第390話 極魔法使いと闇の勇者
七色の光が晴れると、そこには――
「……あの子は? む?」
「理くん、油断しちゃダメだよ!!」
ベルが俺の前にやってきてシールドスキルを張った。おかげで、少女から放たれた魔法を防いだ。ありがてえ。
「すまん、ベル」
「いいってことさ。それより、あの魔法使いの女の子、かなり……いや、ヤバイほどに強いね。わたしの盾ももう限界だよ」
「マジかよ」
ベルのシールドスキルは、数秒で解除されて消失。……やっべ! 俺は、ベルを抱えて回避。その次には【超覚醒・オートスキル】が反応し、反撃を開始した。
『血の煉獄!!!』
血の炎がほとばしり、大地を駆ける。
それはすぐさま、あの少女に激突しかける。
「…………っ!」
少女は不思議な力・ソウルフォースで俺の炎を止めた。やっぱり、あのジェネシスと同じ力か。なるほど、あれは厄介すぎるな。
状況を見守っていると、少女は『テレポート』を繰り返す。なんてヤツだよ。そんな事も可能なのか。
だが、俺の【超覚醒・オートスキル】も万能で、少女の出て来る場所を的確に狙う。すごいな、ここまで進化したのか『オートスキル』は!!
「サトル、こっちは補助もしているけど、ぜんぜん仕留められないわね」
俺にずっと補助支援するメサイアが口を開く。
「そうだな、思った以上に面倒な相手だ。フォルの支援も受けているし、リースの大魔法だって乱発してるのに、あの子はたったひとりで全部なんとかしている。まさにバケモノだよ」
本当に何者なんだ。
あんな小さな少女が……なぜ、ここまでの力を持つんだ?
今度は『ホーリークロス』が爆発的な連鎖を見せ、少女を追い込む。どうやら、俺はほとんど立っているだけでいいらしいな。
しかし、相手はテレポートを繰り返し、回避しまくっている。キリがねぇな。一度、俺はオートスキルを止めた。
「聞かせてくれ! 君は何者だ?」
「…………」
少女は少し離れた場所に現れ、俺を深緑の瞳で見据えた。
「教えてくれ」
「……あたしの名は『フォース』。世界から天帝と呼ばれている人物は【バテンカイトス】であり、あたしの夫」
「へ……はぁ!? ま、待ってくれ。君、かなり幼いけど……天帝と結婚しているのかい?」
「そう。ちなみに、あたしの種族に年齢はないし、関係ない。……でも、これは彼の創り出した幻想、夢……でも、それでも、あたしは彼と再会できて嬉しかった。だから……」
フォースは、手をこちらに向ける。本気ってわけか……なら、こっちもガチでいくしかないだろ。あんな小さな子相手は少々心苦しくはあるが、致し方あるまい。
「サトルさん、いいんですか!?」
「ああ、リース。相手は本気だ。こっちが殺されちまうよ」
「で、でも……」
リースは不安気に俺を見る。
分かっている。
だが、頂上に辿り着かねば、俺たちは天帝を倒せない。それに、あの子は言っていた。『幻想、夢』と。つまり、最下層で会った女性も、この少女も……天帝の創り出した幻なんだ。
なら……!
俺は最強の武器『世界終焉剣・エクスカイザー』を取り出し、構えた。これしかないだろ。
「……!」
フォースは身構える。
どうやら、この剣の威力は知っているようだな。
「悪いが、そこを通して貰うぞ」
「……っ! ……ユメ」
ぽつっとフォースが名前をつぶやく。
悪いが消滅してもらう。
俺が『世界終焉剣・エクスカイザー』を振りかぶり、一瞬で彼女の間合いに入った時だった。突如として、黒い靄が発生して、俺と彼女の間を遮った。
「――――くっ!!」
いきなり『闇』が広まったんだ。
「兄様、これは!!」
「フォル、みんな、くるな! この『闇』は見たことがある。アイツだ……!!!」
広がる闇の中、異常な色を放つ人影が現れる。……こいつは驚いた。頂上に着く前に、本人が登場しやがった。
『…………』
なんて不吉で禍々しい闇だ。
間違いない……『天帝・ツァラトゥストラ』だ。
「……ようやく、おでましか」
酷い闇の中、俺はヤツを睨みつけた。
『まさかフォースがやられる寸前まで苦戦するとはな。……おいおい、大丈夫か』
「うん、ユメ。どこもケガしていないよ。というか、幻だし」
『それもそうだけどな。まあ、極魔法使いがそう簡単に負けるわけないか』
あの親し気な感じ、本当に夫婦のようだな。にしても、天帝の方は……? えっ……あれが天帝?
「……サトル、あの天帝って少年よ!?」
驚くメサイア。いや、フォルやリース、ベルも驚愕していた。あの世界を支配する人物が爽やかな少年だったのだからな。
しかも、あのフォースから『ユメ』と親し気に名前を呼ばれていた。それか本当の名前か。なら、俺はヤツを止める。
「おい、お前!」
「……よう、理。とりあえず、一発は一発だ」
「はぁ?」
天帝が手をこちらに向けてくる。
その刹那で莫大で広大な『闇』が襲ってきやがった。……例のアレか!
『イベントホライゾン――――――!!!』
こんなもん、まともに喰らったら即死だ。だがこっちは――!
『世界終焉剣・エクスカイザー!!!!!』
同じく、闇の波動を放つ。
闇と闇が衝突し、拮抗する。
激しくぶつかり合い、せめぎ合う。
「……世界終焉剣・エクスカイザーだと? ふっ、なつかしいモン使ってくれるじゃないか」
「なんだと?」
「その昔、その剣は『勇者』である俺のモンだった。だが、勇者を辞めた俺はそいつを手放してしまってね」
ゆ、勇者だって?
そんな人物がこの世界にいたのか。
でも、勇者が世界を支配?
それじゃあ、魔王じゃねえか。
「お前は何が目的なんだ……天帝!」
「俺は、海の底に沈んだ楽園『バテンカイトス』を取り戻したい。それだけが願いだ。その為にも世界を支配し、蹂躙する必要があった」
「やっぱり、お前は勇者なんかではないな。魔王だ」
「……いや、俺は『闇の勇者』……闇そのものだ」
――なら、倒すっきゃねぇよなァ!!
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