第427話 無限のシールドスキル
炎帝の軍師・ロートは、赤いフィンガーグローブを両手に嵌めて握りこぶしを作った。
グローブは魔道具らしく、急激に魔力が上昇。お、おい、マジか。
なんだ、この妙な魔力。あまり感じたことがないタイプだ。
「…………これは」
一番魔力に敏感であるリースが困惑の表情を浮かべていた。
「リース、アレはなんだと思う?」
「これは魔力と闘気の混じり合った特殊なエネルギーです……!」
魔力と闘気?
そんな組み合わせがあるのか。あの魔道具のなせる業か。
なんにせよ、危険を感じた。
「ベル!」
「大丈夫だよ、理くん。わたしに任せて」
前に出るベルは、俺たちには動くなと目配りをした。そこまで覚悟を決められると手を出せないな。
つか、あの軍師を倒せるのか?
――いや、ベルなら大丈夫だ。聖者であり、最強のシールド使いのベルなら。
俺は何度も彼女の活躍を目の当たりにしている。
ああ、そうだ。大丈夫だ。俺が信じなくてどうするッ!
直後、ロートは両手に“炎”を纏わせていた。も、燃えただと……? しかも本人は熱くないようで平然としていた。ヤケドしないんだな。
相手にのみダメージを与える特殊な炎ってところか。
「開闢の業火……!」
右ストレートがベルの顔目掛けて飛んでくるものの、巨大シールドで防御していた。ガンッと鈍い音が周囲に響き渡る。
「……ッッ!」
ベルは大技を受け止めてはいたが、物凄い衝撃に膝をつきそうになっていた。マジかよ、ありえねえ! あのベルが!
「ガードしたつもりでしょうが、私のスキルはこれだけではない」
ぼうっと炎が燃え広がると、シールドを超えてベルにダメージを与えようとしていた。おいおい、ウソだろ。まるで生き物みたいに炎が動いていやがる。
そんなの反則だろう!
「インフィニティシールド」
淡々と盾を増やすベルは、炎を耐えた。うぉ、あぶねえ、セーフだな!
「さすがベルね。私は信じていたわ!」
心配そうな表情で褒めたたえるメサイアだが、なんか顔と一致していないというか、やっぱり心配なんだな。
「シールド使いとは厄介な」
「悪いね、ロート。わたしは防御しか取り柄がないんだ。でも、攻撃もできる。こんな風にね――!」
空から“ぴゅ~”となにか降ってくる。
それはロートの頭上目掛けて落ちてきた。
「なんですと!?」
ズゥゥゥンと地響きを立て、それは落下した。
こ、これは『グレイスシールド』じゃないか。巨大な盾だ。
なるほど、盾を空から召喚してプレスしたわけか。
以前こんなことがあったような気がするな。あれはモンスター相手だった気がするけど。
「挟まれちゃったね、ロート」
「……ぐ、無念」
がっくし項垂れるロート。どうやら、ベルの勝ちのようだな。
「お疲れ、ベル」
「あー、うん」
納得していないような顔だな。
「どうしたのさ?」
「いや~、なんか弱すぎる気が」
「俺たちが強くなりすぎたのさ」
「そうかな」
楽観的な空気が流れる中、ロートが不気味に笑っていやがった。
「……フ、ハハハ」
「なにがおかしい、ジジイ」
「油断したな」
巨大盾に潰されているというのに――いや、まてよ。まだ何か罠が?
「貴様、なにを!」
「私は将軍ルキウスの為なら……この身を捧げる覚悟! 我が体には、自爆用の魔導アイテムが巻きつけてある。このまま、お前たちを道連れにしてやるッ!」
「な、なんだってえ!?」これは俺。続いてメサイアが「ちょ、ふざけないでよ!!」とブチギレる。
フォルは「グロリアステレポートしますか!?」と提案を。リースは目をぐるぐるさせ、あわあわ状態。ですよね。
ベルは指を鳴らして巨大盾をまた召喚していた。
「ルーンシールド」
どぉぉぉぉぉぉんと落下して、グレイスシールドを凌ぐ大きさの盾がカバーとなって蓋をした。
「あ……」
最期に聞こえたロートの絶望感のある一言。
そして、数秒後には爆発を起こして『ボーン!』と盾の中で破裂音がした。
「ナイス、ベル。まさか盾でロートを動けなくして、更にその上に巨大な盾で蓋をするとはね」
「臭いものには蓋ってわけではないけどね」
ある意味合っているな。
盾の中ではきっとロートは自爆してくたばっていることだろう。愚かなり。
つか、ベルは無限のようにシールドスキルを所持しているし……魔道具では勝てるはずがない。
軍師を撃破したところで、次は将軍だ。
スターバトマーテル城は目の前だ。この中にきっとルキウスはいる。




