第376話 裏切者野郎の素顔とは……?
突発的に参加した作戦会議は終わり、俺たちは城内の部屋を借りれる事になった。
「それでは必要ならいつでも呼んで下さいね」
と、アーサーは爽やかな笑顔で去った。
なんていうか……色々育ったな、彼女。
「……サトル。アーサーに見惚れてない~?」
ぬっと俺の目の前に現れるメサイアさん。おっと、そうだな。突っ立っている場合ではない。
「みんな、今日はもう時間も遅い。夜になっちまったし、朝出発だな」
「それはいいんだけどさ、あのパンケーキはどうする?」
メサイアもついにフルネームではなく、面倒臭くなったのか『パンケーキ』と呼ぶようになっていた。長くてややこしい名前だもんな。
――と、そうだな。
「リースが復活してくれれば、一旦、レメディオスに戻るんだが――」
なんて口にした瞬間だった。
通路の向こう側から金髪のエルフがこちらへ走って来ていた。あのフワフワモチモチのエルフは間違いない。
「サトルさーん!!」
「リース。やっと復活してくれたか」
ぴょんと飛び跳ねてくるリースを俺は受け止めた。
「良かった。パンケーキをレメディオスに送りたかったんだよ」
「パ、パンケーキ?」
「ああ、元世界ギルドのメンバーで、情報を横流ししていたアホさ。そいつを捕まえたんで、ぼむぼむに渡せば報酬がたんまり貰える」
チェーンでグルグル巻きにしている男を指さす。通路の隅で伸びてるアレこそが、レクゥィエスカト・イン・パーケ。そういえば、あの不気味な仮面はなんだろうな。
「あ、あの方ですか」
「そ。リース、悪いんだがレメディオスへ一度戻りたい。あの男を引き渡したいんだ。テレポートをお願いできないかな」
「サトルさんの頼みなら構いませんよ。あたし、サトルさん、そのパンケーキさんだけでいいですか?」
「おう。メサイアとフォルは置いて行く」
そう言うと、リースは何故か可愛くガッツポーズしていた。
「……やった」
「ん?」
「い、いえ……!」
なんだか顔が赤いような。まあいいか。
「それじゃあ、メサイア、フォル。悪いが留守を頼む」
「ええ、待ってるわ。アーサーさん達もいるし大丈夫なはずよ」
「兄様。姉様の事はお任せください」
少し心配だが、パンケーキを引き渡さないと金にならんしな。これで大金ゲットになるはずだ。
「よし、リース頼む」
「はいっ。サトルさんお手を」
手を繋ぎ、テレポートを開始した。
◆
――レメディオス――
裏切者・パンケーキを担ぎながら、俺はレメディオスに舞い戻った。もちろん、リースも連れて世界ギルドへ戻るのだが。
「……た、大変だ……」
「ど、どうかしたんですか、サトルさん。なんだか、とても深刻そうな顔をしていらっしゃいますけど……!」
「今、ヘデラとも同期しているんだが……エコがまた腹を下した。サーモン食いすぎた」
あっと口を塞ぐリース。
「エコちゃん、サーモン好きなんですけど……お腹が弱い子なんです」
飼い主というか召喚主のリースが気まずそうに言った。そうだ――そういえば、リースが召喚したんだよな。
「なあ、リース。エコって、その正体はロリエルフなんだが……どういうヤツなんだ? 本人は話したがらなくてね」
「彼女は……そうですね。大変、長い時間を生きられているエルフの頂点に立つ御方です。本当の名前はグレイス様です」
――ああ、そうか!
「エコってリースが付けた名前だっけ」
「そうです。本当の正体をバラすわけにはいかないと、ヘルサモンの契約召喚時に約束を交わしたんですよ~」
なるほどね。エコは仮の名で、本当はグレイスと。ちょっとだけ、エコの事が分かってきたな。ヘンなヤツだとは思っていたけど、その実、最強のエルフだったとはな。
「教えてくれてありがとう。先を急ごう」
「いえいえ」
◆
世界ギルド・フリージアへ到着。そのまま屋敷の扉を叩いて反応を待った。少しすれば、ギルドメンバーのエイルが顔を出す。
「久しぶり、エイル」
「わぁ、サトルさん! お久しぶりです!」
ぼむぼむの奥さんであるエイルさん。
つまり、トーチカのお母さんに当たる人なわけで――あの桃色の髪は、母親譲りってワケだ。とはいえ、トーチカに関しては更なる未来の話。
今はまだ、エイルに子供はいない。
「ぼむぼむの用事があるんだが」
「マスターにですか、分かりました。こちらへ」
中へ案内され、会議室へ向かっていく。
部屋の中には丁度、筋肉野郎のぼむぼむの姿が。俺よりも筋肉モリモリのマッチョで、その貫禄ありすぎるボディが視界に入るだけで冷や汗が出るぜ。
「よう、ぼむぼむ」
「来たか……サトル。お前を待って――む? その担いでいるゴミはなんだ? って、人間か! チェーンでグルグル巻きじゃないか! 人さらいか?」
「ちげーよ。これは裏切者のパンケーキ……じゃなくて、レクゥィエスカト・イン・パーケだ」
そう言うと、ぼむぼむはガタッと席を立ち驚く。そりゃ驚くよな。そうでなくちゃ、苦労した意味がねえ。
「ま、まさかレクゥィエスカト・イン・パーケとは!!」
「ああ、だから報酬くれ」
「……その前にその仮面を外させてくれ。素顔を確認したい」
そや、俺もパンケーキ野郎の素顔を見ていない。そうだな、コイツの顔を拝んでからでも遅くはないだろう。
ぼむぼむがパンケーキの仮面に手を掛ける――。
「こ、こいつは……!!」
まさかの素顔に俺も皆も凍り付いた――。
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