第472話 火属性魔法ファイアーボルト十連
俺は一人で再びメサイアのいる現場へ戻った。
ルクルの土地には、多くの『自販機』が設置されていた。……おぉ、スゲェ。
ズラリと並ぶ光景は圧巻だった。
「よう、メサイア。お疲れ様」
「……疲れたわ。もうクタクタよ」
汚れることおかまいなしで地面に大の字で倒れるメサイア。よくやってくれたよ、本当に。
「感謝する。ありがとうな」
「ふ、ふん。別に……あんたの為にがんばったんじゃないんだからねッ!」
なんだその古臭いツンデレ。
まあ可愛いけどさ。
「フォルがおでんを作ってくれた。メサイアも食べたらどうだ?」
「食べるっ! お腹空いたもん!」
飯と聞いて立ち上がるメサイアは、瞳を星のように輝かせていた。さっきの疲れはどこへ……?
どのみち、メサイアにも試食してもらわないとな。
いったん、ルクルの家を目指す。
「ところで、おでんの缶は出来たのか?」
「自販機の製造で魔力切れだし、そんなの後回しよ。とりあえず、おでん食べたい」
「仕方ないな。解かった。食ったら缶を作ってくれよ」
「任せなさい! ……と、いいたところだけど空腹で倒れそう……」
その場に液体となって倒れるメサイア。おいおい!
こうなったら動けないな。
やれやれ。俺が支えてやらないとダメなんだから、この女神様は。
「おんぶいしていく」
「え、ちょ……」
頬を赤くして瞳を潤ませるメサイア。恥ずかしそうにしていた。俺だって恥ずかしいけどな。でもこうしないと運べないのさ。
「残念ながら、先にリースをお姫様抱っこしたからな。お前はおんぶだ」
「なによ、その扱い。私もお姫様抱っこにして大切にしなさいよっ」
「いやだって、その方が密着できるし」
「ば、ばかっ」
なんだかんだ言いながらもメサイアは俺の背中に乗ってきた。柔らかい感触が背中に伝わってきた。
しかし、軽いなコイツ。
メサイアを担ぎながら――いや、おんぶしながらルクルの家を目指すと道中で止められた。
「まてい!」
「……ん?」
そこには騎士の格好をした男のエルフがいた。
なんだ、コイツ。
「貴様だな、ポウラの仲間というのは!」
「はい?」
「よくもカムランを!!」
いきなり剣で切りかかってくる騎士。いやいや、おかしいって。
俺このカムランを救ったんだがな。
「ポウラを倒したのは俺だ」
「ふざけるな! お前のような軟弱者がポウラを倒した!? あえりぬ!」
「って、言われてもなぁ」
面倒くせぇなあ。
ただでさえ、メサイアを抱えているってーのに。
けどいいか、俺の場合は【超覚醒オートスキル】で自動に攻撃できるからな!!
敵意を向けられれば当然、オートスキルが反応を示す。
水属性魔法『ヒドゥンクレバス』が発動し、氷がエルフの騎士を襲った。
「ぎょおおおおお!? な、なんだァ!? う、腕が凍った!」
「だから止めておけと――は、言ってないな」
「よくも!! こうなれば……!」
突然、エルフの騎士の腕が燃え上がり、ヒドゥンクレバスの凍結が解除された。バリンと氷が砕け散った。マジかよ!
「火の魔法か!」
「そう、私は火属性魔法の使い手……! 貴様に地獄を見せてやろう!」
「地獄だって?」
「そうだ。喰らうがいいッ! ファイアーボルト十連ッ!!」
あれは『炎の騎士グレン・アーカム』の“七連”を超える――十連だと!?
剣から放たれる槍のような火の塊。
それがこっちに向かってきていた。
当然、俺の【超覚醒オートスキル】も反撃を開始する。
またもヒドゥンクレバスが発動するが、ファイアーボルト十連を前に溶かされた。……チッ、ダメか。
少々面倒だが、潔く回避していく。
「……サトル、いつの間に戦っていたのよ」
「メサイア、気を失っていたのか」
「ええ、空腹でね」
「そうか。戦闘でちょっと揺れるかもしれんが。嫌なら降ろすぞ」
「降ろしたら、あんたの股間に噛みついてやる」
「……解かった。このまま戦う」
さすがに俺の股間を破壊されちゃ困るからな。
「なにをやっている、この軟弱者ッ!」
「人をそんな風に呼ぶな!」
このエルフを倒さねば、ルクルの家に辿り着けない。ならば本気でいくしかない!
「所詮お前は水属性魔法しか使えぬ人間! これでオシマイだ。最大出力――ファイアーボルト三十連!!」
ファイアーボルトをいきなり三十連だと!?
おいおい、どうなってやがる。
「な……あのグレン・アーカムを超えてるじゃねぇか!」
「炭となって消えるがいいッ――って、なにぃ!?」
エルフの騎士は攻撃を辞めていた。
なぜか驚いて固まっていたんだ。
「どうした?」
「お前、今……グレン・アーカムと言ったか?」
「ああ。それがどうした?」
「……まさかあの男を知っているヤツがいたとはな!」
「へ?」
「ヤツは我が弟子でね。馬鹿弟子が……ロクに顔も出さず、どこで何をしているのやら」
ブツブツと愚痴を漏らす騎士。ちょ、まて……これは容疑が晴れたということでいいのか?
「戦わなくていいのか?」
「すまぬ。勘違いだったようだ!」
「え」
「グレン・アーカムを知る者に出会えるとはな。もしや、その妹も」
「あ、ああ……一緒に旅をしたことがあるからな」
「ほう、アグニ・アーカムも。ならば、お前は味方だ!!」
えぇ……さっきまでの敵意がまるでなくなった。騎士は俺たちについてくるという。なんでそうなるんだよ。
しかし、グレン・アーカムに師匠がいたとはなぁ。
 




