第414話 大貴族ファインマン・ダイアグラム
クァンタムの街を離れ、魔物を探す。
娘さんたちを救出しないとな~。このままではメサイア達と合流できないぞ。
「それにしても、若い娘だけを狙う魔物とはな」
「ヘンタイですね!」
俺の隣を歩くフォルが不快そうに言った。
その通りである。
しかも相手は魔物。滅ぼすべき敵なのである。
街を出てパリティ高原を歩く。
住人たちの情報によれば、この先にある洞窟が怪しいという。しかし、そこは誰も立ち入らない禁断のエリアらしい。
「なんで入れないんだろうな」
「うーん……やっぱり危険な魔物がいるからでは?」
「なるほどね」
当たり前といえば当たり前のことだった。
危険だから近寄らないという単純明快な理由か。
まあいい、どんなモンスターであろうと俺の敵ではない。
先へ進むと洞窟が見えてきた。
大きな丘に穴はあった。あれか。
明らかにモンスターが棲みついているような、そんな場所だった。
「兄様、気配を感じます」
フォルは敏感に反応を示した。
さすが聖女様。
本当に相手は魔物らしい。
「じゃあ、この洞窟の中か」
「はい、ほぼ確実でしょう」
中へ向かうと真っ暗で何も見えなかった。
だが、俺の【オートスキル】が発動して煉獄によって明かりを灯した。
すると、奥から人影が……。
え、あれが魔物……!?
「人間……いや、魔物だよな」
「はい、兄様。あれは人型の魔物です……!」
静かに現れる人型の魔物。コイツがクァンタムの街の娘さんたちを連れ去ったヤツか。
正体を現したソイツは紳士服に身をまとい、まともな姿をしていた。な、なんだ……まるで貴族のような。人間の真似事か。
「お前、何者だ」
「おやおや、まず自分から名乗るのが礼儀でしょう」
「そうだったな。俺の名は――」
「ファインマン・ダイアグラムです」
「――ってうぉい! 名乗るのかよ!」
なんなんだよ、この男は。
妙にイケメンだし、オールバックで片眼鏡……悪徳貴族にしか見えんな。
「クァンタムの娘を取り戻しに来たのでしょう?」
「話が早いな。返せよ」
「それは構いませんが……」
「なに……?」
妙だな。そんなに素直に還すような顔をしていないがな。
フォルも同じように感じたようだ。
「兄様、あれは“魔物”です。惑わされないでください!」
「そ、そうだな。人型はどうも調子が狂う」
幸い、相手は男だし、人間ではない。
ここで潰すしかない。
手動で武器召喚を行い【世界終焉剣・エクスカイザー】を構えた。
「ほう、世界終焉剣・エクスカイザーですか」
「なんだ、知っているのか」
「もちろんです。コンスタンティンの剣でしょう。私はかつて彼に仕えていたのです」
「なんだと!?」
「なんですって!?」
その意外関係に俺もフォルも驚いた。
またコンスタンティンかよ。
そういえば、神聖国ネポムセイノでも知られていたな。そんなに有名なジジイだったんだな、アイツ。
もともと聖地の名前でもあったけどさ。
それにしても、この男がコンスタンティンに仕えていたとは……。だが、魔物だ。おかしいだろ。
「どうやら、この姿が気になるようですね」
「ああ……。魔物が人間の姿をしているなんて聞いたことがない」
「それでも、私はファインマン・ダイアグラムなのです。聖地コンスタンティンの大貴族・ダイアグラム家の主なのですよ」
「そりゃ分かった。娘を返せ」
「よろしい。あの方達には手を焼いていたところですからね……」
「――は?」
洞窟の奥へ向かうと、馬鹿広い空間があった。街の娘たちが贅沢な暮らしをしていたのだ。……な、なんだこりゃ!
ある者はソファに腰掛け、ワインを嗜んでいた。
ある者は高そうなドレスに宝石を身に着け、眺めていた。
暴飲暴食をする女性もいた。
な、なんだこの贅沢三昧!
「あ、兄様……これは。みなさん幸せそうです!」
「どうなってんだこりゃああああああ!?」
全員無事のようだし、むしろファインマン・ダイアグラムは呆れ果てて困っていたほどだった。コイツ、まさかウンザリしていたのか。
「あの女性達を連れ帰ってくれませんか!!」
「「ええッ!?」」
「もう面倒を見切れません……。資金も底をつき、借金まみれ。これでは、せっかく大貴族ファインマン・ダイアグラムに乗り移った意味がない……!!」
「「の、乗り移ったー!?」」
そうか! この魔物はファインマン・ダイアグラムなる人物に乗り移っていたのか……!




