第488話 筋力(STR)と筋肉増強スキル!
「なんて野郎だ。不正をしているのはカジノ側で、客から騙し取っていたんだな!」
俺は怒りをぶつけた。
けれどカジノのオーナーは不敵に、悪魔のように笑う。
祈るようにして拳を作ると、それを振り上げた。
「それがどうしたッ!」
ブンッと風を切るように拳が落ちてきたが、俺は回避した。
さきほど居た場所に大穴が形成され、その威力を物語っていた。……ヤベェ、まともに食らっていたら木っ端みじんだったな。
「今後、不正をしないと約束しろ! あとメサイアの使った金は返金するんだ。全額な!」
「断る!」
「なんだと……」
「馬鹿共から金を巻き上げて何が悪い。客には夢さえ見させておけばいい。きっと当たる。きっと億万長者になれる……それだけで十分だろう!」
「それを詐欺って言うんだよ、馬鹿野郎」
聖槍アンティオキアを召喚し、俺は構えた。
久しぶりにこの槍を出したな。
白く輝く槍の形状の武器。
コイツは聖者専用の槍だ。
この男の拳を防御するくらいなら、これで十分だ。
「ぬぅ! 武器召喚とはな……まるでエルフの秘術だ」
「謝るなら今のうちだぜ」
「貴様ごとき人間に下げる頭などないッ!」
今度はストレートパンチが繰り出された。俺は直ぐに聖槍アンティオキアで防御。重苦しい一撃が槍に伝わってきた。
……ぐっ、なんて重いパンチ!
手が痺れやがった。
このエルフ、巨漢なだけあってパワー型か。
「サトルさん! その方は魔法で筋肉を増強しているみたいです!」
リースは、あの男の補助スキルを見破ったらしい。
ということは、まさか!
「そうです、兄様。あれは、わたくしも習得している『エンジェルラダー』でしょう。筋肉を強化するマッスルスキル!」
【エンジェルラダー】【Lv.10】
【効果】
筋力および筋肉を増加させるマッスルスキル。攻撃力もアップ!
「これか!」
懐かしいスキルだぜ。
以前はよく、フォルが使ってくれたものだ。
――って、フォルのヤツ……久しぶりに俺に使うつもりだ!
「ちょ、おい……!」
「エンジェルラダー!」
使いやがったなァ!?
「ぐ、ぐ、うおおおおおおおおおおおお……!!」
俺の腹筋が!
上腕二頭筋が!
大腿四頭筋が!
ムキムキ、バキバキ、ボキボキと膨張してマッスル野郎になってしまった!
【サトルの筋肉が膨張した!】
「な、なにィ!? 貴様の仲間にもエンジェルラダーの使い手が……バカな!」
「カジノのオーナー、お前だけの特権じゃねぇぜ!」
「ならば拳で語り合うまでッ!!」
と、オーナーは拳を馬鹿正直に向けてくるが、俺はそんな面倒なことはしない! 普通に槍で反撃する。
「聖槍アンティオキアと、オマケの覚醒煉獄だああああッッ!」
「ぶぁかなぁああああああああ、卑怯ものおおおおおおおおおおお!!」
戦いに卑怯もクソもあるか。
そもそも、カジノの不正の方が悪いだろうが。
花火のように空へ打ち上がるカジノのオーナー。
ひゅーっと飛んでいくや、重みで落ちてきた。
そのまま地面に激突。
ズゥゥゥンっと地響きが鳴り、周囲は騒然となっていた。
「な、なんだぁ!?」「あ、あれってカジノのオーナーじゃん」「なんで倒れているんだ?」「てか、空から降ってこなかった?」「なんでカムランの英雄と戦っているんだよ」「あのお兄さんってポウラを倒した人だよな」「なにが起きているんだ?」
そんな状況の中でリースが声を上げた。珍しく大声だ。
「みなさん! この方はカジノで不正を働いていました。全額返金してくれるようなので、被害に遭った方は申請を!」
エルフであるリースがそう言ったおかげか、みんな納得した。そもそも被害者も多かったようだ。
不正は直ぐにウワサになり、返金を求めてカジノに群衆が殺到。
カジノ側は素直に応じることになったが、経営難に。
あの巨漢エルフのオーナーは、行方をくらましたようだ。夜逃げだな。
「……やった!」
メサイアは喜びの声を漏らしていた。
お金が帰ってきて涙していたのだ。
「よかったな、メサイア」
「まさか、カジノが不正行為をしていたなんてね。どおりで勝てないと思ったわ!」
「ああ。お前が負け続けなきゃ、明るみにでなかっただろうな。闇が深いぜ」
多分ほとんどの人が泣き寝入りしていたんだろうな。
けど、ある意味ではフォルのおかげで全てが覆った。幸運聖女がいなければ、カムランのカジノはあのままだったろうな。
「ところで、ネオフリージアのことを聞いたわ」
「耳が早いな、メサイア」
「ベルから聞いたの。ねえねえ、行ってみない!?」
「そうだな。聖地アーサーへ行く手段を調べなきゃならん。――それに」
「それに?」
「久しぶりに会えるかもしれないぞ」
「誰に?」
「花の騎士たちさ。ほら、グレンとかいたろ」
「誰だっけ」
メサイアはすっかり忘れているらしい。ひでぇ~。
つっても俺もほとんど覚えていなかったけどな。
「せめて、リースの姉であるカローラくらいは憶えておいてくれよ」
「ああ! いたわね。リースのお姉さん」
どうやら思い出したようだ。
彼らに会う意味は十分にある。
聖地へ行く方法を知っているかもしれないからだ。あと魔人サリエリのことも。
それに、シベリウスの動向も気になる。今頃はグレンに会えているのだろうか。




