第385話 ニトロを爆発させ、塔の頂上を目指せ
どうやら塔の外は夜らしく、酷い眠気に襲われた。今日はメサイアの女神スキル『ホワイト』の中にある邸宅で一泊する事にした。
こんな時、メサイアがいて良かったな。
いつでも何処でも快適な生活ができるし。
――翌日――
「これで皆揃ったな」
支度を済ませ、ホワイトから脱出。
フォルとリースの体を抱えて飛び出す。最後にメサイアが飛び跳ねて着地した。これで全員集合ってワケだ。
「よし、昨晩の通り俺の爆発スキル『ニトロ』を使う。このスキルは今までも使っているから細かい説明はしないが、爆発的な推進力を得られるので浮遊が可能だ。最高高度は『ブラックバード』という怪鳥系モンスターが打ち出した高度8万5000フィートと同等だ」
「高度8万5000フィートも!?」
リースが飛び跳ねて驚いた。
俺は以前、こっそりとニトロの限界高度を試したのだ。その結果がブラックバードだった。ともかく、この力なら一気に上昇できるわけだな。
「そういうわけだ、皆、俺に掴まれ」
俺がそう指示すると――
「仕方ないわね、じゃあ、私は真ん中かな」
メサイアが俺の胸元へ来ようとするが、フォルが阻止した。
「姉様、姉様。申し訳ないのですが、そこはわたくしのポジションですので」
怖い顔のフォルは、パシッとメサイアの腕を掴んでいた。ちょ、こわッ!? しかし、更に事態は悪化した。
「メサイアさん、フォルちゃん。サトルさんに抱きつくのはあたしですよ~。ねぇ、サトルさん」
ぼいんぼいんとデカすぎる胸を揺らすリースさん。……正直、この中ではトップクラスのバストの持ち主。そりゃあ、リースが良いに決まっ――おっと、いかん。俺は皆大好きだから、ここは公平しよう。
「みんな、俺を取り合うのは嬉しいよ? けどね、胸元は一人が限界だ。ここは公平にジャンケンでいいだろ」
「「「!!」」」
ハッと三人は対面し、対立した。
なんかこの塔に入ってから一番に燃えているな。まあ、こう俺を取り合ってくれるのは嬉しい事だがな。
「サトルの言う通りよ。フォル、リース……ここはジャンケンにしましょう。勝っても負けても文句なしよ」
ジャンケンを仕切るメサイアは、自信満々だった。そういえば、メサイアはジャンケンが強かったような。
「分かりました、姉様。ですけど、わたくしは聖女であり『フォーチュンの加護』がありますので、最強の運を持っていますよ? いいんですかぁ~?」
――ああ、そうだった。フォルには絶対強運のフォーチュンがあったな。だから、いつもラッキーなんだよな。
「フォルちゃん。加護があるからっていい気にならないで! あたしは……エルフの郷、アヴァロンではジャンケン無敗だったの! だから、あたしは強い! 皆より強い……すっごく強い! ……ので、あたしは必ず勝ちます!!」
どこかで聞いたようなセリフを吐くリースも、また自信に溢れていた。いつも内気なのだが、こういう時は強いなぁ。
さあ、いよいよ俺の胸元を賭けたジャンケン(死闘)が始まる。誰が俺を勝ち取る!?
「「「最初はグー、ジャンケン……、ポン!!」」」
なんと、全員パー。つまりアイコだった。なるほど、凄い読みだ。最初はグーとしている時、どうしても癖とかでグーを出しちまう。その読みで全員パーってワケか。全員それを察してパーを出したって所かな。
すげぇぜ、皆……完全に相手の表情とか心を読み合っている。なんて緊迫感だ、未だかつてこんなジャンケンがあっただろうか!?
それからもアイコは続いた。
何回、何十回続くんだ、これは!!
すげぇ、凄すぎるぜ。
だが、この死闘ジャンケンもついに決着がつこうとしていた。恐らく、四十五回目に到達した時だった。息を乱すメサイアがこう提案したんだ。
「……もうキリがないわね。分かったわ、私はグーを出す」
グー宣言!
ついに心理戦が来たか。
「へえ、姉様は『グー』を出すんですね。分かりました。わたくしは『チョキ』を出します」
飄々とした顔でフォルはポーカーフェイスを装っていた。へぇ、ああいう砕けていない表情のフォルはいつもより綺麗に感じるな。
「では、あたしは『パー』を出しましょう」
なんだか怖い顔でリースは言った。よっぽど勝ちたいんだなぁ、本気モード全開だ。というか、皆バラバラじゃないか。そのままだと『アイコ』だが――果たして?
「「「……ジャンケン、ポン!」」」
……お?
「やったー! わたし勝ちだねー。じゃあ、理くんよろしくー」
――と、なんだか聞き覚えのある凛とした声が場を包んだ。――って、おいおいおいおいおいおい!!
こ、このフォルに匹敵する最強に煌めく銀髪。けれど、片目を隠すようなショートカット。良い肉付きをした露出度90%の聖戦士のビキニアーマー。
間違いない、この無駄に肌を出し、ムチムチのボディで形の良い胸は――ハーデンベルギア。俺の従妹だ!!
「「「「ベ、ベルぅ!?」」」」
その瞬間、俺も含めてだが全員が驚愕した。永遠に眠り姫かと思われた聖戦士がついに眠りから覚めたのだ。
いつの間に起きたんだよ……ベル!!




