第420話 賢者の街・ギンヌンガガプ
ルキウスは、この山から離れた『ギンヌンガガプ』という領地に城を構えているようだ。
幸い、立往生していたパーティの女性賢者がその領地の座標を持っており、ワープを開いてもらえることになった。
目の前に光の柱が現れた。こんな転移スキルは珍しいな。
「どうぞ、お入りください」」
「ありがとう」
俺は礼を言ってワープの中へ飛び込んだ。メサイアたちも続いてくる。
【賢者の街・ギンヌンガガプ】
広がる街並み。ここはどうやらかなり発展した領地らしい。お店や家がズラリと立ち並ぶ。ほぉ、こりゃ王国並みだな。
しっかりした景観に感心した。
「へえ、いいところじゃないの」
キョロキョロと周囲を眺めるメサイアは、元気を取り戻していた。そういえば、さっきまでヒドイ酔いで顔が真っ青だったな。多分、フォルからグロリアスヒールを受けたのだろう。
「はぐれるんじゃないぞ、メサイア」
「子供じゃあるまいし」
ジトっとした眼差しを向けてくるメサイアさんだが、心配すぎるんだよなぁ。
まあいい、ともかくルキウスをぶっ飛ばして山ダンジョン『ケントゥリア』を突破したい。
俺はまず基本中の基本である聞き込みをした。ちょうど通りかかった主婦に話を聞いてみた。
「ルキウスという男を探している」
「…………ひぃ!!」
その名を口にした瞬間、主婦は怯えて逃げていった。……えぇ。
「なんか怖がっていたね、理くん」
「そうだな、ベル。ルキウスってヤツ……ヤバいやつなのか?」
「うーん。詳しいことは分からないなー」
ふむぅ。もうちょい聞き込みをしてみるか。そう思ってお店でも探してみようと歩くと――リースが俺の背中を指で突く。
「あ、あのあの……」
「どうした、リース」
「あちらで大変なことが」
ん? あちらで?
その方向を向いてみると領地の衛兵二人が市民らしき爺さんを足で蹴ってボコボコにしていた。
な、なんだありゃ……!
一方的なリンチじゃないか。
「ひいいいいいいい、助けてくれええええ!!」
頭を抱えヘルプを叫ぶ爺さん。しかし、無常にも通り過ぎる人々。まてまて、誰も助けないのかよ。ふざけんな。可哀想だろうが!
俺はいてもたってもいられず、衛兵に近づいた――瞬間【覚醒煉獄】が発動して、炎が衛兵二人を焦がした。
「「ぎょええええええええええッッ!!」」
あ、しまった。ついつい“怒り”を向けてしまった。おかげでオートスキルによる攻撃をしちまった。てへぺろっ。
「すまんすまん」
「すまんで済むか!! 貴様、何者だ!」
覚醒煉獄を耐えるとはな。なるほど、耐性付き属性アーマーか。恐らく、火、水、風、地属性の軽減する装備をつけているようだな。
「俺は彼岸花 理だ。ルキウスをパーで殴りにきた。山ダンジョン『ケントゥリア』を突破するために」
「貴様ああああああああ! ルキウス様を侮辱するとは!! 死刑だぞ!!」
怒り狂う衛兵だったが、俺の間にフォルが割って入った。
「覇王天翔拳!!」
聖女の鉄拳が衛兵二人に襲い掛かり、吹き飛ばした。ほぉ、一応手加減していたか。
「せんきゅ、フォル」
「いえいえ。なんかムカついたので!」
確かにな。あんな爺さんをボコボコするだなんて、どうかしているぜ。
メサイアはボロ雑巾のようにズタボロになった爺さんを救護した。
「ありがとうございます! ありがとうございます!!」
爺さんはなんども礼を言って去っていった。
「サトル! ルキウスってヤツ、ヤバくない!?」
メサイアは憤慨していた。気持ちは分かるよ。一般市民を痛めつける衛兵を野放しにしているとかロクなヤツではない。
しかも爺さんと同じような光景が通路の奥先でも広がっていた。
……なんなんだ、この場所。異常じゃねえか!!
こんな領地、俺が認めないぞ。将軍ルキウスだか、なんだか知らんが倒すしかないようだな。




