第487話 目覚めのポーション
俺は表へ向かい、ルクルに事情を説明してお願いした。
「――というわけなんだ、ルクル。メサイアを起こせるポーションを作って欲しい」
「それは大変ですね。それでは“目覚めのポーション”を作りましょう」
「やっぱり、そういうのがあるんだな!」
「ええ。主に酔いつぶれている方を覚醒させるポーションです」
ルクルは、棚からヘビのようなもの、謎のキノコ、妙な赤い粉、マンドラゴラの根らしきものなど怪しい物体を鉢に入れて調合。
……まてまて、紫色に変色してニオイもヤバいぞ。なんだこの刺激臭……吐きそうだ。
「だ、大丈夫なのかコレ」
「ええ。完成しました!」
これが“目覚めのポーション”か。確かに、飲んだら死者でも蘇りそうな色合いだ。
さっそくぶっ倒れているメサイアの元へ向かい、ポーションを飲ませた。
「これを飲め、メサイア!」
「……っ。んぐぐ…………? どひゃあああああああああ!!」
飛び起きるメサイアは、叫びまくってどこかへ走っていく。外へ向かったぞ!?
俺は心配になって追いかけていく。
するとメサイアは、外の噴水に顔から突っ込んでいた。
「ちょ、おい! メサイア!」
「ぬ、ぬべべぇ……」
「おいおい、シッカリしろって」
「う、うぅん…………ぁ、サトル」
ようやく気付いたのか、メサイアは目を開けた。水滴が滴って妙に色気があるが、今はそれは置いておく。
「姉様!」
「メサイアさん!」
フォルとリースも追いかけてきた。
「大丈夫だ。メサイアは復活した! ……たぶん」
なんとか正気を取り戻したメサイア。しかし絶望的な表情は変わらない。どんだけギャンブルで負けたんだよ。つか、もう止めろよな。
「おいおい、カジノはほどほどにしろと言っただろうに」
「うぅ、ごめん。もう二度としないから……!」
許して欲しいと、メサイアは涙目で訴えかけてきた。そんな可愛い顔されると、全部許せちゃうんだけどな。
別に金なんて稼ごうと思えば、いくらでも稼げるさ。
またやり直せばいいだけ。それだけなんだ。
それを伝えると、メサイアは土下座する勢いだった。
「お金の管理は全部リースに任せる。それでいいな」
「うん。解かった」
納得するメサイア。これで一件落着かと思ったが――。
「うぉい、そこのシスター服の姉ちゃんよぉ!!」
「不正はイケねぇよなァ! 不正はよぉ!!」
ガラの悪い男エルフ二人組がフォルに因縁をつけていた。って、今度はフォル? まてまて、フォルがそんな不正だとかするワケがない。ありえない。
「え、わたくしですか?」
「そうだ。アンタ、カジノで勝ちすぎなんだよ! ありえねぇんだよ!」
と、男は何度も“ありえない”を連呼。どうやら、カジノの関係者らしい。
俺は事情を聞くべく、フォルと男の間に入った。
「聞かせてくれ。フォルがなんの不正をしたんだ?」
「あぁ? そのシスターはずっと勝ち続けていたんだ。ルーレットにバカラ……スロットも! 何億セルと稼いでいたんだよ!!」
ナニィ!?
フォルがそんなに稼ぎまくっていたのかよ。いきなり強運を発揮しているじゃないか! 今までそんな素振り全然なかったのに。
今日になって最強の運が発動したのか。
「どうなってんだ、フォル」
「フォーチュン様が降臨なさって下さったのですよ、兄様。おかげで、わたくし勝ちまくりでっ」
そ、そういうことかよ。フォーチュンのヤツ、フォルのLUKを底上げしてやったな……。だから今日は勝ちまくったんだ。
てか、億も稼いだのかよ。もう自販機ビジネスの意味がねえッ!
「よくやった。これで俺たちは安泰だな」
「――ですが。お金は恵まれない子供たちの為に、教会へ全額寄付しました!」
神々しい笑顔で答えるフォル。
うお、まぶしい!!
目が、目がああああああ!!
さすが聖女だぜ……考えることが俺とはまるで違う。世の為、人の為……それでこそだよな。
億単位の金をポンと寄付しちゃうとか、さすがだよ。
「このシスター!! よくも!!」
「ヤっちまおうぜ!!」
男二人は、フォルに襲い掛かるが――無論、彼女に敵うハズがなかった。
「覇王葬破懺!」
凄まじいスピードのチョップが男の鳩尾に入り、ぶっ飛ばしていた。もう方にはなぜかグーで『金的』を。
「「ぐぎゃああああああああああああッッ!!」」
覇王葬破懺って、そんなスキルなのかよ!
はじめて見たぞ、それ。
「フォルちゃん、大丈夫ですか!?」
リースがフォルを案じるが、男たちを心配してやるべきかもしれない。片方は噴水に激突。もう片方は急所を粉砕されて悶絶していた。
こんな技は食らいたくないな。
これで一件落着かと思いきや――。
「……チィ。部下をやられたか」
今度は、巨人族のような大柄なエルフがノシノシと現れた。なんだこの、明らかにマフィアのボスみたいなヤツ。
てか、デケェ!
横にもデカイし、関取にしか見えん。
まさかカジノのオーナーじゃなかろうな。
「あんたはなんだ?」
「私は、カジノのオーナーだ。そこのシスターに用がある!!」
やっぱりそうなるのか。
稼ぎすぎると、ここまで追い詰めてくるのか。
「大体、不正もなにもないだろうが」
「いいや、ありえないんだよ」
「お前もそれか。どうしてそう思う」
「ウチのカジノは、馬鹿なギャンブル中毒から巻き上げられるよう、不正をしているからな! なのにそこのシスターだけは勝ち続けた。ありえないんだよ!!」
それで“ありえない”か――!
つまり、メサイアが負けまくったのはカジノ側の不正のせいか。それは許せん! 使った金だけでも返してもらうぜ。




