第43話 闇の超爆発スキル - この世全ての憎悪を拳に -
深夜の風呂は、ちょっと特別感がある。
誰にも邪魔されない静寂。今この空間は俺だけのもの。
頭を空っぽにして、湯船にゆるりと浸かる。
最高の贅沢だね。
そう思っていた矢先――聖女がタオル一枚で侵入してきた。
いや、来るなよ……。
「フォル……」
「だ、だってそのまま寝るのも気持ち悪いじゃないですか……。だから」
「そんな子犬みたいな目で俺を見てくれるな。はぁ、分かった。けどな、浴槽は俺ひとりが限界だからな。ここは譲れないぞ」
いや、縮まればいけるかもしれんが、かなり密着するし。
「……」
まさか……。
まさかな……。
「あ…………兄様がよろしければ」
両手で赤面した顔を押さえ、唇を震わす。
アレ……フォルのヤツ、なんでそんな緊張してんだ。いつもそんな気にしないじゃないか!? 勢いで……ああ、勢いなのか。
やっぱり、ヘンタイ聖女といえど、恥ずかしいものは恥ずかしいのか。
「……ム、ムゥ」
「ご、ごめんなさい。こんな聖女でごめんなさい」
唐突に泣き崩れ、謝りまくるフォル。
「なんだよ、いきなり。お前らしくない」
「兄様は、リースのような御淑やかなコが好みですよね……」
あーアレか。アレなのか。
リースのシスター服姿に見惚れていたの気にしていたのか。
「バカ。確かにアレは新鮮だったし、激カワだった。写真に収めたいレベルだった。だがな、フォル、お前はお前で何にも代えがたい魅力があるんだ。ほら、出てるとこ出てるし……銀髪も綺麗だし、肌白いし……イイモン沢山持ってるんだ。自信を持っていい」
「はいっ……♡ やっぱり、そう言って戴けると思いました♡ だって、兄様ってば、毎日わたくしの胸やお尻ばかり見ていますもんね♡ 視線もちゃんと気づいているんですよ だ・か・ら、お邪魔しますね♡」
浴槽に足をつけて、一気に俺の体へ覆いかぶさるような形となってしまった。……って、まて。見てるっても、それは自然と視界に入るだけだ! 決して、凝視はしとらん! 本当だよ!?
「う、うあぁぁ、フォル!」
「兄様♡」
抱きつかれ、身動きが取れない。――まったく、筋力バカが! 聖女のクセして、力が強すぎる。
いやそれより、イロイロ当たってまずい!
「ひ、ひぃぃ……」
つーか、フォルの目が完全にハートだ!
やっぱりヘンタイ聖女じゃないか!!
「ほら、兄様。お手を」
「んあっ!」
手を掴まれ、それをお腹あたりに当てられた。
うわっ、なんちゅーフニフニ。この世と思えない感触だ。
その状態で、フォルは俺の首に腕を回し、耳を甘噛みしてきた。
「ひょうっ!?」
……な、なんつー絶妙な唇加減。
こ、これは…………ほぼイキかけました。
「兄様、ナニか当たってますけれど……♡」
「う、うるさい……耳元で囁くな」
「ふふ、兄様の筋肉も素晴らしいです。とても美味しそうです♡ それでは遠慮なく――」
「うあぁ、おい、そんな舌を出して……! バカ、ヤメ……うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
『……………』
◆
――――ハッ。
「……俺はいったい」
目を覚ますと、みんなまだ寝ていた。
嫌な夢を見ていたような……気がする。
くそ、なんて夢を。
確か俺はフォルに襲われて……それで。
……ん。フォルのヤツ、なにか手に持ってるな。
「ああぁっ! あれは俺が以前に買った『サキュバスの角』じゃないか!」
大枚叩いて買ったレアアイテム。
そういえば、買ってからずっとベッドの下に放置していたが……あんなところに。
そ、そうか。
さっきの風呂のシーンは、俺の『夢』。
夢魔が見せたえっちな夢だったのだ。
なんかの偶然で、フォルが手にしてしまったらしい。
まったく……回収しておくか。
手に握りしめられている『サキュバスの角』を奪い、手に入れたが……なんと俺が手にもった瞬間に『破損』してしまった。
うそーん……壊れちゃったよ。
100万プルがおじゃんに……トホホ。
◆
朝のコーヒーは美味い。
みんなすっかり起床。いつもの朝がやってきた。……そろそろ『ヴァルハラ第40層』も攻略したいところだな。
今日行くか悩んでいると。
ガタガタドンドンと扉を叩く音が。
なんだ、乱暴だな。
「はいはい、出ますよっと」
出ようとしたその時、扉が蹴飛ばされ強引に開かれた。
「な……。おまえら……!」
扉を蹴っ飛ばし山小屋に土足で入って来たのは、あの聖者祭の時の『ポインセチア』の前にいた世紀末集団だった。
こいつら、生きていたのか。
「よォ~~~! やっと見つけたぜこのヤロウ! 弟の情報は本当だったなァ」
「やっぱり、この小屋にいやがったか!」
「こんな小屋破壊してやろうぜ、兄貴!」
長男、次男、三男……か。
相変わらず、モヒカンヒャッハーだが――。
「昨晩のゾンビ共はどうだったァ~? 凄まじい悪臭を放っていただろう……クク」
「お、お前等が……!」
「そうだ。あのクソゾンビを使って小屋を跡形もなく破壊してやろうと思ったが、まさか、しぶとく生き残っていやがったとはな! 正直、驚いたぜぇ。
まぁ、どっちにしろアレはほんの挨拶代わり、今度はこうしてオレたちが直接乗り込んできたってワケさ。言っておくが、あの時のオレたちと一緒にするなよ?
オレ、長男・チョースケは【Lv.1788】、次男・パースケは【Lv.1567】、三男・グースケは【Lv.1533】だ!」
「……チョ、チョースケ……」
ヘンテコな名前に俺は、吹きかけた。
「パ……パースケですか。ぷっ……」
フォルが口とお腹を押さえて堪えていた。
「ふふ、グースケ…………」
メサイアもプルプル体を震わせ、耐えていた。
まずい、笑ってしまいそうだ。
「て…………てめぇら!! 笑ってんじゃねええええええ!!!!!」
チョースケがキレた。
あ、怒らせてしまった。
「おい、パースケ、グースケ! 女共、全員捕まえてやっちまうぞ……!
…………って、おい。パースケ、グースケ!?」
長男のチョースケは、キョロキョロと首を振るが、そいつらの存在はもうそこにはなかった。なぜなら、俺が――。
「おい、チョースケ。お前の弟共なら、俺がとっくにぶっ飛ばした――いや、勝手に飛んでいったというのが正しいな」
「てめぇ、弟たちに何を!!」
「るせええええええええええええええ!!」
説明するのも面倒だったんで『ダークニトロフィスト』を顔面にお見舞いした。俺の黒き拳がチョースケの頬を抉り、原形を破壊――。それから、ヤツは猛烈な勢いで外へ吹っ飛び、いつしかのようにお星さまになって消えた。
あのダメージなら、もう二度と現れんだろ。
尚、『ニトロフィスト』は、前回のボス戦でパワーアップしたので頭に『ダーク』がついた。属性が【闇】になってしまい、なんと『世界のあらゆる憎悪を拳に集める』という反則級の大技が出来るようになってしまった。そんなオマケもあり、破壊力がより増している。
――こうなると『闇の超爆発スキル』ってコトだな、うん。
「……ふう」
「お疲れ様」
「おう、ありがとメサイア。さて……アホは吹っ飛ばしたし、そろそろ『ヴァルハラ第40層』へ向かうか」
「そうね、さっさと進めましょうか。山小屋もそろそろ『家』にしたいし」
もちろん、朝食を戴いてからだ。
「兄様~、朝食できましたよ~」
ちょうど、フォルが朝食を運んできてくれた。テーブルには既に、ベルとリースが楽しそうに談笑を。
って……おい。
俺がモヒカン相手にしている間に、なに和んでんだよ……!?
「わぁ、このドーナツ、外見が半分チョコになってて、中もクリームたっぷりで美味しいです~♪」
ああ、エンゼルね。うまいよなぁ。俺も食べようっと。
うめぇ~~~!!
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