第394話 真実と未来と過去
ラグラス・アドミラルは余裕の表情でゆっくりと歩いて俺の顔を覗く。こいつ……なにを企んでいやがる。
「お前の目的はなんだ……!」
「私の目的はただひとつ。【アルクトゥルス】、【フォーチュン】、【バテンカイトス】をこの【死の要塞国・デイ】に揃え、再び世界を『原初』に戻す事だ」
「原初に……だと?」
「そうさ。世界のやりなおしさ。時を巻き戻す大禁呪と呼ばれている『過去改変』を行い、この私が神となるのだ」
ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべるラグラス。こいつが神? ふざけんな、魔王じゃねえか。なんだったら魔神でもいい。
「お前、俺を騙していたのか」
「騙す? いいや、騙してなどいない。それより、夢……お前はなぜ『理』をさっさと葬らない。お前の大切な子供『セルリア』がどうなってもいいのか?」
ラグラスは向き直って、天帝……いや、夢に問う。
「貴様! 俺の娘に手を出しやがって……嘘の情報まで流していたんだな」
「そうさ、レッドウォーは私が引き起こした。もともと私はスターゲイザーのリーダーだった。だが、アーサーやその他の雑魚共が思いのほか抵抗したのでな。セルリアを人質に取り、夢、お前を世界の敵に仕立て上げたのさ」
「……分かっていたさ。けどな、お前がここに来た以上、娘は返して貰うぞ!!」
「やめておけ、夢。それより取引といかないか? 今、ここに三神が揃っているのだぞ。奇跡も魔法も自由自在。どんな望みでも叶う状況だ。お前の望む世界『バテンカイトス』復活も可能だ。だからここは穏便に事を済ませようではないか」
それがラグラスの提案だった。……ふざけんな。俺も多分、夢もそう思った。いや、ここにいる全員が同じ意見で一致していただろう。
そうだ、あのラグラスこそ世界をめちゃくちゃにした張本人なのだから――!
「理! 私、あいつ許せないわ」
「メサイア……そうだな、リース、ベルもそう思うよな」
「ええ、あたしも同じ気持ちです!」
「そうだね、わたしはまだ出てきたばかりだけど、あのラグラスっていうヤツは生理的に受け付けないな」
オーケー。
「フォーチュンもいいか?」
「ええ、わたくしの中にいるフォルトゥナも同意見です」
「なら、後は……。夢、それとフォース、だったか。君達も騙されていたんだな」
「俺はただ……家族を守りたかっただけだ。バテンカイトスさえ戻せればそれで良かった。だが、ラグラスの駒になっちまっていた……許してくれとは言わない。ただ、ヤツだけは許せない」
それが夢の真意であろう。
あの小さき魔法使いがずっと彼の傍にいて、心配そうに見つめている。
「フォース、君はどうだ」
「あたしは、夢についていくだけ」
「分かった。ならラグラスを倒すぞ」
俺は再びラグラスに向き直る。
ヤツは手で顔を押さえ、心底笑った。
「はは……あははははははははッ! この私を倒すぅ!? 理よ、それは本気か!? 言っておくが、セルリアは我が手の中だ。人質となっているのだぞ!!」
「ラグラス、お前は本当に分かっていないな」
「なにィ!?」
この手にはもう“未来”があるんだよ。だから……!
聖槍を生成し、俺は構えた。
黄金の槍はピカピカと光り、敵を威圧する。
『究極覚醒聖槍・ロンゴミニアド!!!』
そこへ更にメサイアの補助が入る。激しく加速する槍は、ほんの一瞬でラグラスに到達する。
「なッッ!!」
俺はその一瞬をつき、セルリアを助け出した。
「いっちょあがり~!」
「馬鹿な! あの一瞬でどうして……」
「お前も言っていたじゃなか。今ここには三神が揃っているとな。俺は『アルクトゥルス』だぜ? ラグラス、お前が目覚めさせてしまったんだ」
「こ、これほどの力だというのか」
どうやら想定外だったような。
なら、反撃開始だ。
真の天帝をぶっ倒す……!




