第431話 オートスキルで余裕でした
炎帝の軍師・ロートは生きていた。
てっきり爆発四散と俺は思ったんだがな。
どうやら、しぶとく生き残っていたようだ。
さすがに軍師だけあり、そう簡単にはご臨終とはならんようだ。
「……ルキウス様。ご無事で!」
「ロート。手痛くやられたようだな」
「はっ、申し訳ございません。炎帝の名は返上すべきかもしれません。ですが、これから挽回させていただきたく」
「いいだろう。あのサトルとかいう男の実力を見ておきたいからな」
「お任せください」
どうやら、ロートは俺を倒したいらしい。満身創痍だというのに、そこまでして命を懸ける意味はあるのかね。……あるんだろうな。
仕方ないので、俺はみんなに「手を出すな」と指示を出した。
「サトルさん! でもぉ……」
リースは杖を構え、いつでも大魔法が展開できると準備万端だった。しかし、この状況ではね。あちらさんは一対一の勝負をご所望のようだし。
騎士道精神など皆無の俺だが、これでも優しいのだ。
ご要望に応えてやろうじゃないか。
「心配すんな。俺が三秒で片付けてやる」
「解かりました。でも、無茶はしないでくださいねっ」
そこまで心配されると嬉しいね。
メサイアとベルも渋々ながらも傍観者に徹してくれることになった。大人しくて助かる。
リースはテレパシーを使い、フォルとの通信を試みるといって集中に入った。そっちは任せたぞ。
「……さて、ロート!」
「先ほどは油断したが、次は本気だ」
魔力と闘気を爆発させるロートは、両手に炎を纏わせた。今度は、以前とは比較にならない火力ってところだろう。
なら、火には火だ。
オートスキルが反応し、自動で『覚醒煉獄』が嵐となった火炎を起こす。
「スキルを無詠唱で……? いや、自動発動なのか!」
「そうだ。俺のスキルは“勝手に”発動する。まあ、任意でも使用できるんだが、火力が強すぎて街が吹っ飛ぶからな」
さすがに、ここで大技スキルは厳しい。
貧民街を巻き込む恐れがありすぎてな。
「ならば好都合! 食らうがいい――開闢の業火!!」
接近して拳を下から繰り出すロート。なかなか素早いな……! ベルはこんな攻撃速度のある物理攻撃を回避したのかよ。やるなぁ……!
無論、俺もこれくらいなら回避できた。
なんせ、レベルも10万を超えちまっているからな。
強パンチが俺の顔面目掛けて飛んでくるが、体を仰け反らせて躱した。
「――っぶねッ」
「拳だけではないぞ!」
蹴りも向かってきていた。おぉ、これは食らったら骨折はするな!
「とぅ!」
ブリッジしている体勢でオートスキル『ヒドゥンクレバス』が発動。水属性攻撃のブリザードが開闢の業火を飲み込み、ロートを呆気なく吹き飛ばした。
「ぐおおおおおおおおおおおおおッッ!?」
う~む、ほとんど動くことなく勝ってしまったな。
ロートには悪いが、俺の敵ではなかった。
「さすがサトルね!(……ぼりぼり)」
「お、珍しく褒めてくれるんだな、メサイア――って、なに悠長に醤油味の煎餅食ってんだよ、お前! 懐かしいな!」
出会った頃、メサイアはよく煎餅を食っていたっけな。そんな初期の頃を彷彿とさせるシチュエーションに俺はほっこりきた。
――って、思い出に浸っている場合ではない。
さっさと将軍ルキウスを倒さないと、日が暮れる。
気づけば夕刻に差し掛かっていた。
まずいな、日が落ちるぞ。
こうなったら、多少周辺に影響がでるが大技スキルを使うしかない。
「ロート、やはりお前ではあの男は倒せなかったか……」
ため息交じりに落胆するルキウスは、マントを脱ぎ捨ててゆっくりと歩み寄ってきた。コイツ、本気ってワケか。
「決着をつけようぜ、ルキウス」
「……その前に私の過去を話そう」
「へ?」
「私は、子供の頃貧しい家庭に生まれた。平民だったのだよ。空腹で死にかけたこともあった。だが、私は成り上がった! 世界が混沌に染まったあの時……」
いやぁ、メサイアの煎餅美味いな。
ルキウスの話が流そうなので、俺はみんなと一緒におやつタイム。しかし、ルキウスはベラベラとなにか喋っているようだが、まったく興味が沸かない。
「……うま! これ売ったら売れるんじゃね?」
「そうね、サトル。それは思いつかなかったわ。昔みたいに自動販売機で売る?」
「いいじゃん、それ。名案だぜ」
などと話しているとルキウスは、ブチギレていた。
「うおおおおおおおおおおい! 私の話を無視するなああああああああああああ!!」
そう言われてもねえ。
おやつ食って元気も出たし『本気』出しますかぁ……!
俺は指をゴキゴキさせ、首もバキバキさせ、筋肉を膨張させた。よぉーし、ぶっ飛ばす!




