第456話 召喚されし巨人のおっさん
まさか巨人のおっさんが召喚されるとは。
しかも騎士っぽい、騎士風な格好はしていた。でも、おっさんだ。
『…………』
おっさんは、俺たちを見下す。
10メートルはあるだろうか。
トンデモナイ迫力だ。天井が高くて良かったな。
「おい、ポウラ。正々堂々と戦え」
「これがわたしの戦い方だ!」
指を鳴らすポウラ。それが合図だったようで、巨人のおっさんは腕を振りかぶっていた。……やっべえ!
俺はリースを抱えたまま遁走する。
逃げるが勝ちである!
どのみち【オートスキル】で魔法スキルが自動発動するからなッ!
「サトルさん、あの巨人さん怖いですぅ~…!」
俺の胸の中で縮こまるリースは、小動物のように可愛かった。やばい、やばいよそれ! 俺が胸キュン死しちまうぜ……!
いい意味で吐血しそうになっていると、巨人のおっさんの蹴りが落ちてきた。
「むん!」
ギリギリで回避。おでこの辺りを掠めたがセーフ! ……あぶねえ、あぶねえ。もうすぐで頭が吹き飛ぶところだったぜ。
つーか、剣は使わんのかーい!
あの腰の剣は飾りなのか……?
「ちょこまかと!」
ポウラは遠くで俺と巨人のおっさんの戦いを傍観していた。いっそ、アイツを叩いた方が早いかもしれん。
「そうだ、サトルさん。あたしがポウラを倒します!」
「え……」
「二手に別れれば――」
「嫌だ」
「え」
「リースを抱えたまま勝利したいんだッ」(めちゃくちゃ辛い表情の俺)
このままがどれだけ幸せなことか。
かつてないパワーを俺は得られているので、リースをお姫様抱っこしたままの方が逆に俺は最強になれるのだ。
「それでは仕方ありませんね。このままでっ」
ご機嫌に微笑むリース。
よっしゃあああああああっ!
「だから、戦闘中にイチャイチャするなと言うとるだろうがああああああああああああ……!!」
痺れを切らすポウラは、いつの間にか巨人のおっさんの肩に乗っていた。見ていない隙に移動していたか。
てか、こうしてみると……それっぽいというか。様になっているな。
確かにこんな敵を相手に戦えるエルフは数少ないだろうな。
おっさんの口から炎が吐かれた。
なんて大きさだ。
だが、俺の『覚醒煉獄』も負けちゃいねえぜ?
「反撃っ!」
「ぐ、ぬうううう……!」
俺の覚醒煉獄とおっさんの口から出た炎が拮抗する。
まさか火力がほぼ一緒だとはな!
だが、こっちには世界一、いや宇宙一可愛いエルフがいるんだぜ。
気づけば超巨大な魔法陣が出現。これはリースの本気の本気。ガチ大魔法だ。
「愛のホーリーグレイル!」
杖を巨人のおっさんに向けるリースは、魔法陣から超巨大魔導法をぶっ放した。あのおっさんのサイズを遥かに凌ぐ超高出力の魔法スキル。
俺のエンデュランスと相違ないレベルだ。
「ぐ、うああああああああああああああああああああああ…………!!!」
白い閃光に包まれる巨人のおっさんとポウラ。
やはり、俺とリースが力を合わせれば最強だな!
視界が晴れると、巨人のおっさんは消失。
ポウラは消えていた。
どこへ行った? 微かに気配が残っているんだよな。
「リース、気配を追えるか?」
「今やっていますが……逃げたようです」
「なるほどね。逃げ足の速い奴め」
まさか、リースのホーリーグレイルから逃げるヤツがいるとは。潔く敗北を認めて浴びておけばよかったものを。
余計に辛くなるだけだぜ。
それから、ユーモレスク宮殿内を探し回ったが、ポウラの姿は見つからなかった。
雲隠れしやがった!
「……マジか」
「困りましたね」
「奴隷にされていたエルフ達は解放したけどね」
「はい。みなさん大変喜んでいました。さすが、サトルさんですっ!」
しかも、性別を戻す方法が判明した。
一日に一回使える『ディスペル』を使えばいいということだった。でも、一日に一回だぞ。このカムランに何百、何万のエルフがいるんだよ……!
こりゃ、気が遠くなる作業というか、魔力的に無理だ。
「どうすっかねえ」
「ディスペルを強化するしかありません」
「その手があったか!」
「はい。このカムランならディスペルのレベルアップができるかも」
「心当たりが?」
こくっと頷くリース。よし、いったん宮殿を出てみんなと合流だ!




