第429話 賢者スキル『プロヴィデンステレポート』
まさかの『強制転移』させられるとは。
場所が暗転すると、その先は見知らぬ荒野だった。……どこなんだ、ココ。
「ちょ、どうなってるの……!」
さすがのメサイアも驚きを隠せないでいた。という俺も、これにはブッタマゲタ。まさか、将軍ルキウスが只者ではなかったとはな。
ヤツは余裕の笑みで佇み、口を開いた。
「ハーデンベルギア、今なら仲間の命だけは見逃してやろう」
「…………その必要はないかな」
冷静に言葉を返すベル。そうだ、その必要はない。俺たちがこんな宝石まみれの優男に負けるワケがねえ。
というか、さっさと成敗して山ダンジョンを踏破したいんだよ、こっちは。
でなければ、いつまで経っても聖地にはたどり着けない。
「そうか。お前たちも所詮、賢者の街・ギンヌンガガプの“弱者”と同じというわけだ……。そうだな、ゴミはゴミというわけだ」
まるで感情がないようにルキウスは、そうあの貧民街の人たちのことを吐き捨てた。
コノヤロー…あの懸命に生きている人々をそこまで侮辱するかッ!
「おい、ルキウス。なぜそこまで貧富の差を作るんだ? 平等でいいだろ!」
「平等? くだらん。実にくだらん。……見よ、我が指で輝く宝石を。このピアス、ネックレス……腕輪などあらゆる豪華なアクセサリー。これらは、私が持ってこそ輝くのだよ。あのクズ共には相応しくない。そうは思わんか?」
同意を求めてくるルキウスだが、俺もみんなも誰一人共感などしなかった。つーか、なんだこのバカ野郎。今すぐチョキでぶん殴りたいぜ。
「ああ、そう。なら、この俺が――」
飛び出そうとした直後、フォルが宙を舞っていた。――ちょ、おい! 気が短いな!
「この、最低男!!」
怒りのまま蹴りを繰り出すフォル。鮮烈な一撃がルキウスの右腕に命中したが、防御された。フォルはそのまま更に『冥王雷神拳』をブチ込んでいた。
雷神もビックリな轟雷がルキウスを襲い、稲妻の嵐が巻き起こった。
これはやったか……!?
少し期待していると、リースが叫んだ。
「気配がまだあります!」
魔力感知に関しては一級品のリース。エルフだから当然だな。
彼女の指さす方向……そこは『空中』だった。
あんなところに?
「おい、アイツ……」
「そうね、サトル。あの男は転移魔法スキルに長けているみたいね」
苦虫を噛み潰したような――いや、違うな。面倒臭そうにメサイアは言葉を漏らした。いつもの怠慢が発動しているな。
しかし、転移魔法とはな。
宙も浮いているし、なにかしらの滞空魔法スキルをお持ちのようだな。だが、俺は至って冷静だった。今まであんな怪物を幾度となく目にしてきたからな。
「聞かせろ、ルキウス。お前が“賢者”なのか?」
「フン、今更気づいたのか。私は賢者の力を持つ! だから、このようにテレポートが可能なのだよ。しかも、ただのテレポートではないッ! 賢者の石を用いた最上級の『プロヴィデンステレポート』なのだよ……!!」
【プロヴィデンステレポート】
【補助スキル】
【効果】
賢者系専用スキル。
このスキルを発動する場合[賢者の石]が必要である。
座標のメモリーは不要となる。
自分・対象問わずあらゆる場所へテレポート可能。人数制限はない。
(立ち入り禁止エリアへのテレポートも可能)
テレポート後、体力を小回復して三秒間だけ[無敵]となる。
このスキルにディレイは存在しない。
高確率で[レイジブースト]状態になる。
低確率で[プロヴィデンス]状態になる。
「こ、これは……」
まさかスキルの詳細を教えてくれるとはな。なかなかに親切なヤツである。
だが、トンデモないスキルだな。
どうやら『賢者』というのは、あながち間違いではなさそうだな。
「くっ! 兄様、あの方……なかなかやりますよ」
こちらに戻ってきて悔しそうに空を見上げるフォルは、そう言いつつも諦めたわけでもなさそうだった。
「まて、フォル」
「わたくしだって『グロリアステレポート』ができますし!」
言うと思ったが、それは以前……大失敗したじゃないか。おかげで神聖国ネポムセイノへ飛ばされてエライ目に遭ったんだがな。
止めようとするものの、フォルはテレポートしてしまった。
「あっ……バカ!」
フォルは、一瞬で姿を消す。
しかし、現れる気配はない。どこへ行った!
「……あ、あのぅ。フォルちゃん……まさか、迷子になったのでは……」
涙目でリースは不吉なことを言った。
――ああ、でもそんな気がしてならないね。
フォルは当面、帰ってこないだろう。
「参ったねー、理くん」
あははーと笑うベルだが、笑えないってーの!
どうすっかねー。




