第346話 偽貴族 - ファルシオン侯爵の作戦計画 -
目を開けると、ネメシアが泣いていた。
涙の雫がポタポタと俺の顔に落ちて来て――ああ、心配させちまったんだなと、申し訳ない気持ちになった。
「すまねえ、ネメシア」
「……ううん、いいの。ヘデラが無事で……」
膝枕された状態でぎゅっとされて、俺は何よりもネメシアの無事に安堵した。……良かった。
「で、どうなった」
「うん、わたしが撃退した。女神の力は悪のみを滅する力を持つの。忘れていたわ……ごめんね。でも、咄嗟だったから吹き飛んだだけだと思う」
「いや、ネメシアの所為ではないさ」
そうネメシアに責任はない。
悪は、あのファルシオンだ。
ヤツは、まだ何処かで悪だくみを続けているに違いない。
「これは計画的な作戦かもしれない。油断はならんな」
「うん、スターゲイザーの可能性はあるかも」
ネメシアから頭を撫でられていると、白髪を揺らすメイドール氏が肩身が狭そうに現れた。いつになく窶れているような。
「……申し訳ない、ヘデラ様」
「あんた、メイドール。無事だったか」
「ええ、お陰様で……ネメシアさんには感謝しております。ですが、ファルシオン侯爵……いえ、あの偽貴族はまたやって来るかもしれませんな」
偽貴族?
「まさか、あの頭でっかち侯爵って」
「偽名でしょうな。そんな貴族はレメディオスで聞いた事がない。つまり、何かしらの犯罪組織の可能性が」
もしくは、スターゲイザーに関連する者たちか。
「……」
「とにかく、ヘデラ様。宿屋は譲渡しますが……やはり、ファルシオンが気掛かりです」
「分かった。まずはヤツを何とかしよう」
「ええ、このままではメイドール家も狙われるでしょう。頼みます」
メイドールは軽く会釈して、去った。
「よし、いっちょ逆瓢箪のファルシオンを締め上げるか。反撃開始だ」
「だめ。ヘデラはまだケガしているのよ、安静ね」
「ネメシア……」
ぎゅっとされて、動けなかった。
こうも優しく看病されると即座には動けなかった。まあいいか、慌てる必要はない。ファルシオン、次に会った時は容赦しないからな。
◆
一旦、邸宅へ戻った。
玄関前に黒猫の姿が。エコだ。
「にゃー」
「おう、エコ。今日もサーモン食ってるか?」
「いえ、しばらくは断食します。お腹の調子が悪いので」
そや、こいつやたら腹壊すからな。
「そうか。なんか変わった事は?」
「変わった事? そうですねぇ、トーチカが住民の方々を救っていました。最近、ファルシオン侯爵と名乗る輩が悪事を働いているとか……」
「そ、それだ! ファルシオンだよ。俺の所にも来やがったんだよ……何者か分かるか?」
エコは俺の肩に乗って来た。
「恐らく、スターゲイザーかと」
「……マジか」
やっぱり繋がりがあるんだな。これは由々しき事態だ。早めに手を打たないと、取り返しのつかない事に成りかねない。
などと思考していれば、家の中からメイドが現れた。この桃髪・ギザ歯は、トーチカだ。
「……ヘデラ、それにネメシアとエコも。どうした」
相変わらずの虚ろ目。
これがたまらんのだが。
「トーチカ、住民を暴漢から守ったらしいな」
「うん、さっき女性が二人襲われてた。変な服装をした男たちが金品を強奪しようとしていたので、成敗した」
……クソ、 お構いなしにやりたい放題かよ。
「もう許せないわ……ヘデラ、捜索に行きましょう」
ネメシアは怒りを滲ませていた。
逃がしてしまった事に責任を感じているらしい。さっきは、吹っ飛ばしただけだからな。でも、おかげで俺は救われたんだが。
「そうだな、さっさと捕まえて平和を取り戻そう。そして、温泉を手に入れるんだ」
「「「おおお~~~!!!」」」
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