第409話 勇者の闇・イベントホライゾン
ジークムント・ケッヘルは青ざめ、ビビっていた。
俺から逃げるように後ずさる。
さっきまでの自信は完全に喪失していた。
「ジークムント・ケッヘル」
「……く、来るな」
「どうした。あの威勢はどこへいった」
「お、お前が……本当に神王アルクトゥルスなら……勝てるはずがない。そもそもギガントゴーレムMARK95を撃破した時点で……私に勝機はなくなった」
うなだれるジークムント・ケッヘル。
さすがの彼女も俺の強さを理解したようだ。多分、もう戦っても無駄なのだと悟ったか。それは賢い選択だ。
「もう無駄な争いは止めろ」
「そうだな」
諦めたのか、ジークムント・ケッヘルは背を低くして――。
!?
気づけば、フォルが俺のそばからいなくなっていた。
「あ、兄様……!」
「フォル!」
いつの間にかジークムント・ケッヘルがフォルを“人質”にしていた。
くそ、やられた!!
「フハハハハ! サトル。いくらお前が神であろうとも、連れは人間。この聖女を殺されたくなければ、神聖国ネポムセイノから出ていくのだな」
そうきたか。
まさか人質にするとはな。なんて姑息な真似を。
「な、なんてお人だ。陛下、それでいいのですか!!」
ニコラスがジークムント・ケッヘルに対して意見していた。コイツにしては勇気があるな。下手すりゃ殺されるかもしれないのに。
「お前はニコラスか。どうやら死にたいようだな。お前のような低レベルぐらいなら簡単に処理できる」
「ぐっ!!」
ジークムント・ケッヘルは、手を向けた。
ニコラスを殺す気か!
やがて、手から大魔法が放たれたが俺が前に立ち、腕で防御した。
「やめろ!!」
「チッ。防御魔法か。固いな」
「当たり前だ。友達を見殺しにできるか。それにフォルを返してもらうぞ」
「おっと。それ以上動くなよ、サトル。もし抵抗すれば、聖女の頭を吹き飛ばす」
今度は手をフォルの顔に向ける。
コイツ本気だ。
失われた殺意が再び戻っていた。
「兄様……」
「大丈夫だ。フォル。お前を必ず助けてやる」
「はいっ、信じております」
こういうことは過去に何度もあった。
フォルはよく人質に取られやすい。
だからこそ、俺は経験を活かして救出することにした。
……そろそろか。
「今こそ見せてやるよ」
「? なにを言っている、サトル。お前たちは動けぬだぞ!!」
ジークムント・ケッヘルは少しでも動けば、フォルを殺すだろう。だが、それは俺とニコラスのことを指しているに過ぎない。
第三者の介入を想定していないだろう。
俺はな――。
俺はそう。
もうひとりいるんだぜ。
「こおおおおおおおい!!」
俺が叫ぶと、空から白い光が落ちてきた。
高度千メートルからの自由落下だった。
よくやってくれた、ネメシア。
俺の言葉を受け取ってくれたようだな。
『くらえええええええええええええええ!!! 奥義・覇王天翔拳――――――――――!!!!!!!!!』
超正確にジークムント・ケッヘルのみを狙った奥義スキル。
「ば、馬鹿なあああああああああああああああ!! なぜ空から人がああああああああああああ!! うああああああああああああああああああああああああ!!!!」
その隙に俺は瞬間移動して、フォルを救出。お姫様抱っこで確保。
「兄様! まさか!」
「ああ、そうだ。俺は、俺自身である“ヘデラ”を呼んだ。ネメシアを通じて座標を伝えたんだ」
「そ、そんな荒技を!」
「向こうには俺がいる。こっちも俺がいる。だからできる芸当だ」
「さすが兄様です!」
だから、ジークムント・ケッヘルをこの手で倒す!!
もう容赦はしない。
フォルを人質にとった罪は重いぞ。
俺自身も手を構え、ジークムント・ケッヘル目掛けてスキルを放つ。
「これで最後だ!! イベントホライゾン!!!!」
闇を穿ち、俺は力を最大限に振り絞った。
これは“守る力”だ。
暗く閉ざされた闇の中にある光。
勇者の闇だ。
「ば、馬鹿なあああああああああああああああ…………!!!!!」
 




