第368話 死の招待状
「にゃああああああああああぁぁ……!」
突然だが、エコが叫んだ。
テレポートを繰り返し、敵を翻弄してくれている。今が最大のチャンスだ。
「助かったぜ、エコ! お前のお陰でソクラテスの気が逸れている!!」
俺は一気にダッシュしてヤツに接近。
「せ、聖女ヘデラ貴様ぁぁぁあぁ!!」
「ソクラテス、女王様は返して貰うぞ!!」
「無駄だ! お前如きが私の身体に触れられるワケがない!! 今までの戦闘でも貴様は指一本触れられなかった……つまり――」
「ゴチャゴチャうるせええよ!! エコ、今だ! 空間系はお前の十八番だろう!」
「ええ、この時を待っていましたですにゃ!!」
「あのテレポートを繰り返していたエルフか!」
驚くソクラテスの目の前にエコが出現。彼女の両手が灰色に染まっている。なにかの付与魔法らしい。
そして、エコはソクラテスのボディに手を突っ込み、直ぐにカルミア女王を救出した。
「ぐああああああああ!!! きさま……、エルフ貴様あああああああああああああああああ!!!」
発狂するソクラテスに対し、俺はこの時、この瞬間に怒りを爆発させた。
「これで、最後だああああああああああああああああああああああああ!!」
ネメシアからホワイトエンチャントも戴き、更に更にトーチカと息を合わせる事にした。
『エターナルスパイラルショット!!』
『超絶憤怒のエンデュランス――――――!!!!!!!!!』
飛んでいく螺旋。
魔弾と怒り。
瞬く間に到達する膨大な魔力は、ソクラテスに激突し――けれど、ヤツもそれに耐ええて。
「ふがふがふがふがふがぁぁぁああぁぁ、ここで私が死ぬわけにはぁぁあぁ、こ、このままでは天帝様の、闇の訪れがががががあ……身体が、身体が崩れていく、あぁぁぁあああ、あああぁぁぁ、ぎええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ………………」
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――ソクラテスは完全消滅した。
「……ふぅ、終わったか」
終わったと同時にレメディオス騎士団の騎士たちも集結し、喜び合った。
「騎士団長は裏切者だったんだ……」「あの大幹部と繋がっていたとか」「新たな騎士団長が必要だな」「やっぱり聖女ヘデラ様はすげぇよ」「あ、あれは女王様では!?」「あれ、本当だ……どうして騎士団に」
意識を取り戻すカルミア女王。
「こ、ここは……ああ、そうか。余はあの大幹部に捕らえられておったのじゃ。礼を言う、聖女ヘデラ、ネメシア、トーチカ、エコよ。そして、騎士団の皆の者」
「「「「「おおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
まあ、団長意外は騙されていたわけだからな。
とにかく、これでレメディオスは無事に……。
『――――ほう、これで大幹部も残り一人というわけだ』
だが、突然声が支配した。
空から声が。
「な、なんだ!?」「変な声が響いている!」「意識に直接語り掛けてくるような……」「うわ、気持ち悪い」「いや、これってまさか」「おいおい」「ありえんだろ」
騎士達も気づき始めているようだ。
「ねえ、ヘデラ……この声って」
「ああ、天帝だ」
ざわざわと現場に緊張が走る。
みんな初めてこの声を聞くのだろう。
俺は一度だけ聞いているけどな。
『理よ……いや、アルクトゥルスと言った方がいいかな、聖女ヘデラよ。そして、お前がその名を冠するのであれば、私はバテンカイトスだ。それから、お前の分身の元となった聖女……あれこそフォーチュンの申し子。
つまり我々原初は元からこの現世に集っていたのだよ。一見、不完全に見えた世界が、実は完全な……完璧な世界だった。けれど、それをお前たちが破壊しようとしている。どうして、受け入れない。この素晴らしい世界を――」
「素晴らしい? ふざけるなクソ野郎。俺の人生を奪っておいて、いけしゃあしゃあと! いいか、天帝だか何だか知らねえけどな!! 何処かでほくそ笑んでいるお前をいつか引きずり降ろしてぶっ飛ばしってやるよ。この拳でブン殴ってやる!」
『そうか。では……お前たちに分からせるため、一度だけ手合わせしてやろう。姿は見せられぬが、影の姿で十分だ』
ごうっと空が黒く染まると――
その中から人影が。
影そのものが現れた。
「小さな、影……」
ネメシアがつぶやく。
「来やがる……!」
ズンっと降臨してくる影は、少年かあるいは少女くらいの背だった。それほど大きくはない。
『……この一撃を耐えてみるがいい』
「なに!?」
俺は構え――――――
――――――遅かった。
『――――――イベントホライゾン!!!!!!!』
闇が一瞬で俺の方へ到達して、逆にぶっ飛ばされた。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
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意識を失ったらしい。
「……ここは、どこだ」
「ヘデラ、貴方は死なないわ」
「その声、ネメシアか」
「うん。貴方はわたしが守るもの」
頬に手が触れる。
女神の白い手が、俺に纏わりつく闇を拭った。
「……ネメシア、俺」
「ごめんね、知っていたのに――」
それから場面が急に反転して、白い視界になった。
「俺は……敵の闇エネルギーに飲まれていたのか。でも、まだ死んではいない。ネメシアの女神の力が働いたんだ……ならば反撃のチャンスはここしかない」
この暗闇の中なら、これが使える……!
『世界終焉剣・エクスカイザー!!!!!!!!!!』×12万人俺
超絶分身した俺は、終焉の力を放った。
一気に『闇』を押し返し――あの影のバケモノへ押し出した。いける、いけるぞ……勝てる、勝てるぞ!!
『……ほう、まさか、この世界に俺の剣がまだ残っていたとはな。世界終焉剣か……懐かしいモンを使ってくれるじゃねぇか――――』
影は赤く笑うと、吹っ飛んでいき――消滅した。
「…………野郎、笑ってやがった。……フフ、フハハハハハ……そうか、ヤツも笑えるんだな」
◆
――三日後、家でのんびりしていると『死の招待状』が届いた。
「ヘデラ~、死の招待状が届いたわよ~」
まるでお母さんのように言って来るネメシアさん。お前は俺の母さんかよという常套句は敢えて言わないでおき、俺はその招待状を手に取った。
「へえ、なんで届いたんだ?」
「さあ? でも、死の要塞国・デイって天帝の隠遁している場所だって噂されているわよね。行くの?」
「隠遁なのか? ある意味近いかもしれんが」
三日前、俺はヤツと初めて衝突した。
ヤツには『闇』の力があるようだ。
それも強大な……ヤベェヤツだ。
今の俺で勝てるのか?
やっぱり、スターダストを使うしか……いや、ヤツには効かないらしいし、でも、使ってみなきゃ分からないよな。一応、懐に忍ばせておくけどな!
――とにかく『死の要塞国・デイ』へ向かってみるのもいいかもしれない。エロスの方は男の方がそろそろ蘇生するはず。そっちは任せよう。こっちは死の要塞国だ。
「行こう、ネメシア」
「うん、じゃあ皆も」
自然と手を繋ぐ。
ネメシアに引っ張られ、俺はつい口元が緩む。
ああ……やっぱり、ネメシアは『女神』だ。




