第486話 絶望の女神
【エルフの郷カムラン】
再びゲートを潜り、俺はカムランへ戻ってきた。
壁に背を預け、ボロボロの本を読むシベリウスの姿が。
「無事に戻ってきたか、サトル」
「おう。聖地には行けなかったけどな」
「なんだと?」
俺は、このゲートの向こうがなぜか【花の都ネオフリージア】であることを説明。すると、シベリウスは死ぬほど仰天していた。そんなに驚くとは。
「――というわけだ」
「ありえぬ。あのゲート『レンブラント』は聖地しか行けぬはず。つまり、花の都は『聖地』というわけか……」
ふむ、どうやら俺の知らないところで“何か”起きているようだな。
「てか、ネオフリージアにグレンがいるようだぞ」
「本当か!」
「ああ、ミクトランの騎士チャルチと会ったんだ」
「ほう。あの娘か」
「会ったことあるのか?」
「うむ。子供のころのチャルチにだがな。グレンとは幼馴染と聞いたぞ」
「初耳だな」
そもそも、騎士たちのことを俺はあまりよく知らない。
なぜ王に仕え、どうして騎士として活動していたのか。……あ、いや。活動理由はレイドボスの討伐だったな。
結局、彼らはアルラトゥに操られてしまい、たいした活躍はできなかったワケだが。
「そうか、都が復活したのなら行ってみる価値はありそうだな」
「行くのか、シベリウス」
「久しぶりにカムランを離れる時がきた。サトル、私は先に行く」
「解った。俺はメサイアたちと合流してからだ」
「了解。……ああ、あとこの本を読んだ方がいい」
さきほどシベリウスが読んでいたボロボロの本。それを手渡された。……いらねえ。
「これになんの意味が?」
「いいから読むんだ」
「ん~? って、エルフ語じゃねえか! 読めねえよ……」
「お前の仲間にエルフがおるだろう。翻訳してもらえ」
と、ゲートへ向かうシベリウス。この本に何が書かれているのやら。まあいい、あとでリースに聞いてみるか。
シベリウスを見送り、俺はルクルのポーション屋へ。
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お店へ戻るとベルの姿があった。お、やっと帰ってきたか。
「戻ったよ、理くん」
「今までどこで何をしていたんだよ」
「聖地への転移方法を模索していたのさ。それで解ったんだけど、ゲートを使えばいいらしい」
俺はそれを耳にして、ベルの肩に手を置いた。
謝罪の意味も込めて。
「すまん、ベル。もうさっき使った」
「えぇ……!? 本当かい。苦労して見つけたのにー…」
しょんぼりするベルは可愛かった。普段は仏頂面のクセして、今は感情を表に出していた。いつもそうしてればいいのにな。
「シベリウスが知っていたんだよ」
「そんなー…。彼とは旧知の仲なのに」
なぜ教えてくれなかったと、余計に拗ねていた。おいおい、シベリウスのヤツ……先にベルに教えてやれよな。
「ああ、そや」
「ん?」
「ゲートの向こう側へ行った」
「へえ?」
「ネオフリージアがあったよ。前と同じで建物とか風景がそのままだった」
「なんだって……ネオフリージア。いつの間にそんなものが」
「世界ギルドが再現したそうだ。レメディオスと聖地コンスタンティンの間にあるんだと」
なるほどね~と、ベルは脱力して納得していた。相当疲れているらしいな。
「行くつもりだが、どうする?」
「もちろん、ついていくよ。でも、今は体を癒したい」
「温泉か?」
「そうする。今日は一人で行くよ」
「じゃ、明日出発する。必ず戻って来いよ」
「うん。じゃあ、またね」
手を振って旅館カルンウェナンへ向かうベル。今はそっとしておいてやろう。
さて、お店の中へ行こうっと。
扉を開け、中へ。
お店の中ではルクルが接客していた。俺は挨拶しながらも横を素通り。リビングへ向かうと、そこにはぶっ倒れているメサイアがいた。
え、ナニコレ。
なんでこんな酔いつぶれたみたいに!?
「姉様、姉様しっかり!!」
フォルは必死に治癒魔法を施していたが、効いていない様子。
リースは涙を滝のようにダバダバと流して放心状態。
え、ええッ!?
なにが起きているんだ、これは!!
「お、おい」
「あ、兄様! 戻られたのですね!」
「フォル、メサイアはどうなった!?」
「姉様は……破産しましたあああああああ…………」
「またギャンブルかよおおおおおお!!」
つまりアレか、カジノで大負けして酔いつぶれていたのか。顔がゾンビみたいに真っ青で今にも死にそうだ。これ、下手すりゃ勝手に死神化しないだろうか……。
いや、そんな場合ではないな。
「どうしましょう、兄様……」
「任せろ。こういう時は、ルクルに頼る」
特製ポーションを作ってもらい、メサイアを復活させる。これしかないだろう。




