第345話 東のメイドール家 - 負債額10億セルの宿屋 -
――スラッとした白い手を確認した。
「よし、聖女になった」
俺は『温泉事業』を始める為、ヘデラの視点をメインに切り替えた。その方が色々と立ち回りがし易いからな。
「ヘデラ?」
やや心配そうな顔で俺を見るネメシアさん。
今日も超絶激カワである。
「――いや、ところで、トーチカとエコは?」
「二人はおつかいでしょ。だから、これからどうしようって話」
そうだったな。
「ところでネメシア……なんか、距離近くね?」
顔がすぐそこだった。
吐息が掛かるくらいの! しかも何故かベッドに押し倒されている俺。
「お、おい……」
「ヘデラ、わたし……」
「ダ、ダメだ……!」
「? 何を勘違いしているの。あ~、もしかして、えっちな事されちゃうと思った? ブブー、不正解よ」
「へ?」
「ヘデラのサイズを測るの。ほら、昨日、たまには別の可愛い服を着たいって言うから。スチームパンクは壊れちゃったし、だから、わたしが作ってあげるって約束」
そういえば、そんな約束をしていた。情報の整理が追い付いていないな。とりあえず、サイズを測ってもらい、立ち上がった。
「よし、行くぞ」
俺はネメシアを連れ出し、温泉事業を開始する為に出かけた。
レメディオスを歩いて温泉候補を探す。まあ、アテはある。最近、噴水広場の宿屋が潰れたと聞いた。そこを買い取ろう。サイネリアの金で!
というわけで、宿屋の主の元を訪ねた。
「主は東の『メイドール家』という貴族らしいな」
そこへ向かった。
「ここかぁ」
よくある貴族の家。この前の『ラグラス・アドミラル』よりは小規模だが。あれが異常すぎるんだよな。
「ねぇ、ヘデラ。温泉作ってどうするの? お金儲け?」
「まあな、お金はいくらあっても困らんし」
「それはそうだけど……なんで温泉なの?」
「そりゃ人々を癒す力を持つし、まず、この国には、まともな温泉施設がないからな。俺が始めちまえば大金持ちにって寸法さ」
「そっか! そうね、人々の為になって儲けられるのなら、それは別に悪い事じゃないものね」
うんうんと頷く、ネメシアは顔を輝かせた。
玄関に立ち、ノックをした。
すると丁度、主らしき人物が現れた。
「――――――ウェエエエエエエエ」
「うああああああ!! いきなり吐くな!!」
「す……すまないね。最近、情緒不安定なんだよ。というわけで、私はメイドール。この屋敷の主さ……キミ達は、もしかして、あの噴水広場にある宿屋を買い取りたいのかい?」
「話が早いな。そうだよ、あの土地と宿屋を売ってくれ」
「そうか、そりゃ都合がいい。実は、宿屋の負債がとんでもない事になってしまってね。いわゆる事業失敗ってヤツさ。このままでは、メイドール家は終わりだ……だから喜んで手放そう。ただし条件がある」
「条件?」
「うん。膨大な負債も一緒に譲渡する。それで金はいらないし、差し上げよう」
「マジかよ」
こりゃ驚いた。
だが、負債額をまだ聞いていない。
「肝心の負債額は?」
ネメシアが訊いてくれた。
「10億セルさ。なかなかの金額だろう~…。提供していた飯の不味さが評判でね……クレームの嵐さ。完全な失態だった……!」
おいおい、どんだけ酷かったんだよ。
てか、そりゃ誰も来なくなるわな。
10億なら何とか回収できるだろうと考え、俺は交渉成立へ持っていこうとした。その時だった。
「ちょっと待て。この『ファルシオン家』も忘れられては困るな」
背後から男がやって来て、そう声を上げた。なんだコイツは。
「おぉ、貴方は……誰でしたっけ?」
ファルシオンだかの男はコケた。
「メイドール殿、私だよ、私! ファルシオン侯爵だよ」
「あ、ああ……ファルシオン侯爵でしたか……ん、そんなヤツいたっけな。……え、ちょ、え……うああああああッ!?」
その時、ファルシオン侯爵が指を鳴らすと複数の男たちが現れ、取り囲まれた。
「なっ……」
男たちがメイドールを縛り上げた。
「こ、こいつら……!」
「ねえ、ヘデラ。あのファルシオン侯爵って……本当に存在するの? なんだか様子がおかしくない?」
「そうだな、ネメシア。くっ……こっちも囲まれた」
男たちが俺とネメシアを囲う。
「……そこの黒髪の少女、大人しくしろ」
男の一人がネメシアの触れようとした。
ぷっちーん。
「ネメシアに気安く触れるんじゃねえッ!!」
俺は男の手を叩いた。
すると、ファルシオン侯爵が俺の前に。
「ほう、威勢がいいな、噂の聖女……ヘデラ」
「俺の知っているのか」
「お前は有名だからな。とりあえず、あの宿屋はこの私が貰う」
その瞬間、いきなり俺は腹を殴られた。
「……がはっ!? くっ、ふ、ふざけんな……女の俺にいきなり暴力かよ」
「残念だが、私は男女平等主義なのでね。容赦はせんよ」
コイツ……ありえんだろ。
精神的には男だが、これでも今は超絶美少女の聖女だぞ。許せん……絶対にだ。というか、ネメシアに同じ事をしたら、殺す。ぶっ殺す。
「あの黒髪の少女が随分と大切のようだな……オラァッ!!」
今度はキックが俺の腹部に――。
「――――がぁっ……」
「ヘデラ! どうして戦わないの!」
「この至近距離では、ネメシアもメイドールさんも巻き込んじまうからだよ。……耐えるしかない」
しかも、スターダストはメサイアに預けっぱなし。今は使えない。
「ひひひ、良い顔だぞ、聖女よ。その悲痛、歪んだ表情は私にとってのご馳走だよ。もっと見せろ、もっと、もっとだ!!」
ゲシゲシと蹴りを入れてくるファルシオン。……俺はその度にダメージを覆い、胃の中のモノをぶちまけそうになった。けど、耐えた。
「がぁっ、くっ、ぁ……」
「――――ヘデラ、だめ…………それ以上は、ヘデラが死んじゃう。やめて、やめてってば……もうやめて!!!」
ネメシアが叫んで、涙ながら攻撃を仕掛けていた。
……く、ネメシア。
『シュネーヴァイス――――――!!!!!!』
「「「「「ぐあああああああああああああああああッ!!!」」」」」
ネメシアの女神専用スキルが炸裂し、男達が吹き飛んだ。
……やったか?
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