第406話 Lv.99999の秘密
「まさか聖属性の魔法剣を扱えるとはな」
「天使の血が流れるからな。これを扱うくらい容易である」
そういえば、そうだったな。
しかし、こんな少女を相手にしなければならないとはな。
「ひとつ聞かせてくれ」
「なんだ」
「お前のレベルはいくつだ……?」
戦う前に確認する必要があった。
もし俺よりもレベルが高ければ、苦戦を強いられる可能性があるからだ。
「ふっ。冥途の土産に教えてやろう、我がレベルは……『1』だ!!」
「なにッ!?!?」
弱ええええええええ!!
つまり、Lv.99999は親父の方だったか。
「サトル、お前は今なぜ父を殺せたのかと疑問に思っただろう」
「……!」
「簡単なことだ。父には弱点があった」
「弱点だと?」
「分からないか。私の存在そのものが弱点だったのだよ」
なるほど、まさか娘に殺されるとは思わなかったんだな。完全な不意打ちを食らった前皇帝は、ワケも分からず娘に殺害されたわけだ。
「まあいい。Lv.1というのなら威勢だけだな」
「舐めるなよ。確かに、今の私は脆弱だ。だが神聖国ネポムセイノになぜ“決闘”があるか分かっていないようだな」
「どういうことだ?」
「爵位ポイントだよ。ここへ来る前に貴族の決闘エリアを目の当たりにしただろう」
そうだ。ニコラスの説明を受けた。この国は爵位を争う為に戦うのだと。相手に『参った』と言わせ、ポイントを稼ぐ。そのポイントをたくさん稼げれば大貴族に出世できるのだと。
だが、それとなんの関係が――。
「……! まさか!」
「察しがいいな、サトル。そう、決闘は皇帝の権威を高める儀式にすぎん。無論、貢献すれば神聖国ネポムセイノの貴族として構えることができ、そして、皇帝はより“神聖”となる。それがこの決闘のシステムの本質よ」
そうか……勝手に争わせて自身の力を得るためにやらせていたんだ。
強者は上位の爵位を与えられて幸せ、皇帝も強いヤツ等で身を固められてWin-Winってわけだ。
なんて合理的なシステムなんだ。
しかも、なにかしらの形で皇帝に還元されるような口ぶり。いや、そうなのか!
「嫌な予感がするな」
「その通り。今日は決闘の最終日である。となれば、全てのポイントが皇帝に集約される。ほれ、見てみろ」
赤い光がジークムント・ケッヘルに流れ込む。
そうか、今決闘が終わったのか。
結果による精算が行われたってところか。
その報酬が与えられ、ヤツを強くするわけか――!
「ぐっ……!!」
ドクンと心臓が高鳴った。
やべえ、やべえ、やべえ……!
ヤロウ、レベルがどんどん上がってきてやがる。
「見よ、サトル。我が頭上に“レベル”が見えるであろう!」
さっきまで確認することの出来なかったレベルが表示されている。どうやら、マジで決闘が終わって結果が現れているらしい。
ジークムント・ケッヘルのレベルが1、10、100、1000、10000と急上昇していく。
ウソだろ!!
やがてカンストである『Lv.99999』に辿り着いていた。
こんなアッサリ!!
「それがレベルのカラクリか!!」
「そうとも! 父もこうしてレベルを手に入れていた。そうして神聖国ネポムセイノは力を拡大させ、皇帝自身も最強となったのだ」
まずいな。
フォルに確認してもらった時の俺のレベルは『Lv.58200』だ。ヤツとは圧倒的なレベル差がある。このままでは苦戦を強いられるハメになる。
だが、それでも俺は諦めないけどな!
終焉剣を構え、間合いを詰めていく。
「ジークムント・ケッヘル、確かにお前はレベルアップした。それは認めよう。けどな、レベルなんてただの飾りだ。この異世界の戦闘はな、実戦経験がモノを言う世界なんだよ」
「くだらぬ。くだらぬ、くだらぬ! サトル、お前は灰燼となれ」
ニュートリノを瞬間で振ってくるジークムント・ケッヘル。気づけば、俺の終焉剣が吹き飛んでいた。
ウソだろ――!?
「――ぶねっ!! 腕が吹っ飛ぶところだったぜ……」
「惜しいな。辛うじて右腕を守ったか」
さすがに『Lv.99999』か……めちゃくちゃ強ぇな。
魔法剣ニュートリノの光がまったく見えなかった。
まさに光速。いやそれ以上かもしれない。
光の速さを超える魔力。
いったい、どんな力だよ……。




