第356話 時の牢獄 - 心を惑わす亡霊少女 -
「ラグラス、亡霊少女と会わせてくれ」
「時は満ちた。いいだろう、時の牢獄を解放し、セルリアを呼び出す。だが、気を付けろ。彼女は恐ろしく強く、人間を惑わす力を持つ。油断すれば、取り込まれ、命さえ落とすぞ」
強く警告するラグラスは、杖を取り出す。
「最終確認だ。本当にいいのだな」
「ああ、天帝の情報を得る為だ。やってくれ」
「……分かった。では、二人共離れて」
俺とメサイアは、少し離れ状況を見守った。
ついにご対面か。
「牢獄を……亡霊を召喚する」
部屋の中央に魔法陣が展開される。そして、生えてくる牢獄というよりか、鎖。鎖に巻かれた少女が召喚された。
小さな人影。
手足を何十にも縛られ、鉄球のようなモノさえ取り付けられていた。逃げられないよう徹底的に拘束したようだ。
こんな少女にな。
『…………』
現れた少女は、短い黒髪で、緑色の瞳をしていた。……あれ、この顔どこかで見覚えがあるような。つい最近、戦った相手にいたような――そうだ。間違いない。
「……あれは!」
「サトル、この子……」
「ああ、オプファ……またの名をジェネシスだ。どういう事だ、これ」
困惑していると、ラグラスが答えた。
「彼等、あるいは彼女達は『バテンカイトス』の直系だから、女子は、顔がよく似ているらしい」
「バテンカイトス?」
「原神さ。この世界の一番最初の神様。アルクトゥルス、フォーチュン、バテンカイトス……この三神が宇宙を創造された。正確にいえば、アルクトゥルス様だが。その中の神様、バテンカイトスは、独自の世界を創られたようでね。まあ、彼女が答えてくれるさ。そうだろう、セルリア」
『…………ラグラス。あたしをずっと縛り付けられると思うな。今にパパは取り戻しにやってくる』
予想とはかけ離れた落ち着きっぷりに、俺は驚く。なんだ、この少女の余裕っぷり。というか、クールな性格なのだろうか。
「ヤツには見つけられんよ。時の牢獄は、位置情報や魔力の痕跡を一切合切シャットアウトする能力がある。だから、絶対に見つけ出せない。
とにかく、サトル。あとはキミに任せるよ」
委ねられ、俺はセルリアに話を聞いた。
「セルリア、俺はサトル。スターゲイザーのせいで俺は散々な目に遭った。そこで教えて欲しい。ヤツの目的とか居場所とか教えてくれ」
『……理』
ぼそっとつぶやくセルリアは、俺を睨む。
「分かるのか」
『そっちは女神ね。ふうん、二人から原初の気配を感じる』
「――え、私が?」
……そうだった。メサイアは、事情を知らないんだ。彼女は、あのアルクトゥルスとソフィアの娘。俺は、それを話した事がなかったかも。説明しておくべきだった。今度、話そう。
「メサイア、その話は後で俺がする」
「う、うん」
気を取り直して、俺は改めて聞いた。
「教えてくれ、セルリア」
『教えるワケないでしょ。パパを裏切れないし、裏切るつもりもない。でも、あたしもこのまま縛られたままも退屈なの。亡霊なのに、これだけは抜け出せなかった……ならば、居場所くらいは教えてあげてもいいかもね』
そういえば、こいつは霊なんだよな。今更だが、この時の牢獄は、霊体すら捕縛するというわけだ。
「じゃあ、教えてくれないか」
『う~ん、どうしようかな。パパに怒られちゃうかも』
「それなら条件をつけよう」
『条件?』
「居場所を教えてくれたら、お前を解放する」
そう俺が言うと、ラグラスとメサイアが慌てた。
「なっ……! なにを言っているんだ、サトル。彼女を捕らえるのに多くの仲間が犠牲となり、散ったのだぞ。レッドウォーで、どれほどの血が流れたと思っている!」
「でも、居場所が分からないと、いつまで経ってもヤツを倒せねえよ。なら、こいつを自由にするしかないんじゃないか」
ラグラスは頭を横に振って、尋常じゃない顔をしていた。
「自殺行為だ……また犠牲が増えるだけだぞ」
「それはどうかな。話してみれば分かるかもしれんだろう。とにかく解放して、話はそれから――」
「サトル、お前、もしかして彼女に操られているのではなかろうな!? さっきから言動がおかしいぞ! メサイア様もうそう思うでしょう!?」
「え、ええ……サトルらしくないわ。ねぇ、しっかりして!」
二人共何を言って――――ハッ。
自身を殴って目を覚ました。
「……っぶえええ! 心を惑わされていたのか、俺」
『あ~あ、惜しかったなあ』
「セルリアお前!!」
『惑わしの力よ。居場所くらいなら教えても問題ないからね。どうせ、パパには勝てないし』
……そういう事かよ。
この亡霊、やりおる。
今日はここまでの方がいいな。
また心を惑わされる可能性があった。
俺は、ラグラスに合図した。
「時の牢獄を鎮める。――セルリア、眠れ」
『ちぇ~、またあの中かぁ……はぁ、たい焼き食べたい』
そう言い残して、セルリアは消えた。
……たい焼きねえ。
「なんの成果も得られなかったけど、助かったよ、ラグラス」
「キミの乱心には驚いたけどね、さすがセルリアだよ。彼女はそういう魔法に長けているからね」
「それじゃ、セルリアとは話せたし、満足したよ。帰る」
「分かった。サトル、メサイア様。また必要なら言ってくれ」
手を軽く振って、ラグラスと別れた。
次回は『たい焼き』を手土産に来よう。
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