第441話 聖女の目覚め
気絶しているフォルの柔らかい頬を優しくペシペシと叩く。
「おい、起きろ。フォル」
「ん~~~……」
少しすると声を漏らし、朝起きるみたいにして目をパチクリさせた。まつ毛なげぇな……じゃなくて。
「ようやく目を覚ましたか」
「え……。あれ、わたくしが目の前に」
「な~に寝ぼけてる。俺だよ、俺」
「オレオレ詐欺!?」
「ちゃうわッ!」
てか、この異世界にオレオレ詐欺はないだろう? ……多分。
「あ、女の子版の兄様! それにネメシアちゃん。トーチカちゃんに謎のエルフちゃんも!」
みんなを認識するとフォルは嬉しそうに微笑み、特にネメシアに抱き着いて頭を撫でまくっていた。
「ちょ、ちょ! フォルトゥナ母様ってば……」
「こんなに大きくなって! 可愛い~」
「ぜんぜん変わってないよ~…。もぅ」
フォルの猛烈な勢いに観念したのか、ネメシアはされるがままだった。そんな猫みたいに可愛がりすぎだろう。気持ちは分かるけどっ!
「さて、フォル。そろそろメサイア達と合流せねばな」
「そうでした。ご心配おかけしました……」
「俺はいいさ。みんなに謝るんだ」
「はい。これからグロリアステレポートで――」
「ヤメレ!!」
次はアイアンドラゴンの鱗では済まないかもしれん。もっとヤバいボスモンスターに引っ掛かっていたら救出困難だぞ。人質に取られているようなものだからな。
さっきのドラゴンだって結構苦労したんだぜ。
いったん、この場所から離れようとしたが――ああ、そうだ。
アフロのオッサンこと、アルカトオスのことを忘れていた。ネメシアに問い合わせると、忘れていたらしい。
「そうだった! ホワイトから出すわね!」
ぽんっと瓶の栓を抜くのように現れるアルカトオス。現状が理解できていないのか、ポカンとしていた。
「……こ、ここは」
「鉄の街ジャービスだよ。アイアンドラゴンはぶっ倒した」
「おぉ! ありがとうございます。あのドラゴンのせいで鉄の街は錆だらけな上に、寂れ放題で……」
ダジャレはともかく、そうか。だから人が全然いなかったんだ。
ドラゴンの支配があったんだろうな。
あと不良共も便乗して街を荒らしていたに違いない。
「じゃ、帰っていいぞ」
「ありがとうございます、聖女様! ちなみに、お名前は?」
「ヘデラだ」
「ヘデラ様! おぉ、あのレメディオスの聖女様ですか!」
最初会った時はネメシアのことしか知らなかったようだが、なんだ俺のことも知っているんじゃないか。もうどうでもいいけどな!
アルカトオスを街へ返し、俺は改めてネメシアたちに振り向いた。
「そいじゃ、俺はメサイア達との旅を続ける。まあ、いつも通りヘデラでもお前たちを守るさ」
「うん、ありがとね、パパ」
妙に寂しそうに視線を送るネメシア。
まったく、そんな子供みたいに見つめられては――いや、子供だったな。俺の大切な我が子だ。
「俺はいつもヘデラとして隣にいるさ」
「解かってるけど、やっぱりね……。男の方でもたまには顔を出してね」
「ああ。早いうちに来るさ!」
話がまとまったところで、今回はエコに“転移”をお願いした。一応、エルフだからな。
「私に任せなさい!」
未だに少女モードのエコは、エルフ耳をピンピンさせながら、ついでに口元も『ω』になって機嫌が良さそうだった。
今回結構活躍してくれたからな、感謝だ。
「行先は『神聖国ネポムセイノ領のクァンタム高原』です」
そうフォルが告げると、エコは目の前に光の柱を出した。これはワープスキルだな。
「行ってこい、フォル」
「ええ、兄様。向こうで会いましょう!」
みんなとも挨拶を交わし、フォルは光の柱の中へ飛び込んだ。俺たちの出番はここまでだな。
「ヘデラ、なんだか嬉しそう~」
じぃっと見つめてくるトーチカ。そりゃ、なあ……? でも、久しぶりにこっちのパーティにも参加できて最高だったけどな。特にネメシアの顔が見れて気分転換になった。いつも見てるけど。
「なぁに、パパ」
「ネメシア、レメディオスへ戻ろう」
「そうね! あそこがわたしたちの家だものね!」
俺たちは『鉄の街ジャービス』を後にし、故郷レメディオスを目指した――!
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