第444話 裸の神王と女神
メサイアの作った小屋は岩のように頑丈だ。
おかげで倒壊することなく安全に過ごすことができた。
凍死することなく無事に朝を迎え、外の天候も良好に。猛吹雪は過ぎ去った。
昨晩は人肌(リースとフォル)のおかげで温かかったし、寝心地も最高だったなぁ……。
みんなはまだ眠っている。
俺はそっと起き上がり、シャワーでも浴びることにした。
この小屋はメサイアの【建築スキル】によって、なかなか広くて家のような機能性が備わっている。
トイレも風呂もあるし、キッチンもある。
おかげで不便なく暮らせているわけだ。
ありがたいことだねッ。
――というワケで俺は、朝シャワーを浴びに浴室へ向かった。
脱衣所で服を脱ぎ、シャワー室の扉を開け…………え?
「……? サトル、あ、あんた……」
「メサイア! なんだ、入っていたのか」
しまった、まったく気づかなかった。メサイアのヤツ、シャワーを浴びていたのかよ。当然だが全裸だった。俺もだけど。
メサイアは俺の股の方へ視線を落とし、醜いオークでも見るかのような表情を作った。おい、どんな顔だよソレ。
「へー、ふーん」
「ちょ、おま……どういう意味だ」
「別に」
と、俺の横を素通りしていくメサイア。よく見ると耳まで赤くなっていた。もしかして無理していたのか……!?
シャワーを浴び、スッキリした。
こんな山奥でお湯を浴びれるなんて最高だなぁ。
リースの魔法スキルの補助で雪を溶かしているらしいが。
みんなまだ眠っているので、俺は外の様子を見に。
メサイアもついてきた。
「ん、一緒に来るのか?」
「ま、まあね」
「てか、顔が赤くないか?」
「う、うっさいわ! 朝っぱらからヘンなもの見せつけられたせいよ!」
ヘンなものってヒドイなぁ。
これでも自慢の息子なんだぜ。
やれやれと思いながらも、先へ進む。
足跡ひとつない雪原が広がり、白一色だった。すげえ……てか、寒い。
『…………!』
まずは散歩だな。
周辺に危険なモンスターがいないかもチェックだ。
「メサイア、迷子になるなよ」
「フォルじゃあるまいし」
ぶ~と、妙に頬を膨らませるメサイアは、ちょっと機嫌が悪そうだった。
『……!!』
それにしても、なんか付いてきているような。
「なあ、メサイア」
「なによ」
「お前の体、エロかったぜ」
「ぶっ飛ばす!!」
ブチギレるメサイアは、白色に光る手のひらを向けてくる。やっべえ、必殺スキルを発動してやがる。くらったら重症だぞ、それは!
「冗談だって!」
「そうだったわ。裸を見られたの忘れてたっ!」
「今更思い出すなよ!? もうニ十分も前のことじゃないか!」
「それでも!」
メサイアは、走って追いかけてくる。そんな鬼みたいに!
走りづらいが雪の上を駆けていく――って、無理ぃ! 雪が深い。ズボズボと足が取られて進みづらい。かんじき、スパイク、アイゼン、スノーシューズなんでもいい……安定して歩けるモノが欲しいな!
「まて! 女体は見慣れているんだ。だからな、別になんとも思わなかった!」
そうだ、俺には聖女の体・ヘデラがいるからなぁ。朝、メサイアの全裸を目撃しても、ピクリとも反応しなかった。以前の俺ならありえないな。
「どういう意味よ、それ!! 許せないわ!!」
「ええッ!?」
「女神の体で興奮しないとかあああああああ!!」
なんでえええ!?
そんな理不尽なッ!
怒り爆発のメサイアは、十分な魔力が溜まったのか俺に手のひらを向け『シャイン・ブレイズ・フィンガー』を放ってきた。
うぉい!!
ズゴォォォォォっとトンでもない轟音と共に、これまたトンでもない魔力の塊が俺に迫ってきた。
ぴょんと跳躍して回避する俺。
なんとかメサイアの大技スキルを躱した。
しかし、いつの間にかいたらしいモンスターにその大技が激突。
『ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!』
そや、さっきから俺の周りをウロチョロしている気配があると思ったら……モンスターの『雪男』だったのかよ。
白いモコモコの人型が空高く舞っていく。
【 雪男を討伐しました 】
= リザルト =
【 13,000 の 経験値 を 獲得しました 】
【 10セル を 入手しました 】
【 雪男の毛 × 10個 を 入手しました 】
おや、リザルトも出たな。
なんだか久しぶりに出たような。
ああ、そうか。モンスターなんてあんまり狩っていなかったしな。当然か。
「ナイス、メサイア!」
「はぁ!? ナイスって……ん、今のモンスターだったのね」
「そうだ。危険を排除したんだ」
「って、誤魔化すんじゃないわよ。裸を見た罪を償え~~~!」
まだ怒ってるし。
こりゃ機嫌を取り戻して貰わないと大変だ。仕方ないので俺はメサイアの手を握った。
「まて」
「……っ! サ、サトル。……顔が近いって」
「すまなかった。実は興奮していたんだ」
「え……! ほんと?」
「ああ。恥ずかしくて本当のことを言えなかった」
「そっかそっか。ならいいわ!」
ニコッと笑うメサイアは機嫌を取り戻していた。単純で助かるぜ。
「……ふぅ」
「ん?」
「いや、なんでもないさ。ところで、ここって『ケントゥリア』じゃないか?」
「あ……」
前の前には大きな山があった。
この先の麓では、パーティやギルドが今も拠点にしているのだろうか。少し気になるな。
「ちょっと寄ってみるか」
「そうね。様子を見に行くくらいなら」
そういえば、メサイアと二人きりで歩き回るのも久しぶりだな。たまにはいいな。
 




