第354話 温泉はじめました - 冒険者殺到で大儲け -
温泉とは、人間の身体と心を癒す力を持つ。
温泉とは、風呂上りに牛乳なのである。
ほんわか白い湯気が立っている。
宿屋を【建築スキル】でリフォームし、木造で固めた。DIYには三日を要し、今や和風の温泉施設と化していた。
檜をふんだんに使った落ち着きのある浴槽。完成記念に俺たちは、マッタリ湯に浸かって満喫中。幸せだねッ。
「はぁ……気持ちいぜ。そうそう、効能は、疲労回復、神経痛、筋肉痛、肩こり、リウマチ、美肌作用っと、わざわざ湯の成分もスキルで変えたんだよ。エコの力で」
「ヘデラ、すっごく拘ったわね。確かに、この深緑のお湯って綺麗だし、効き目がありそうね」
上機嫌のネメシアは、自分の肌に湯を塗りたくるようにしていた。満足しているようで、俺も嬉しい。
「物珍しく斬新に、話題性がないとお客さんも来ないし、ノーマル温泉では、直ぐに閑古鳥。これだけ手間と情熱をかければ、自然と噂も立つ。これで、俺はレメディオス一番の温泉屋ってワケさ」
我が温泉は、外装から内装、魔導式マッサージ機、牛乳販売、卓球やダーツが遊べる娯楽施設など、可能な限りの贅沢を尽くした。
「素晴らしいですね。……なんだか、私、お酒を嗜みたくなりました」
黒猫状態のエコが、頬を赤らめながらも泳いでいた。犬掻きならぬ猫掻きだな。
「ヘデラ~、こっち滝があるー!」
珍しくテンションのおかしい――もとい、高いトーチカがきゃっきゃと子供のように燥いでいた。
「走るな~、危ないぞ。ちなみに、その滝も温泉の一部だ! 所謂、打たせ湯ってヤツだよ。マッサージにもなるんだぜ」
「すごーい! 背中が痛いけど、すごーい!」
あんな目をキラキラと輝かせて。うん、作った甲斐があったってモンだ。
「ねえねえ、ヘデラ」
指で小突かれて振り向くと、ネメシアだった。頬を朱色に染め、肌がツヤツヤしている。思わず見惚れてしまう。
「なんだ?」
「えっとね、いつもありがとね」
「……お、おう」
超絶女神級の、いや女神なんだが――あまりに眩しい笑顔を向けられ、俺は耐えられなくなって、湯に潜った。……そのアルティメット笑顔はズルすぎるよ。
◆
「おぉ、こりゃ凄いな」
翌日――店をオープンすると、温泉の噂を聞きつけたお客、冒険者が殺到した。その数、数百人は優にいるだろう。
「これは大忙しになりそうね。がんばろうっと」
腕を捲るネメシアさんは、受付についた。まさかの受付嬢を担当してくれる事になった。バイトを募集するつもりだったのだが、彼女自ら率先して挙手したのだ。
「負担を掛けてしまって、すまんな」
「いいのいいの。いつもヘデラにはお世話になりっぱなしだし、たまには、わたしも活躍しないとね」
爺さんや婆さん、世界ギルド・フリージアの知り合い、冒険者などなど顔見知りも温泉に来店した。今日の売り上げは期待大だな。
――それから時間が経過していくと、様々な人々から「良かった」「最高だった」「幸せな気持ちになれた」「また来るぜ」「毎日入るよ」「すげぇよ、ヘデラ様」「これが温泉かぁ」などなど、激励を戴いた。
満足度100%であった。
「おぉ、皆さん、大満足で帰られていきますにゃぁ。ヘデラ様、この温泉事業は、もっと拡大しても良いかもしれませんね」
俺の頭の上でで毛繕いするエコは、そう提案した。……ふむ、他の国とかにも作ってみるか? どんどん温泉を当てていけば、いずれは、石油王ならぬ温泉王になれるかもな。
――またまた時が経って、夕方。
こんな時間になってもお客は、殺到した。
売り上げも予想を上回っており、初日にして大儲けだ。
そんな中――。
「来たわよ、ヘデラ」
「……メサイア、リースにフォルも! みんな、来てくれたのか!」
「うん、温泉始めるって言った時はどうなるかと思ったけど、予想以上に展開しちゃったわね。これは驚きだわ。どんな奇跡を使ったの?」
「建築スキルさ。俺も持っているんだよ」
意外そうに驚くメサイアは、顔を近づけて「え、サトル、私の特権である建築スキル持っていたの~。ズルーイ」と、やや不満気に言った。
「悪いな。ちょっと前に闇オークションで獲得したんだよ。この世界じゃ、スキルの売買なんて珍しい事ではないらしいな」
「あ、そっか。まあいいわ、じゃあ、私たちはお風呂行って来るわね」
「おう、ごゆっくり」
手をヒラヒラ~として、歓迎した。
俺の横を通っていくメサイア、リース。しかし、フォルが立ち止まる。
「兄様……あのぅ」
「どうした、モジモジと」
「わたくし、兄様成分が大変不足しているのです……ですから後程」
「俺をビタミン不足みたいに言ってくれるな。けど、分かった、あとで存分に甘やかせてやるよ」
その俺の発言に、フォルは瞳をウルッとさせ、けれども、聖女スマイルで「大好きですよ、兄様」と言ってメサイアの背中を追いかけて行った。
「……まったく」
これで『温泉開発』は無事に完了した。
のだが、手広くいくのもアリかもなぁ。
今後のプランを練りながらも、俺は手にしていた牛乳を味わった。
「うめぇ……」
これが『幸せ』の味か――。
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