第423話 毒耐性100%の俺たち
どうでもいいが、太っちょ貴族の名はマクドネルといった。
空腹で半狂乱のメサイアは、マクドネルの首根っこを掴む。まるでアリとゾウのような雰囲気だ。
貧民街を出て、マクドネルの邸宅へ向かった。
なかなかの距離を歩いたが、ようやく見えてきた。
この賢者の街・ギンヌンガガプの中でも結構大きい建物だろう。豪邸だな、こりゃ。
「ここがアンタの家なのね!?」
と、メサイアはキレ気味にマクドネルに聞く。
「そ、そうだ。料理なら専属のシュフが作ってくれる」
「案内しなさいっ!」
強制連行されていく太っちょ。まあ、可哀想とも思わん。あの男は貧民街で弱い者いじめを散々やっていたようだからな。
建物の中へ向かい、そのまま馬鹿みたいに広い食堂へ。
豪華なシャンデリア、美しい絵画や甲冑の数々。アホほど長いテーブルが置かれている。いかにも貴族様って感じ。
椅子に座り、しばらく待つ。
マクドネルは、厨房へ向かった。シェフに注文をつけてくるとのことだった。しかし、逃げられる可能性もあったので、メサイアが監視についた。なんて執念だ。
だが、確かに腹が減った……。
なんでもいいから食べたいな。
一時間ほどしてメサイアとマクドネル、シェフが現れた。
「料理運んできたわよ~!」
カートに大量の料理があった。妙に時間が掛かっていると思ったら、そんなに作らせていたのかよ。
何十皿とテーブルに並べられていく。
肉料理から魚料理、鍋料理から野菜まで。フルーツも盛りだくさん。すげえな、こりゃ。良い匂いで、めちゃくちゃ美味そうだ。
しかしなんだろうな……マクドネルが不敵に笑っているようにも見えた。……む?
まさか、料理になにか仕込みやがった!?
止めようとする前にはメサイアが食事を猛烈な勢いではじめていた。
バクバクバク、モグモグモグ……!!
と、サイクロンあるいはハリケーンと見紛うほどに強風で強烈だった。リスのように頬に詰めすぎだろう。
まさか、そこまで空腹だったとは。あと一歩遅かったら倒れていたんじゃないか?
その時だった。
メサイアは顔全体を青くして「ウッ」と苦しそうにしていた。途端、マクドネルの口元が吊り上がった。
「ククク……!」
「マクドネル、お前……料理になにを入れた!?」
俺はマクドネルの頭を掴み、指に万力の力を込めた。
「ぐげえええええ! だだだ……はは、もう遅いぞ。その無駄に美しい黒髪の女は……直に死ぬッ!」
痛みに悶えながらも、充血した眼でマクドネルはそう断言した。
おいおい、マジかよ……!
つまり、あの料理には『毒』が仕込まれていたんだ!
「メサイア、解毒剤を……しまった。持ち合わせがない」
「んんんんんッッ!!」
苦しそうに自分の喉元を押さえるメサイア。まずい、どうしよう……!
リースなんか大混乱で「あわわわ……。メサイアさん!」と慌てるだけ。フォルはすでにテーブルに突っ伏していた。だめかっ!
最後にベルは「困ったねー」と料理に手をつけず静観。なんでそんな冷静なんだよ、お前は!
仕方ないので俺がメサイアの背中を擦った。マクドネルの頭を掴んだまま。
「おい、大丈夫かよ!」
「……んぐ、んぐぐぐ……(ごくん)! あぁ~、危なかった」
「「へ……」」
俺もマクドネルも呆然となった。
メサイアは料理を喉に詰まらせただけだったのだ。……アレ、毒は?
その疑問はマクドネルも思っているようで、怪物でも見るような目でメサイアを直視していた。
「……ば、バカな! ありえぬ!! レイドボスも一撃の猛毒だぞ!」
そんな超危険な毒を使ったんかよ。
しかし、メサイアはどうして無事だったんだ?
その疑問は直ぐに晴れた。
「あん? あ~、私ね。女神属性のせいか知らないけど『毒耐性100%』なのよね~」
と、ケラケラと笑う。そういや、そうだったな。俺たちのレベルも数万とあるし、ステータスも異常なまでに高い。もはやチート級なのだが、誰もが忘れていた。
特に俺なんか神様レベルなのである。
そうだった、猛毒ですら受け付けない体なのだ。気にせず食えばいい。
それを悟ったみんなも食事を始めた。
誰一人、毒に侵されることなく――満腹となった。
「は~、食った食った」
久しぶりにドカ食いしてしまった。メサイアたちも動けないほど食っていた。てか、あんな小さな体なのに、よく食えるな。スタイルもたいして変わらないし、いったいどこに消えているんだか。
「…………ば、ばけもの」
がくんとその場に崩れるマクドネルは、失禁しそうな勢いで震えていた。おいおい、俺たちをそんな怪物認定しないでくれよな。これでも、まっとうな人間――ではないな。
俺は『アルクトゥルス』を受け継いだ神様みたいなものだし、メサイアは元死神で現在『女神』。フォルは『フォーチュン』という神を宿しているし、リースは最強の『エルフ族』。ベルに至っては『聖者』だからなぁ。
うん、このパーティおかしいわ!




