第455話 二度も寝取られて婚約者を奪われたエルフ
「アロンダイトとは婚約していた」
悲しげな表情でポウラは言葉を振り絞った。……めちゃくちゃ辛そうじゃねえか。
「マジか」
「しかも、二回も寝取られた……!」
「「二回も!?」」
俺とリースは激しく驚いた。二回も婚約者を寝取られるって、どんな状況だよ。てか、コイツは不運だな。
どうやら、ポウラは結婚を間近にしてアロンダイトを奪われたようだな。
一番目の女性エルフを殺害。
二番目の女性エルフは逃げられたという。
……逃げられたのか。
「一番目の女は、よりにもよってわたしの親友だった……!」
「そりゃ災難だったな。つか殺すなよ、この殺人鬼」
「そして二番目! その女は突然、このカムランに現れてアロンダイトを奪い去って言った! そう、丁度お前が抱いているエルフのような女だった!!」
リース?
そんなわけないよな。リースのようなエルフ? そんな天使のようなエルフが何人もいてたまるか! いや、いないこともないのか。
「あたしは違いますよ!?」
必死に訴えてくるリース。もちろん信じているさ。
「ああ、解かってる。おい、ポウラ! リースに似ているとか適当なこと言うんじゃねえぞ」
「いや、そっくりだ。瓜二つといっても過言ではないッ!」
殺意の眼差しでリースを睨むポウラ。おいおい、そんな魔王みたいな目つきでこっちを見るんじゃない。リースが怯えているだろうが。
「し、知りません……」
「リースとか言ったな。名前は違うようだが……もしや、カローラという名に覚えが?」
「「へ…………」」
その名前を耳にして、俺もリースも目を合わせた。カ、カローラって……まさか。
リースの姉じゃないか!
カムランに来ていたのか!
そもそも、カローラも騎士のひとりだった。今は引退したようだが、なるほど。アロンダイトと関係性は深いといってもいいだろう。
「カローラを知っているのか!!」
「え! し、知りませんよぉ!」
と、超焦りながら誤魔化すリース。いや、表情に出ちゃってるよ。これは直ぐにバレるな。
「嘘をつけええええええ!」
ですよねー…。
「……カローラは、あたしのお姉ちゃんです! なにか文句でも!?」
「大ありだ! 許さぬ……絶対に許さんぞ! その妹であろうとも!」
性別変換スキル『ペルソナ・ノン・グラータ』を放つポウラ。どうやら、リースを美男子にする気らしい! ヤメロ!!
男の子版のリースは出来れば見たくないッ!
このお姫様抱っこしている状況では、ちょっと辛い。
でも、リースはリースだ。
どんな状況になろうとも、俺は受け入れるが――でも、やっぱり女の子がいいッ! そうだろ!?
「うぉおおおらあああああッ」
気合でペルソナ・ノン・グラータを回避する俺。……っぶねえ。あと移動があと数秒遅れていたら、怪光線がリースに命中していた。その結果は俺にとっては辛いものになる。ガラスのハートが砕け散ってしまうぜ。
「その金髪エルフをいつまで抱いている!!」
「うるせー! 俺とリースはラブラブなんだよ!」
「許さん!! お前たちだけが幸せになるなど許さん!!」
「いや、無関係だろうが!!」
文句ならカローラに言えよな。今なら『レメディオス』の魔導図書館の管理人をやっているぞ。って、教えてやらないけどな!
超覚醒オートスキル『覚醒煉獄』を自動で放つ。
生きた炎が揺らめき、ポウラを襲う。
「――ッ! 貴様、立っているだけで魔法スキルを放つとはな!」
「女神のくれたオートスキルさ!」
「くだらぬ!! ペルソナ・ノン・グラータ!」
俺に向けてくるが――当然、女体化などならない。リースさえ守れれば、こっちの圧倒的有利! 勝てる……勝てるぞ!
そして、いつの間にか魔法陣を展開するリース。
「プロミネンス」
静かに火属性魔法を唱えて爆炎を放出していた。
杖を出すということは“本気”であることの証。
強烈で凶悪、禍々しくも美しい紅の炎が愛のように燃え盛る。それはポウラを包み込んだ。……やったか!?
――いや、まだ立っているな。
「ぐぅううう! 火属性魔法の最強スキルか……ならば、こちらは騎士らしく振舞おう」
鞘から剣を抜くポウラ。
そうだったな。騎士だったな。
「向こうも何かする気らしい。俺のオートスキルとリースの大魔法で力を合わせれば勝てるはずだ」
「はいっ。がんばります!」
俺は全速力で駆けていく。
空間が無駄に広くて助かったぜ。
様々なオートスキルを発動していくが、ポウラは防御しながらも大技スキルを放ってきた。
「ロクス・ソルス!」
なんだ、この異様な気配。黒い物体がリースのプロミネンスを振り払い、俺のオートスキルすらも弾いていた。
なんだ、人型!?
『ぬうううううううううううううん!!』
なにかが雄叫びを上げ、それは巨大化した。
え、
は?
「なんだこりゃああああああああああああ……!!」
目の前に聳え立つ“おっさん”は、俺とリースを見下していた。
ま、まさか!
召喚術を使ったのか!
そういえば、扉の前にいたエルフたちが言っていたな。
騎士が召喚術? それもなんだか変な話である。そうか、コイツは騎士としてはヘッポコなんだ。この謎の召喚術がヤバいのかもしれない。
「騎士として振舞うって、どこがだよ!」
「黙れ! 言っておくが、ロクス・ソルスはただのおっさんではない。わたしの代わりに戦ってくれるのさ。騎士としてな!」
な、なんだってえ!?




