第30話 聖女スキル - 奥義・覇王爆砕拳 -
レイドボスが出現した……しやがった。
どうやら、俺の『山小屋』に現れたらしい。
大至急で向かうと――そこには、なぜか王様の、ミクトランの姿が。それと、以前、城の前にいた複数のギルドもいた。
そうか、あれはレイドボスの『討伐隊』に選ばれた内の3ギルドだ。だから……みんな異常事態を察知し、集結したようだ。
改めて見ると、どいつもコイツもかなり練度が高い。俺たちと同じようなパーティ構成ってところだ。
「王様! レイドボスは!?」
「それがですね……おかしいのです」
「おかしい……とは?」
「ええ、サトル殿の山小屋の前に駆けつけてみれば、静かなものです。荒らされている様子もない。この湖の畔は美しい景観が保たれている。通常、レイドボスが現れれば、花は枯れ、荒地となり、なにも残らない。ですが、これはいったい……」
どうやら、王様でも分からない事態らしい。
どうなってやがる!?
そもそも、レイドボスは何処に…………
「サトル、小屋の中よ」
メサイアが俺の肩に手を置き、囁いた。
小屋の……中に?
なぜ、小屋の中に。
くそう、中にいられては【運搬スキル】の使用は不可能だ。
「王様、俺は小屋の中の様子を見に行ってきます。だから、もしなにかあったら……」
「ええ。状況に応じて動きますから、そのように討伐隊にも命令を下しておきます。なので、こちらは気にせず」
さすが王様。融通が利く。
しっかし、小屋の中にレイドボスがいる……?
だとしたら、非常に危険だ。
あの、ドラゴンですら大暴れし、大地を破壊し尽くしていた。
だったら【オートスキル】全スキル自動モードで……!
スキルをチェックしつつ、俺はゆっくり小屋に近づいた。
「………………」
出入口前まで来た。
あとは扉を開けて…………
「奥義! 『覇王爆砕拳』ッ――!!」
てぇっ!?
フォルがそんな奥義を繰り出し、俺の横を突風のように突っ込んでいた。
ドゴォォォォォォォォォォ~~~~~ン!
奥義とやらが小屋の扉を破壊し、中にいただろうレイドボスにそれをヒットさせたっぽい。マジか!
フォルとレイドボスらしい影が、小屋の反対側を突き破って外に出てくる。そこから更にフォルは体を素早く捻り――
「奥義! 『覇王天翔拳』!!」
毎度お馴染みの奥義も炸裂させていた。
凄まじい轟音が湖中に広がった。
なんてパワー、破壊力だ。
それに、なんつー動きをしやがる、フォルのヤツ。
人間離れすぎるぞ。
レイドボスを追い出したフォルは、宙を舞いながら、俺の元に戻ってきた。
「おい、この脳筋聖女! 小屋を破壊するつもりか!!」
「ご、ごめんなさいですよ。修理代は必ず体でお支払いを……ですが、家を木っ端微塵にされるくらいならと。どうかお許し下さいまし」
「……ったく。でも、良くやったよフォル。お前の奥義のおかげで、レイドボスを外に追い出せたんだからな。つか、俺の小屋になんで、レイドボスが!?」
レイドボスを吹っ飛ばした場所を確認すると――
そこには、
「…………は? メサイア……?」
「…………」
メサイアそっくりのヤツがそこにはいた。
顔、体形まるで一緒の……。ただ、髪の色は赤みが掛かっている。これじゃあまるで、2Pカラーだな。
いやだがしかし、本物はいる。
リースと一緒にいる。
「お、おい……メサイア。あのお前そっくりのレイドボスは知り合いか?」
「……ええ、少しだけね。そいつは死神でもあり、女神でもある謎多き存在……冥界の死女神・アルラトゥね」
なんだって!?
あのレイドボスが……?
どれ……。
アルラトゥ【Lv.XXXXXX】
<< All Status Unknown >>
……やっぱり、ステータスは読み取れない。
だが、レイドボスなのは確かだ。
メサイアに似ているだけに、やり辛いが、なんであれ。
ヤツはメサイアではない。
顔が似ていようが関係ない。倒すだけだ。
「アルラトゥ……だったか。言葉は話せるのか」
「………………」
アルラトゥは、ただ俺を儚げに見つめていた。
……なんで、そんな目で俺を。
なんだか、魂を吸い込まれるような……そんな錯覚さえ覚える。
なんだか――アイツは。
俺は、なんでアイツを倒したくないんだ……?
メサイアに似ているから?
「サトル。落ち着いて。アイツの、アルラトゥの素顔は誰にも認知できないの。多分きっと、今はサトルの一番想っているヒトの顔に変換されていると思う。惑わされないで」
そういうカラクリかよ。なんとやり辛い……。
しかし、そうか。あれは、レイドボスの幻術ってところか。
こうなったら、一気に【オートスキル】で――。
――遅かった。
アルラトゥの右手が巨大なバケモノの、魔獣のような禍々しい手に変貌させ、それを繰り出し、それが地面を抉った。その恐ろしい爆風、衝撃波がこちらに襲い掛かってきた!
あ……あんなモン喰らったら、一気にHPがレッドゾーンだぞ! 下手すりゃ即死だ。やばい。やばすぎる。
と、あたふたしていると、
「ミレニアム!!」
王様がバリアを展開してくれた! あっぶねえ!
こんな時の王様バリアだな。助かったぜ。
「皆さん大丈夫ですか? このバリアの中にいる限り、ヤツの攻撃は受けません。迂闊な行動は差し控えるように。いいですね」
「………………」
敵はこちらを……いや、やっぱり俺をみつめている。
なんで、俺なんだ!
そんな膠着状態が続いていると……
<< あなたの家、気に入った。あなたの優しさがそこにあるみたいだった。素敵ね。だから、破壊はしないであげたの。
――でも、ね。世界は残酷。とてもとても残酷。あなたは、いずれこの世界の本当の姿を知ることになる。だからね、ひとつ……いえ、ふたつだけ教えてあげる >>
……?
<< メサイアと私は、元々はひとつの存在だった。
だから、きっと、メサイアは幻だとか言って誤魔化したでしょうけど、この姿は正しいの。どちらも同じようで、今は違う。けれどね、いつかはひとつに戻らなければならない時がくる。それまでは、私を守ってあげて >>
なっ……!?
メサイアとアルラトゥが同じ存在だって……?
どういうことだ!?
<< 最後に、倒すべき敵は我々レイドボスではないわ。本当の敵は別にいる。それは、あなたの身近なところにいるかもね。でも、その前に……世界を破壊した方がいい >>
……はぁ!?
こいつ何を……さっきから一体なにを!
それに、リースのテレパシーとはまるで次元が違う、俺だけに【ステルスメッセージ】!? 周りの皆には一切聞こえていないみたいだ。
チクショウ、さっきからアルラトゥは俺に何を!
アルラトゥは俺に微笑むと――
おまけを残して――突然、姿を消した。
「……なんだったんだ?」
ん!?
おまけ!?
『ダークスライム』×10が現れた……!
しかも…… 【Lv.3000】の。
レベル高すぎるだろ!!
「あ、あのレイドボス……とんだ置き土産を! 王様、俺たちは小屋を守る」
【運搬スキル】で収納してもいいが、『破損状態』の物体をミニチュアにすると、更に壊れる可能性が高い。
だからそれは回避したい。このまま守りきるしかないのだ。
「ええ。是非そうして下さい。こちらはバリアを解除して、スライムを討伐しますが、敵はかなりの強さ。サトル殿もいくつか頼みますよ」
「分かった。よし、メサイア、リース、フォル。俺たちは、あの『ダークスライム』を、まずは1体倒す。いいな?」
「オーケー。レベル上げまくってきたから、私も戦うわ!」
「お任せ下さいっ。サトルさんに引っ張って戴いたおかげで、あたしもかなり強くなりましたから! お役に立てるかと!」
「兄様。わたくしの『奥義コンボ』をお見せする時がきたようですね!」
お~、家の事となると、みんなヤル気満々だなぁ。
レイドボスとはやり合うのは厳しそうだったが、こいつらなら。
「よし、みんな。家を守るため、スライム共を倒すぞ!!」
「「「おおおおおおお~~~~!!!!!」」」
仲間や討伐隊も気合を入れるように、叫んだ。
よし、行くぞ……!!
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