第282話 本当の名 - 理の再生と修復 -
ネメシアは全身真っ黒に染まり、倒れた。
まるで毒に侵されたかのように酷い有様だ。
そんな緊急事態につき、トーチカとエコもまとめて抱えて――速攻で邸宅へ戻った。そして、ネメシアを俺の部屋に寝かせていた。
なにがどうなっている。サッパリだ。分からん。一体全体、誰の仕業だ。ついに『天帝』とかいうアホが動き出したのか!?
だが、ネメシアが倒れる際、『ママ』と言っていた。
――ママ?
ネメシアのママ?
いったい誰のことを指している。フォル? リース? ベル? それとも…………そうか。一番大切な人物を忘れていた。
だがこれは、あくまで推測。
本当かどうかは分からんが……『メサイア』の事ではなかろうか。
だとすれば、合点がいく。
もしも、メサイアの意思が介入したというのなら、ネメシアが突然、死神に変わってしまったのも頷ける。
あの例の夢――アイツは、あの時『頼むわね』と俺に言い残して消えた……。俺に何をしろというんだ……? ネメシアは、俺にとってどんな存在なんだ?
そう深く考えた事は無かったな。
彼女は……
俺にとって…………
女神? 相棒? 友達? 恋人? 愛人? 嫁? ただの知り合い?
答えは全部『NO』だ。
――――あぁ、いい加減に認めないとな俺よ。
もう記憶だって割かし戻ってきている。
分かっていたよ、本当は。
まさか、ここが『未来』で、ネメシアが『俺の娘』とか思わんだろう、普通。神の悪戯か? 本当になんの因果だよ。
娘から世話されまくってる俺っていったい……。
――でもま、だからこそ、ネメシアのあの駄々は分からんでもない。そりゃ、せかっく会えた父親だからな。甘えまくりたいだろ、普通。
しかも、こんな超絶美人聖女だぞ。おっさんではない、聖女。魅力満点の聖女。だからむしろ、母親代わりになっていたのかも。
向こうは気づいていたんだろうな、俺の本当の正体とか。
全部、最初から。
でなければ、ネメシアがあんな子供の様な事を言うはずがない。
世界が大きく変化し、天帝とかいう邪悪に支配されようとも、未来が好きになっちまったんだよな。……分かるよ、俺も昔が好きだった。あの星々のようにキラキラしていた時代に戻れれば、どれほどいいか。
でも、今も好きだ。
成長した激カワの娘と会えるとか――最高に幸せすぎだろ。もちろん、トーチカやエコもな。トーチカはともかく、エコはそういえば……リースの召喚した黒猫だったな。
そう思えば、昔の名残は多く存在している。
むしろ、未来から過去へ逆行しているようにさえ思えるような。
少しずつ……本当に少しずつだけれど――『戻っている』気がする。これは誰の意思だろう。……ああ、もう気づいているよな。
俺だよ。
俺なんだよ。
この世界を『戻したい』という欲求とか願望が強く反映されつつある。そうだ、世界を正常な形に戻すだけ。バタフライ効果とかそんなんじゃねぇ! んなもん無視するくらいの力が俺にはある。そう、なにもネメシアの存在が消えるわけじゃない。この世界も消えない。
消えるのは『スターゲイザー』とそれを統括する『天帝』だ。
へっ……なにが天帝だ。ふざけやがって。
すべてを思い出した以上、ぶっ潰してやんよ。
そうだ、俺はやっとあるべき自分へ戻った。
俺は――――
俺の名は――――
彼岸花 理だ――――。
それが、俺の本当の名。
超絶面倒臭がりのおっさんなんだよ。
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