第417話 クァンタムの街:聖女のラーメン
ファインマン・ダイアグラムは高級ホテルと言っていたが、明らかにボロ小屋だった。……おい。
こんな隙間だらけの小屋、寒すぎんだろッ!
「殴っていいか!?」
「仕方ないでしょう。この街にホテルなんてここしかないのですから」
「なんでだよ」
「この街は残念ながら財政がよろしくなくて……」
妙に詳しいな。あ、いや……娘さんたちから聞いていたのだろう。
まあ仕方ないか。
寒いけど魔法で補助すりゃ、なんとかなるレベル。
すでにメサイアたちは酔いつぶれている。
ボロボロのベッドに寝かせた。
……ま、メサイアもフォルもリースもベルも寝顔が天使だ。これを見れるだけで俺は幸せ者だよ。ホント。
――そして、次の日。
目を覚ますと俺は柔らかいモノに包まれていた。
それが何なのか、知る余地もなかったが――これは明らかに人肌だ。
「ん~、息苦しいな」
「兄様、兄様~♪」
「なんだ、フォルか」
「しかも、わたくしの……胸でしゅ」
「でしゅ!?」
うおおおおおおおおおおおおおお!!
マジだ。
いやっほおおおおおおおおおおおう!!
でも、よく見たらメサイアの寝相が悪くて、フォルが抱きついてきた形になっていた。そういうことかよ! 嬉しいけどな!
少しして全員が起床。
顔を洗い、歯を磨き、新鮮な空気を肺に取り入れ……体操をして朝を迎えた。
「あのあの、サトルさん!」
「どうした、リース。……今日も可愛いな」
「ありがとうございます!! で、あのですね」
「うんうん」
「これからどこへ行くのですか?」
俺はずっこけた。
最大の目標は『聖地』へ向かうことだ。
アーサー達に会い、こちらの近況を伝える。それはカルミア女王も望むところである。
今は世界が結束すべき時代なのだ。
それを破壊しようとする輩が現れていると俺は肌で感じていた。
「聖地アーサーさ。みんなで向かうんだ。それと敵を探す」
「敵、ですか」
「ああ、多分だけどいるんだよ」
「まだ誰なのか分からないのですね」
「そうだな。世界は常に不安定だ。だから、世界を正しい方向へ導く……神王である俺の役目だ」
真面目に語っているとメサイアがあくびをした。
「ふぁ~~~~~~~~~」
「おい、メサイア!」
「だって、話が長いんだもん」
「お前な……」
相変わらず能天気な女神様だな、オイ!
今日のところはクァンタムの街を回ることにした。
ファインマン・ダイアグラムに連れ去られていたお嬢さんたちは、元に戻っていた。だけど、だいぶワガママが進行しているようだな。
ありゃ大変だぞ。
しらばくしてお昼になった。
「お腹空いたー」
「そうだな、ベル。なに食べたい?」
「んー、ラーメンかなぁ~」
「バカヤロウ。異世界にラーメンがあるかっ」
俺もベルもともとは“地球人”だ。だから、昔の料理が懐かしいのだ。でも、この世界にないだろ。あ、いや……作れば存在するんだが。
「料理スキルをマスターしている、わたくしにお任せくださいまし!」
フォルが手を挙げた。
そうだな。この最強聖女に任せればラーメンくらい再現してくれるだろ(断言)。
俺は材料を買いあさり、フォルにレシピを伝えた。
「――というわけだ」
「完成しました!!」
「はええええええええええ!!」
一瞬で『ラーメン』完成した。
目の前には、具材がたっぷり乗ったどんぶりが。おぉ、マジのラーメンじゃん!
「いただきまーす!」
早くもメサイアが箸を器用に使い、ラーメンを口にしていた。
そして、目をキラキラ輝かせ、幸せそうな表情を浮かべていた。これはガチのラーメンらしいな。
「どうだ、メサイア」
「すっごく美味しいわ! フォルは天才ね!」
ふむふむ。では俺も。
ずるずるっとラーメンをすする。
……!
めちゃくちゃうめええええええええええええ!!
しょうゆが絶妙な塩梅だ。
スープも濃厚。
野菜マシマシ。
なんだこりゃあああああああ!!




