第434話 魔導図書館
俺のメイン意識は『ヘデラ』へ移った。
そもそも、ヘデラでも俺は動いているわけだが。だから、今までネメシアと行動していることも憶えていた。
そうそう、温泉に無理やり連れてこられて……無理やり裸にされたのだった。
「お、おい。ネメシア……! どこを触っている!?」
「どこって、別に女同士なんだし……でもないか」
「そうだ。ヘデラの中身はパパだぞ」
その昔、俺は肉体が滅んで二度目(+α)の転生を果たした。その先で謎の女神と会った。それがネメシアであった。
おかげで俺は、新たにフォルに似た『ヘデラ』という聖女にTS転生。
まさか女としての人生も待ち受けているとは思わなかったね。
今や、理とヘデラは一心同体。分裂してそれぞれで行動しているが、記憶は共有されているし、普通に日常生活を送っていた。
ただ、片方に意識を向けると、さすがにちょっとだけ記憶が薄れるんだよな。
「いい湯だにゃ~~~…」
すでにエコは、湯に浸かっていた。猫が温泉好きとは――いや、今更だが。この黒猫は相変わらずよく分からん生物だ。まあ、本当はエルフの少女なんだが。
もともとはリースがヘルサモンで召喚したトンデモ召喚獣なんだよな。目からビームだすし。
「……ヘデラ。あたし、おっぱい成長したかもしれない」
平坦なテンションで自身の胸を強調するトーチカ。いやいや、お前は元から大きいだろうがッ。つか、見せつけるな!!
いや、こんなことをしている場合じゃねえって!
「なあ、ネメシア。フォルが行方不明なんだ!」
「え、フォルトゥナ母様が!?」
ざぶんと温泉から飛び出るネメシアは、当然全裸で前も隠さず驚いていた。いや、隠せ!
と、思ったがエコが流れ着いてギリギリセーフ。
「そうなんだ。グロリアステレポートに失敗してね……ちなみに二回目だ」
「あ~…もう。フォルトゥナ母様は昔から突っ走るタイプだからねえ……」
ハァと深いため息を吐くネメシア。さすが、一緒にいた時間が長いだけある。とはいえ、よくよく考えたら俺がヘデラになってから一年半しか経過していないんだよな。
まったく深く考えていなかったが、ネメシアは16歳ほどの少女。なんだか成長速度が異様に早いような……女神だからだろうか?
その辺り、聞いたことがなかったが、今はそんな場合ではない。
「フォルを探すいい方法ないかな?」
「う~ん、そうね。“人探しの魔導書”がこの『レメディオス』にはあったはず!」
「マジか!」
そういえば、ここはレメディオスだったな。
よし、いっちょこっちのパーティで動いてみるか!
◆
温泉を出て俺たちはレメディオスの街を練り歩く。毎日歩いているんだが、久しぶりの気分だな。
最近は男の方をメインに行動していたし。
しかし、女になると視線が低くなるし……胸も揺れて歩き辛いな。
「どうした、ヘデラ」
俺の不調に気づくトーチカは、背後から抱きついてきた。今はいつものメイド服姿で可愛らしい。
「いや~…胸がきついような気がしてな」
「成長したんじゃな~い?」
「なるほど!」
納得しているとネメシアが複雑そうな表情を浮かべていた。
「パ、パパの胸が成長しているとか、どんな顔したらいいのよぅ……」
確かに。
俺としても、妙な気分ではある。
まさか、俺も成長期であるとはな……。まあ、自分で言うのもなんだがガチの美少女だからなぁ。
人とすれ違うたびに視線を浴びまくっている。
「やっぱり、ヘデラは自己肯定感が上がってしまうな」
「ちょ、パパ!」
ネメシアが怒ったので、そろそろ噛みつかれるな。
「ともかく、人探しの魔導書を探そうぜ」
「うん」
歩きながら街中の人に魔導書のことを聞いた。すると、レメディオスの『魔導図書館』にあるらしいことが判明。図書館なんてあったんだな。
そこまで歩いて向かうことに。
しかし、ヘデラで行動した途端、あらゆる男から話しかけられて困る。ナンパは他所でやって欲しいところだね。あと、中身おっさんだからな!
「ヘデラ様はモテモテですね~」
俺の頭上で毛繕いしながらエコは言った。
うれしかねーよ!?
「ああ、クソ。俺が可愛すぎるのがイケないのか!!」
と、叫ぶとネメシアもトーチカも、エコすら『シ~ン』となっていた。……おい、それは一番グサリとくる反応だぞ、お前ら!




