。
なぜ繋がったのか理由は不明だけどな。
「ネオフリージアなんてあるんですね~」
へぇとリースは興味深そうにしていた。ぜひ、みんなと行きたいところなのだが――温泉へ行ったベルがまだ帰ってきていない。
置いて行くわけにもいかないので、しばらく待つことに。
それにしても。
フォルが珍しく口数が少なかった。コイツが神妙な表情をするだなんて、天地がひっくり返るようなものだ。
「どうした、フォル」
「……い、いえ。その、ネオフリージアが出来ていたとは……驚きました」
「そや、フォルはフリージア出身だっけ」
「ええ。わたくしは、花の都フリージア『レメディオス教会』の聖女でした」
そうだったのか。昔のフリージアにレメディオス教会なんてあったんだな。多分、現在のレメディオスの名も、そこから取っているんだろうな。
そういえば、レメディオス教会だけは現存していたな。
かなり前だが“フォーチュン”と対話したことがあった。今も尚、フォルの中に存在するのだろう。
「ふむ。なにか気になることでも?」
「もしかしたら……お母さまが――」
フォルの両親? そういえば、聞いたことなかったかも。詳しく話を聞いてみようとしたが、そこでベルが帰ってきた。
「ただいま~」
「おかえりなさい、ベル!」
火照ってエロい……じゃなくて、スッキリした様子を見せるベル。メサイアが駆けつけ、歓迎していた。
「やあ、シア。みんなも。で、理くん、これからネオフリージアへ?」
「なんだ、聞いていたのか」
「そこで聞こえてさ」
「そうだったか。聖地アーサーへ行きたいところだが、転移ゲートがツンツンでね」
「そのうちデレるかもよ?」
そんなツンデレじゃあるまいし。
とにかく、パーティメンバーは集結した。これで出かけられるな。
「旅立つのですね」
と、ルクルが名残惜しそうに俺の前に。
「世話になったな。おでん缶自販機はルクルが管理してくれ」
「え、でも……」
「利益は全部、このお店の為に使ってくれればいいさ」
「そ、そんな。貰えませんよ~…!」
「遠慮する必要はない。俺たちはネオフリージアで稼ぐさ」
「なんだか申し訳ないです。でも、ありがとうございます」
嬉しいと顔を輝かせるルクル。
その乙女すぎる表情に俺の心は『ズキューン!』と来ていた。……お、おいおい。もし女の子だったら、俺は即落ちしていたぞ。
あまりに可愛すぎた。持ち帰りたい。
だが、男だッ!!(血涙)
「また来るさ。このカムランに」
「ぜひ寄って下さい。みなさん、ありがとうございました!」
ルクルは、メサイアたちと別れの挨拶を交わした。また会おうと約束して。
少し寂しくなるが、ポーション屋を後にした。
快適な生活だったが、しかし俺たちは先へ進まねばならない。目指すは聖地アーサーだ。
だが、運命は『ネオフリージア』を示した。
フォル風に言えば、フォーチュンの導きだ。
きっとなにかある。
俺の勘がそう告げていたんだ――。
◆
特殊転移用のゲート『レンブラント』を通過し、無事に【花の都・ネオフリージア】へ到着した。
懐かしき中央噴水広場。
人々の雑踏。お祭りのような活気。エルフやドワーフ、獣人族など多くの種族が闊歩している。
まさに俺が過去にいた花の都フリージアそのもの。
「こ、これは……予想外ね」
呆然と立ち尽くすメサイアは、周囲を確かめていた。そして、懐かしそうに表情を崩す。リースとベルも驚嘆の声を漏らしていた。
ほうほう、みんな反応が良いな。
だが。
フォルだけは違った。
「…………」
妙に怯えているというか、青ざめていた。なぜだ、なぜそんな反応を?
「どうした、フォル。喜ばないのか?」
「……兄様。この花の都は“完全再現”されていますよね……」
「寸分違わずだな。当時のニオイまで完璧さ」
まるで当時の花の都フリージアをそのまま抜き取ったような、そんな雰囲気すらあった。そんな神の御業なんて不可能だろうけど。
出来ても俺くらいだが、そんな宇宙が崩壊しそうなマネはしない。
アルクトゥルスが認めない。
「やはり、お母さまが!」
走り出すフォルは、どこかへ向かう。お、おい、勝手に!
一体、どこへ行く気だ?




