第410話 地獄の業火
半身を失うジークムント・ケッヘル。
今にも死にそうな顔をしていた。
「おいおい、マジかよ。イベントホライゾンをギリギリで回避したのか」
「……くっ。今ので魔力がほとんどなくなった。再生する力しか残っておらん」
ジークムント・ケッヘルは妙なことを口走った。
まてまて、再生できるのかよ。
「ま、まさか」
「ふんぬっ!!」
半身が瞬く間に復活するジークムント・ケッヘル。そうか、ゴーレム王の血筋か。
「うわ、兄様! あの女性、半身が再生しました。キモいです!!」
「あぁ、そうだな、フォル。ちょっとグロい」
ニコラスなんか遠くで吐いてやがる。
ま、確かに見れたものじゃないな。
「酷い言いようだな。サトル、私はゴーレムの王である。これくらいの再生は可能なのだよ」
「だろうな。異常な防御力もゴーレムの属性が強いのか」
「それもある。だが、エルフ族、ドラゴン族、ドワーフ族、オーク族の混血で、天使と悪魔の血を……」
「それはもういいって」
そうだったな。コイツはいろんな種族の混血。だから異常な魔力と耐性力を持つ。普通じゃないんだ。だから、ある意味では神にも等しい存在だ。
ハーフやハイブリッドを超越した特殊な存在――それはもう神聖というよりは“混沌”だ。
「再生で魔力は尽きた。さあ、どうする……サトル」
「どうするってトドメを刺すしかないだろ」
「だろうな。だが、私は逃げるぞ」
「自ら断言するとはな」
「私は第9999代皇帝ジークムント・ケッヘル! 国とは民ではなく、この私自身。いいか、この私が生きていれば国は成り立つのだよ!」
そんな悪役みたいなセリフを俺に言われてもね。それに、それは逆だろう。民あっての国だ。コイツは皇帝って器じゃねえな。
「兄様、コイツがジークムント・ケッヘルだったのですね」
「そうだよ。誰と戦っていると思った!?」
「え。まだ中ボスくらいのイメージでした」
「おいおい!」
フォルのボケは置いておいて、俺はジークムント・ケッヘルを逃がすつもりはなかった。ここで倒し、さっさと国を去る。
ニコラスとの約束を果たす。
この国はきっとニコラスみたいな純粋な馬鹿が統治した方が平和になる。
新世界の神として、俺はジークムント・ケッヘルを討つ。それが正しい選択だ。
「な、なにを!」
「ジークムント・ケッヘル。これで最後にしよう」
「やめろ……私を全力で見逃せ!!」
「そんな某貴族みたいなことを言われてもね」
「人間の分際で!!」
「だから人間じゃないってーの」
ジークムント・ケッヘルは悪あがきで逃げようとする。まだ魔力があったのか。底を尽いたとかウソじゃねえか。
だが、その魔力に反応して【オートスキル・覚醒煉獄】が発動。
地獄の業火がジークムント・ケッヘルへ襲い掛かり、守る術もなく燃やし尽くした。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
そういえば、ゴーレムは『地属性』だ。火に弱い。そういう世界の理であり、相性だからだ。最初から火属性を使っていれば良かったかもな。
ついにジークムント・ケッヘルは炭となって消えた。
やはり、コイツはモンスターでしかなかった。




