第425話 賢者の街をぶっ潰す
歩いて『スターバトマーテル城』へ向かう。
しかし、兵士に追われているため隠密行動だ。
俺たちは気配を押し殺し、枝で顔を隠しながら歩いた。
「……あのぅ」
「どうした、リース」
「この枝って意味あるのでしょうか……?」
なんとなく顔隠しに使ってみたが、体は隠れていないからな。そりゃあ、一瞬でバレるわけでして――。
「貴様ら!!」
やっぱり見つかったか。
「ちょ、サトル。この枝、意味ないじゃない!」
叩きつけるように小枝を地面に投げ捨てるメサイア。うむ、この方法では頭隠してなんとやらだな。
四人の兵に囲まれ、俺たちは追い詰められたような、そうでもないような状況に陥った。
相手は剣や槍、盾に杖といった具合に手に持つ武器がバラバラだ。
なんだコイツ等。統一感がないというか。
「不法侵入者たちよ、ここは将軍ルキウス様のお膝元。安易に立ち入ってよい場所ではない。貴様たちのような下等冒険者は貧民街での行動しか許されない」
と、剣を構えるリーダー格らしき兵が怒りを滲ませながら警告してきた。そう言われてもね、貧民街は食べ物もロクにないし。
というか、この貧富の差は正直よろしくない。ぜひ、この俺が是正したいところだね。
なので俺はこう言い放った。
「うるせえ。その将軍ルキウスに合わせろ。指一本でぶっ飛ばす」
「な、なにィ!? 不敬なッ!! お前のような無能中年に何ができる!」
「そりゃあ――」
言い返す前に剣で突撃してくる兵。
俺に“敵意”を向けるということは、オートスキルが発動するということ。俺は何もしなくていい――はずだった。
ドゴォっと鈍い音が響き、剣を持つ兵の顔面が凹んでいた。
驚いたことにベルが『盾』を使い、物理攻撃。剣の兵をぶっ飛ばしていた。兵は秒で吹き飛び、かなり遠方にある馬車に激突していた。あーあ……やっちまったな。
「さすがに身内の悪口は看過できなねえ」
「ほぉ、ベル。俺の為かよ」
「……まあね」
珍しく恥ずかしそうに答えていた。へえ、ベルがね。いつもクールでツンツンしているかと思えば……たまにこういう可愛げのあることしてくれるので好きだな。
「わぁ、ベルさん凄いです……!」
賞賛を送りながら拍手送るリースは、憧れの眼差しをベルに向けていた。俺も素直に賛辞を送ろう「ありがとう」とな。
「ん、理くん、なにか言った~?」
「いや~、なんでも。それより、残りの三人をぶっ飛――」
「「「うああああああああああ!!」」」
に、逃げやがったー!?
恐れをなして逃亡する兵三人。それでいいのかよ……? 敵前逃亡は、将軍ルキウスに処刑されるんじゃ。
まあいい、先を急がねばならない。
さっさと将軍に会ってこの貧富の差、そして山ダンジョン『ケントゥリア』の突破を許してもらいたいね。でなければ、いつまで経っても聖地へ行けぬ。
それでは困るのだ。
俺たちはアーサー達に会わねばならないのだから――。
世界各地にある聖地復興の為に。
歩いてついに駐屯地に入った。正面から堂々とだ。
無論、衛兵がワラワラと現れて俺たちを即座に敵認定。あらゆる武器を向けられたわけでして……。
「もう、面倒臭いですね! わたくしが蹴散らしましょうか!」
腕をまくり、ファイティングポーズで構えるフォル。さすが武闘派聖女。血の気が多いというか頼もしいというか。
だがしかし、この状況は若干ながら面倒である。
俺の【超覚醒オートスキル】でも対処できる限界というものが……ないけどな。
「フォル、落ち着きなさい」
「え~、メサイアさん。わたくし、戦いたいんですよぉ~。この名ばかりの賢者の街をぶっ潰したいんです」
ニコリと微笑むフォル。おま、聖女だろう!? ――いやだけど、その通りだ。この街は酷すぎる。まるで人権なんてない。一定の貴族や兵が得をしているだけだ。
「仕方ないわねー。ここは女神の私に任せなさいな」
いやまて、メサイア。お前が出ると余計な混乱を招くだけだと思うんだが……! てか、一体なにをする気だよ。
この数百人の兵を相手に。




