第426話 あえて言う、婚約破棄と!
自信たっぷりのメサイアは、右手を翳し――ブツブツと詠唱を始めた。……ま、まさか大魔法をお見舞いするんじゃなかろうな。
その嫌な予感は的中した。
俺が「おい、やめ……」と言いかけたところで――
「シュネーヴァイス!!」
あれは女神専用スキルじゃないか……!
超絶広範囲にレーザーのような聖属性攻撃を放つ一撃必殺のスキル。そんなバケモン級を放つとは!
まばゆい光は、左から右へと一閃して兵を吹き飛ばした。
「どうあああああああああああ!」「ぎゃああああああああ!」「ひょええええええええ!」「ひえええええええ!」「ばばばばばば!」「ぐぼぁ!?」「ぬががががが!」
などな悲鳴が上がるや、そこにいたはずの数百人の兵が消し飛んでいた。
「あ~…やっちまったな。メサイア」
「どうよ、サトル。これが女神の力ってモンよ」
えっへんと無駄に大きい胸を張るメサイアは、満足げな表情を浮かべていた。という俺も、少し胸がスッとしたね。
ヤツ等は貧民街を生み出し、か弱い人々から色々奪ってきたんだからな。自業自得である。
数百の兵たちは、あっちこっちに吹き飛んで倒れていた。死屍累々とはこのことか。
――だが、威力は抑えたようで兵たちは死んではいなかった。
さすがに数百の死体は見たくないね。
「シアは手加減ないねえー」
ぽつっと感想をつぶやくベルは、大きな盾を“召喚”して構えていた。あれはメイン装備のエターナルシールドか。
そんな物騒なモンを殺気立てて構えるとは――む?
奥の建物から軍服に身を包む男が現れた。
あれが『将軍ルキウス』なのか……?
白髪に片眼鏡をした、ちょっと執事っぽい雰囲気の老人。な、なんだこの男……まるで魔力を感じない。ただの一般人のような、そんな気配だった。
「…………ハーデンベルギア様、よくぞ参られました」
渋い声でベルの名を口にする。
なるほど、そういえばベルは将軍ルキウスから婚約を迫られたと言っていたっけな。コイツと顔見知りでもおかしくないわけだ。
「ベルさん、あの方……」
珍しく怯えながら警戒するフォル。コイツがこんなに身構えるとはな。ということは、あの片眼鏡の老兵は“強い”ということだ。
「うん。彼の名は、炎帝の軍師『ロート』。魔力はないけど、魔導アイテムを使う天才さ」
つまり、魔法使い系ではないが“魔導アイテムに関して”は一級品というわけか。確かに身に着けている装備がいちいち豪華だ。
片眼鏡なんか金色でいかにも高級アイテム。
あの軍用手袋も絶大な効果があるに違いない。
「炎帝だかなんだか知らねえけど、俺がぶっ倒して――んぐっ!?」
口元を押さえられて俺は喋れなくなった。ベルが手で塞いできたんだ。
「ロートの相手はわたしが」
「もがもが(仕方ないな)」
ここはベルに任せようではないか。俺はメサイアにフォル、そしてリースにも手を出さないよう指示を出した。
それにしても。
余裕のない表情でエターナルシールドを構えるベル。
おいおい、大丈夫かよ。
いつものお前らしくないじゃないか。
そんなにあのロートというヤツが強いというのか。
「どうやら、戦わねばならないようですね。ハーデンベルギア様」
「……そうだね、ロート。わたしはこの街が嫌いだ」
「だからルキウス様と婚約なさらないと?」
「あえて言うら“婚約破棄”かな! そもそも、わたしの身も心も理くんのモノでね。残念だけど、他の男に興味なんてない」
ハッキリと断言するベル。だが、しかしそのおかげでメサイア、フォル、リースから「どういうこと!?」みたいな視線を向けられた。うぉい!
「サトル!! ベルと何を誓ったの!?」
詰め寄ってくるメサイアは、明らかにブチギレていた。
「そうですよ、兄様! わたくしを差し置いて!!」
いや、フォル。お前はこの混乱に乗じて抱きつきながら言うな!?
「酷いですよ~、サトルさぁん」
涙目のリース。……ああ、可愛い。じゃなくて困ったな。
そんな間にも戦闘は始まった。ベル、勝てよ……! この街を正常にする為にも!




