第39話 最強スキル - 死ぬほど強くなる俺 -
聖者の試練『ヴァルハラ』第20層……ボスフロア。
そこに現れたボスモンスターは『エンケラドゥス』という両手にチェーンソーを持ったバフォメットのようなバケモノだった。
俺は、ヤツのステータスを『千里眼』で見てみた。
エンケラドゥス:【Lv.5080】
HP:不明 属性:【闇】
武器:【魔神器】クレセントチェーンソー
「く……【Lv.5080】もあるのか。
けどな、こっちは強力な仲間がいる。――よし、この距離を維持して俺は、ヤツを『血の煉獄』でひたすら燃やし続けて足止めする。みんなは後方でヤツに大魔法とか浴びせてくれ」
みんなにそう指示した。
ボスモンスター『エンケラドゥス』が少しずつ俺との距離を縮めてくると、そこで『血の煉獄』が自動発動した。失念していたが『血の煉獄』は、血がなくとも一定確率で発動するのだ。
地面から湧き出る紅色の炎は、ボスモンスターを一気に包み込んだ。
「よし。掛かった。これなら動くまでもなく楽勝で倒せるだろ」
……なんだ。
『聖者の試練』のボスモンスターなんて大層に言うものだから、もっと強いかと思ったぜ。こりゃ、拍子抜けだ。
こうして蓋を開けてみれば、なんてことはない。雑魚だ。
そんな風に余裕をぶちかましていれば、
「サトル!! 避けて!」
「……え?」
遅かった。
目の前には、あの【チェーンソー】が――!
ギュルン、ズバババババババババッ!!
そんな鈍い音が俺の体を引き裂いていき、
俺の体は真っ二つどころか、バラバラになって…………
「……」
死んだ。
『――――――』
走馬灯なんてものも流れず、一瞬で。
……これが死の瞬間、死の味。
死の苦しみ、悲しみ。冷たさ。絶望。
呆気なく終わっちまったかー…。
あーあ、こんな事なら、みんなとデートしておくんだったなぁ。せめて、頭を撫でてやるくらいはしてやりたかった。
……それと、せめて『好き』くらいは言ってやれば良かった。
俺は一度だって、彼女たちに『好き』を言ったことがなかったから。
それが、それだけが心残りではあった。
◆ ◆
――堕ちる。
闇に――堕ちる。
深淵の底で――【死】――が静かに、
――そして安らかに。
◆ ◆
俺はそこに堕ちて、終わりを迎えるのだろう。
『……理』
光。
闇の中に【光】があった。
この声。
優しい声。
いつしか、あの【虹の空中庭園】でも聞こえた。
俺の名前を呼んでくれた、優しい声。
「……ん。メサイア。お前は幻か。
ああ……なんだ、最後に天国へ連れていってくれるのか」
『いいえ。私は、メサイアではありませんよ』
「え……だって、その容姿、髪の色、どう見ても」
『はい。顔はみんな同じ。それに髪の色は、私は元々『金』ですから。こうなります』
――と、目の前にいるメサイア(?)の髪の色が金色に変わった。
「はい……? あんた誰だ?」
『私は私です。いつもあなたのお傍にいる女神ですよ』
「え? えぇ?」
さっき、メサイアじゃないって……
どういう事?
『私たちは、元々ひとつの存在だった。
ですが【死の呪い】に抗うためには、この方法しかなかったのです。なので、私は我が子として『メサイア』、『アルラトゥ』を生み出した。……それから、あなたと【契約】を果たした。ほら、この【黒い魔導書】覚えていますか』
「あ……あぁっ!! その【黒い魔導書】! 見覚えがあるよ。はじめて、あんたと出会った時に持っていた! そうか……あんたが、俺と【契約】したんだな」
『ええ、あの時――【ビフロスト】で【契約】したのは私。
ですが、私はこの【黒い魔導書】に封印した【死の呪い】の影響で霊体。動けなかった。ですから、我が子、メサイアをあなたの元へ行かせたのです』
そういう事だったのか……。
確かに、口調が違うなとは思った。けど、あんな場面だから、そんな風にしていたのかと思っていたが……そうか、あの初めに会った女神は……
このヒトだったのか。
『……私は、メサイアは、お役に立てているでしょうか』
「――ああ、俺に似て超絶面倒臭がりだけどな。むしろ、俺より面倒臭がりじゃないかって思う。けど、可愛いところも多いんだ。アイツ、ああ見えて、俺の為に必死になってくれてる。そんな事、もうずっと過ごしてきて分かってるけどな。
……俺は、メサイアが好きだよ。大好きだ」
『良かった。私も彼も、なにも間違ってはいなかった』
「……それで、俺とまた再契約してくれるのか?」
『いえ、その必要はありません。なぜなら、私とあなたの契約は、まだ続いているのです。では……【解放】しましょう』
「【解放】……って?」
次の瞬間だった――
<< LIMIT BREAK >>
あ……これって、どこかで見覚えが!!
あたふたしていると、目の前にスキル詳細が表示された。
【リミットブレイクⅠ】
効果:全ステータス+3000、全スキルレベル+5、死亡時、一度だけ蘇生できる。蘇生後、【リミットブレイクⅡ】アンロック。
『理、あなたの【リミットブレイクⅡ】をアンロックします』
「あ……あぁっ!! そ、それ前にメサイアが【解放】してくれた……そっか。『Ⅱ』なんて段階があったんだっけ。すっかり忘れていたよ!」
【リミットブレイクⅡ】
効果:全ステータス+6000、全スキルレベル+10、クリティカル+30、全てのモンスターに対する物理・魔法攻撃を50%アップ、ボス属性モンスターに対するダメージ+300%、敵にダメージを与えた時、一定確率で【猛毒】【凍傷】【出血】【麻痺】【幻覚】【爆睡】【混乱】【火傷】【沈黙】【鈍足】【忘却】【石化】【魅了】【混沌】【気絶】【壊死】の状態異常を与える。
与えたダメージのHP及びSPを10%吸収する。
吸収したHPとSPの余剰分は、パーティメンバーに限り譲渡可能。
死亡時、一度だけ蘇生できる。蘇生後、【リミットブレイクα】【リミットブレイクβ】【リミットブレイクγ】アンロック。
このリミットブレイクスキルを取得した場合【リミットブレイクⅠ】と【リミットブレイクⅡ】は消滅する。
「え~……っと……説明なげぇー!! つーか、強すぎんだろ!?」
ええい、なんでもいいや。
ボスモンスターぶっ倒せるなら!!
『理。どうか、神王様にお会い下さい。そして、我々を――』
◆
唐突に視界が戻った。
俺は、いったい。
……仰向けになって倒れていた。
「……戻ってる。バラバラだった体が」
「サトル! あんた、どうして蘇生を……。でも本当に良かった。私、あんたがいなかったらどうしていいか……」
メサイアが俺を膝枕していた。
普段、絶対見せないような、悲し気な表情で見下ろして。
「なんだ、メサイア。泣いてるのか。どうせなら、笑っていてくれよ」
「ばかっ。心配させておいてよくも……。あの時、リースは泣き崩れるし、フォルとベルは私たちを守るので精一杯だったから……。それは今もだけど」
「なっ……」
よく見ると、リース、フォル、ベルがまだ果敢にボスと戦っていた。
飛び交う大魔法。
一糸乱れぬ奥義の連続コンボ。
俺たちを守ってくれる大きな盾。……あれは、ベルか。
「お目覚めかい、理くん! わたしは復活するだろうと、少しだけ信じていたよ」
「心配かけたな! 俺も今すぐ行く」
「ああ、それじゃ……リースちゃんと、フォルちゃんちょっと引いてもらおうか。わたしが盾で敵の【チェーンソー】を防ぐ。その間に奥へ退避するから、あとは理くん。何とか出来るね?」
「ああ、メサイアも頼む……!」
俺は、息を吸い込み――
「リース!! フォル!! 心配かけたな! 俺は生きてるぞ!!」
「サ、サトルさん!!」「兄様!!」
二人とも、やっぱり泣いていた。
「言い訳はあとで沢山させてくれ!
だから、この場は俺に預けてくれ。ヤツをぶっ倒す……!」
「分かりました!」「了解です!」
ベルの巨大な――巨大すぎる盾に守られつつ、リースとフォルはボスモンスターとの距離を取った。取るものの、敵の攻撃は止むことはなかった。
……まったく、あの【チェーンソー】凄まじい威力だ……!
地面があんなに抉れて……。
だが、盾も強靭な防御力を誇っている。固い、むちゃくちゃ固すぎる。
ベルの盾はどうなってんだ。でも、アレのおかげで仲間たちは救われていたんだろうな。
ナイスシールド!
ボスが孤立したタイミングを見計らい、俺は起き上がり、前へ出た。
今度こそ、ヤツを仕留める……!
「きやがれ、この悪魔めッ!!」
『――――ィィィィィ!!』
ヤツの【チェーンソー】が接近する。
今なら見える。
そうか、あの野郎……【チェーンソー】を超スピードで三日月状に振り回し、その衝撃を飛ばしてきていやがったんだ。それで俺の体が一瞬でバラバラに。
だが、今なら捉えられる……!
なんたって、俺には――
【リミットブレイクⅡ】
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおッッ!!!!!!」
『血の煉獄』
『ニトロ』
『ホーリーブレード』
『ヒドゥンクレバス』
ありったけの【オートスキル】が発動する。
全ての技が【チェーンソー】を飲み込み、燃やし尽くす。瞬きひとつの間にも、武器を完全破壊。――やがて【オートスキル】はボスモンスターを直撃。
連鎖爆発を幾度も起こし――
【Good Job!!】
【Congratulations!!】
一撃で『エンケラドゥス』を沈めた。
「…………」
わぁぁぁ~と、みんな後ろから歓声をあげてくる。
俺は、ただ立ち尽くし――
「クク、ククク…………。
フフフ、フゥーハハハハハハハハハハハハハッ!!」
あまりに己が強くなりすぎてしまって、
豪快に、爆笑してしまった。
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