第484話 特殊転移用のゲート『レンブラント』
翌日。
騎士であるシベリウスがポーション屋を訪ねてきた。
コイツはいつも鎧姿だな。あと面も怖い。
本人は睨んでいるつもりはないらしいが、目力が強すぎる。
「まずは、おはよう」
「お、おう。シベリウス、以前の話を?」
「そうだ。お主とは一度話す必要があった。今がその時である」
そうだ、この男はあの炎の騎士グレン・アーカムの師匠。
アルラトゥ討伐後は、騎士たちと会う機会などなかった。ただ、最近アローラだけはレメディオスの魔導図書館で会った。
なんだか因果のようなものを感じてしまうな。
「ここではなんだ、外の噴水広場にあるベンチでどうだ」
「よかろう」
直ぐ近くにある木製のベンチに腰掛け、改めて話を振った。
「教えてくれ、シベリウス。グレン達は今どうしてる?」
「知らん」
「し、知らんって……。会ってないのか」
「もう十年は会っておらぬ。戦い方を教えたのは、ヤツが子供の頃だ」
そういうことか。
ならばと、俺はグレンと戦った過去、温泉を覗き見した過去、共闘したことを打ち明けた。
思えば、一番はじめに戦った騎士なんだよな。
「というわけだ。アイツは元気にやっていたよ」
「風呂の覗き見をするとは……情けない」
呆れるシベリウス。
アイツは、スイカのことが好きだったみたいだからな。今ならこのカムランに滞在しているのにな。
「そや、このカムランを支配していたポウラは、闇の騎士アロンダイトと婚約していたと言っていたな」
「ふむ。アロンダイトか」
顎をしゃくるシベリウス。なにか覚えがあるらしいな。
光の騎士マナスとセットでアルラトゥに洗脳されていたけどな。
今は二人ともどうしているか知らんけど。
「知ってるのか?」
「ああ。ヤツの肌は“褐色”だったであろう?」
よく覚えちゃいないがな。会ったのも随分と前だからなぁ……。
細身でガリガリ。男前なのはなんとなく憶えている。というか、アルラトゥに洗脳されて狂人騎士だったことしか……。
ほとんど俺が襲われていたしな。
「それがなんだ?」
「ヤツはダークエルフの子。ハーフなのだ」
「なに!? ダークエルフのハーフだったのか……」
「そうだ。故に高寿命や高魔力も遺伝しているはず。そして、闇の力も強いのだ」
そうだな、ダークエルフと言えば『闇魔法使い』だ。闇属性をこよなく愛し、その力を行使する。
かつてダークアヴァロンにも、ダークエルフが住んでいたっけな。
あれは【聖地ガウェイン】だったか。
……ああ、思い出してきたぞ。
元エルフの長にして、星の王クラウディオス・プトレマイオス。
あの褐色肌のダークエルフの少女。
そや、アイツが【死の呪い】を作ったと言っていたような……。
そのクラウディオスも今は、どこでなにをしているやら不明だ。
「クラウディオス・プトレマイオス……」
「ほぅ。星の王の名を知っているとはな。サトル、お主は修羅の道を歩んできたようだな」
「そうさ、俺は何度も死ぬほどの地獄を味わってきた。転生も何十回したやらな」
「相当苦労しているようだな。女神や聖女、生粋のエルフ……そして聖者を連れているパーティは非常に珍しい」
見抜かれていたか。てか、一緒に過ごしていれば解かるか。
「話を戻そう。グレンに会いたいのか?」
「我らエルフと人間では寿命が違いすぎるからな。一度くらいは会っておきたい」
「俺に探せってか」
「そうだ。幸い、このカムランには“特殊転移用のゲート”がある」
「……! ゲートだって?」
それだよそれ! それを知りたかった!
今、ベルが全力で探してくれているソレ!
「ああ。各聖地と繋がっているのだ」
「マジか!! 聖地アーサーへ行けるのか!?」
「そうだ」
「やった! 俺たちの目的は聖地アーサーなんだよ!」
「喜ぶのはまだ早い」
「え」
「特殊転移用のゲート『レンブラント』は、花の王ミクトラン様でなければ解放できぬ」
がっくし項垂れるシベリウス。俺もそれを聞いて落胆――するわけがない! ミクトランでなければだと?
おいおい、待ってくれよ。
それはつまり“アルクトゥルス”ってことだよな。
なら俺で十分じゃないか!
俺はアイツであり、アイツも俺なのだから。
「俺が解放してやる」
「なにを戯けたことを。人間であるお主には無理であろう」
「試してみれば解かるさ。そのゲートに案内してくれ」
「……無駄だと思うがな」
「いいから」
「仕方ない。では、西門にあるゲートへ向かおう」
ベンチから立ち上がるシベリウスは、西門へ向かう。俺もついていく。
これで聖地アーサーへ向かえるかもしれないな!




