第395話 時を司る神
ラグラスは、想定外の展開に怒り、震えて唇を強く噛んでいた。こっちが、まさか手を組むとは思わなかったんだろうな。
「おい、ラグラス。もう俺には勝てないぞ! 諦めてお縄につけ」
「だっ、誰が!! くそっ、こうなったら大禁呪を使う」
「大禁呪だと?」
「私は“時を司る神”と言っても過言ではない! つまり、時間を操れるのだ。『パラドックス』という一年に一度だけ使用が許された世界そのものを変革させるスキルさ!」
ば、馬鹿な。アイツにはそんな力があるのか。だとすれば危険だ。さっさと、ブチのめしてスキルを使えないようにしてやる。いや、だが疑問が残る。
「ひとつ教えろ。なぜそのスキルを一年前に使わなかった。時間はあったはずだ」
「使ったさ。それがスターゲイザーの封印解除に直結する。もともと、スターゲイザーとは別の世界線に存在した者達を呼称するのだ。つまり、そこの夢という少年も、今まで出会ったスターゲイザーの連中も、本来なら存在しない者達だ。だが、過去・現在・未来は、時空連続体。過去には戻れないし、変えられない。だが、世界というものはあらゆる場所に存在し、時間の流れも違う」
「……」
「ま、まさか」
「そのまさかさ。この世界は、その昔にターニングポイントを迎えた。あらゆる世界が交わったんだ。お前のいた現実も、その夢のいたバテンカイトスも……なにかもだ。
変だと思わないか、この世界を」
――確かに、ツギハギのような違和感を感じていた。女神や死神、スキルや奇跡。聖女やエルフ。ドラゴンとかいろんなモンスター。醜い戦争も起きて、人間は絶対と言っていい程に争う。
この世界は混沌だ。
笑ってしまうくらいにな。
けれど、俺はそんなムチャクチャな世界が大好きだ。たとえ幻想であったとしても、俺はこの世界を愛している。
アルクトゥルス?
フォーチュンン?
バテンカイトス?
三原神だぁ?
あぁ、実に馬鹿らしい。俺は俺だ。超絶面倒臭がりのおっさんなんだよ。彼岸花 理というただのおっさん。三十九で歳が止まっている、ただの人間さ。
そうさ、俺は面倒臭がりなんだ。
だから、もう終わりにしよう。
「ラグラス、俺にとって時間とか世界線とかどうでもいい。俺は、ただ家でゆっくりしたいだけなんだ。それを邪魔するなら、お前を消す」
「……ふっ。ふははは、ふはははは……」
ラグラスは高笑いする。
とうとう壊れたか。
「どうした、気が狂ったか」
「お前は面白い男だよ、アルクトゥルス……いや、理。お前は、自ら滅びの道を選択したのだぞ。後悔はないのか?」
「は? なに言ってやがる。お前、ちゃんと見てみろ。この女神メサイアも、聖女フォルトゥナも、エルフのリースも、聖戦士ベルも誰一人、希望を失っちゃいない」
そうだ、希望は常にそこにある。
諦めたら試合終了なんだよ。
俺は歩き続ける。面倒でも歩き続ける。例え足を失っても匍匐前進してやる。腕を失っても体で歩いてやるッ。
「理、行きましょう」
「メサイア……ああ、世界を正常に戻す。夢、お前の力も貸してくれ」
目線を夢に合わせる。
「了解した。理、君に続こう」
「あたしも」
夢もフォースも承諾した。これで思う存分に力を発揮できよう。もう終わりにする。これで本当の本当の最後だ。
俺は一歩前へ出て、右手を向ける。
「……理。いいのだな。貴様という存在も、このくだらない世界も……何もかもが消滅するかもしれぬだぞ!! 我が支配に下り、そこで自由を謳歌する方がよっぽど幸せとは思わないか!?」
「黙れ!! クズ侵略者があああああああああああああああああ!!!」
俺は、大声を上げ飛び跳ねた。そして、全ての力を右手に込め、全身全霊の拳を振り上げた。
「――――なッ!! もう目の前に!? 馬鹿な、馬鹿なああああああああああああああ……」
「くらええええええええええ、究極覚醒聖槍・ロンゴミニアド、拳バージョン!!!」
「ぐふおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああ、あががががっがあぶあはああああああああああぼえええええええええええええええええええええええ………………!!!」
ラグラスの顔面が半分に変形。ゴロゴロと地面を回転し、柱に激突。大きな砂埃をあげた。……ふぅ、一発殴ってスッキリしたぜ。




