第430話 婚約なんてする気ない!
フォルは、きっとグロリアステレポートをミスって見知らぬ土地に転移してしまったんだろうなぁ……。まったく、おっちょこちょいというか、失敗を学ばないヤツだ。しかし、そういうところは可愛くもある。
そう、バカな子ほど可愛いともいう。女子限定だがな!
「ハハハ! ひとり勝手に消えたか。まさかテレポートできる仲間がいたとは思わなかったが、それも失敗に終わった。馬鹿な女だ!」
宙に浮く将軍ルキウスは、分かりやすくあざ笑っていた。……あぁん!? フォルを馬鹿にするんじゃねえ。
少しヘンタイな性格もあるけれど、馬鹿ではない。性格が真っ直ぐな脳筋聖女なだけだ。だから接近戦で戦うんだろうけどな。
「ゆ、許せません!!」
急に『ウガー!』とブチギレるリース。
「……んぉ、どうした!?」
「サトルさん。フォルちゃんを馬鹿にされて、あたし……すっごく怒ってます!!」
こんなにプンプンと激怒するリースは、本当に珍しい。けど、そうだな。リースはフォルと仲が良いし、友達が馬鹿にされていい気分になるはずがない。俺もそうだ。
今、全身から“怒り”が湧き出ていた。
あの男は許してはいけない。人をあまりにも馬鹿にしすぎだ。
怒りに燃える俺とリースは、ルキウスに敵意を向けた。メサイアは寝た。――寝るな!!
「Zzz……」
「うぉい、メサイア!」
「――はっ。ごめんごめん、話が長くて……」
「お前なッ! 仲間が侮辱されたんだぞ! 許せねえだろ!?」
「なんですってえええええええええ!!」
メサイアもいきなりブチギレた。
そして、ベルは――うん、冷静だった。
「いやぁ、これでもかなり怒ってるよ。てかね、あんな最低男さっさとぶっ潰すべきだねー」
よぉし! 意見は完全に一致した。ルキウスを棺に直送してやることにした。ズタズタのギタギタのボコボコにしてやろう。
フォルの仇を取るためにも!(死んでないけど!)
「この私を倒す!? それは不可能だな! 貴様たちがどんな力を持とうが、この私には敵わん! 賢者の力で捻じ伏せてやろう……!」
空から優雅に降りてくるルキウス。堂々と手を広げ、余裕綽々といった感じだな。
どぉれ、少し手合わせしてみますか。
俺は一歩前へ出た。
「よろしく、ルキウス」
「ほう。男、貴様のようなゴミカスが相手を? 笑わせてくれ――ぐおおおおおおおおおおお!?」
笑われる前に【超覚醒オートスキル】が発動した。多分、悪口に反応したんだろうな。
久しぶりに聖属性魔法攻撃『オーディール』が放たれ、光の聖櫃が群を成してルキウスに激突。
確かな手応えを感じた――。
「おぉ~! サトルさん、さっすがです!!」
バンザーイと喜ぶリース。そう褒められると照れるっていうか、素直に嬉しいねっ。
あまりに嬉しかったんで、俺はリースと抱擁を交わす。
「戦闘中になにしてるのかな~、理くん」
ベルから肩を掴まれた。おや、表情には出ていないものの妬いてんのか? しかし、一理ある。喜びを分かち合うのは後にしよう。
「さて……ルキウス!」
「…………ぐッ。サトルとか言ったな。貴様、何者だ……!?」
顔を負傷したのかルキウスは、明らかに顔を真っ赤にしていた。おやおや、怒り心頭って感じで怖いね。怖くないけど。
「俺の名は、彼岸花 理。ただの中年のオッサンさ」
「オッサンだと? そうは見えない容姿だが……いったい、いくつなんだお前は」
「歳なんて忘れちまったし、関係ねぇよ。元気で健やかに毎日楽しく生きたもん勝ちさ。それが俺なんだが」
それに、メサイアたちがいるからな。退屈しねえぜ?
「そうか、ならば死ねッ!」
急なヤツだな。俺の言葉はコイツの鼓膜どころから外耳にも届かない。というか、共感なんてしてもらえないだろうと思ったけどな。
まあいい、俺は俺のやり方でコイツを滅するだけだ。
闇の力を借りようとしたが――ベルが盾をブン投げていた。
「てやあぁッ!!」
巨大な盾を軽々と遠投。立ち尽くすルキウスに衝突する寸前で『防御魔法』でガードされた。さすがに展開したか。
「……ベル。なぜ、私と婚約しない! そんな男より、私の方が魅力的だと思わんか!?」
「思わない。婚約なんてする気ないし。わたしは自分で相手を見つけるよ。……見つかっているんだけどね」
「なぜだ。金も力も……そして、将軍という地位もあるこの私の何が気に入らんというのか!」
「単純に好みじゃないってことだよ」
「聞く耳もたん!」
ルキウスの野郎。都合の悪い情報は全部シャットアウトかよ。そうやって自分勝手に振舞ってきたんだろうな。だから、あんな『貧民街』を作り上げたのだろう。
もういい、今度こそぶちのめす。
右手を向けようとすると、ルキウスの前に意外な人物が立っていた。……いつの間に! てか、生きていたのかよ!




